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概要
この文章は、東京都立学校の生成AI(Artificial Intelligence)サービスに関する詳細を述べています。特に、数学などの教科において役立つ機能や、カスタマイズ機能についての説明があります。新しいAIメニューの実装により、教育現場でのAIの活用が進むことが期待されています。
要約ポイント
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LaTeX表示の対応: exaBaseは数式をLaTeX形式で表示できないが、都立AIではそれが可能になったため、数学や理科の授業での使用が容易になった。
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会話ログの共有機能: 生成AIとのチャットを他のユーザーと共有できる機能が実装され、生徒の評価や教師のための活用が可能に。
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カスタムAIの実装: 教員があらかじめ設定したプロンプトに基づいて動作するカスタムAI機能が追加され、教育に特化した機能が強化された。
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AIメニューの提供: 教育用途に特化したカスタムAIの機能が「AIメニュー」として提供され、共有が可能。
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AIひろば: 教科や校務ごとにAIをカテゴライズし、生徒が学べる環境を整備。
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ふるまい設定の切り替え: 複数のふるまいを設定し、状況に応じて切り替える機能が実装されたが実用性には課題がある。
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テキストデータ参照: 教科書データなどの過去資料を登録し、共有可能な機能が提供され、教育現場での活用が期待されている。
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AIの細かなカスタマイズ: 過去のメッセージ数や生成トークン数を調整できる機能が実装され、教育現場における利用が多様化される。
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今後の課題: 音声入力などの機能が未実装のため、語学教育やブレインストーミングには不便を感じている。
- 試行錯誤と今後の実践: 教师が新しい環境を試し、実践と研修を通じてAIの活用方法を模索していくことが重要視されている。
このように、東京都立学校の生成AIサービスは教育現場での具体的な活用が期待される機能を豊富に持っており、今後も進化が見込まれています。
LaTeX表示
ChatGPTやGeminiといった一般の生成AIでは当たり前ですが、exaBaseは数式をLaTeXで表示することができませんでした。
a から b までの関数 f(x) の定積分の数式
例えば定積分などの数式を出力させると、ChatGPTなどでは上記のようなLaTeXでレンダリングした画像として出力されますが、APIからの出力をそのまま表示するexaBaseでは「int_a^b f(x) , dx」といった形で表記されてしまいます。
都立AI で画像入力とLaTeX表示ができるようになったことで、やっと数学の授業や理科の化学式などでも使える環境になりました。
会話ログの共有と参照
生成AIとのチャットしを他のユーザと共有する機能です。exaBaseでも「会話のシェア」という名前で用意されており、この機能で生成されたURLを他のユーザーが開くと、そこまでの会話を参照したり会話を続けたりすることができます。
生徒のチャットを提出させて評価したり、教員の作成したチャットの続きから生徒が会話する「疑似カスタムAI(後述)」として使うなど、かなり頻繁に使用していたので、都立AIにも実装されていて安心しました。
カスタムAI
GPTsやGemsなど、あらかじめ役割などを設定したプロンプトを仕込んでおき、そのプロンプトに沿った動作をする機能を「カスタムAI」と呼びます。今までは、教員が役割や振舞いの設定を含んだプロンプトを作成して会話を始め、「会話をシェア」の機能で生徒にURLを配布、生徒はその会話の続きから生成AIとやり取りするという流れで疑似的なカスタムAI機能を実現していました。ただ、この方法だと教員が書いたプロンプトは生徒に丸見えです。その方がプロンプティング技術を生徒が学べるというご意見をいただいたこともありますが、「直接答えを教えずヒントだけ与えて考え方を学ばせる」といった学習設計で進めたいとき、生徒がその部分のプロンプトを「直接答えを教える」と書き換えて使うなど、その授業の目的から外れる可能性があり、先生によっては使いにくいと感じることもあるでしょう。
この機能は授業の中で多用されていくと予想しています。
都立AIの独自機能「AIメニュー」
都立AIでは「AIメニュー」という名前でカスタムAI機能が提供されていますが、その中にいくつか独自の機能を盛り込んでいます。
教育に特化した都立学校向けの独自環境として、一般的な機能が教育向けにカスタマイズされて提供されていたり、一般の生成AIではあまり見かけない機能などもいくつかあります。
共有
ChatGPTには「 GPT Store」という名称でカスタムAIを共有(販売も)できる場が提供されています。AIメニューも他の教員と共有できるようになっているのですが、この「共有」が都立学校専用環境としてカスタマイズされていてユニークです。公開範囲を「非公開(自分専用)」か「公開」を選べるのは当たり前ですが、公開範囲として「自治体」を選ぶと東京と全体に公開され、「学校を選択」で自分の学校のみに公開することができます。面白いのは、この「学校を選択」で他の都立学校を選択できるところ。
例えば研究会のメンバーでプロンプトを共有し、各学校で実証授業を行ってデータを取るといった場合や、特別支援教育に特化したプロンプトを特別支援学校だけで共有するなど、面白い使い方のイメージが膨らみます。
AIひろば
AIメニューは「AIひろば」というフィールドに教科や校務ごとにカテゴライズして置いておくことで、そのカスタムAIを使って生徒が学んだり、他の教員とAIメニューを共有することができます。
教員用マニュアルには記載されていないのですが、「学習」または「特別活動」のカテゴリーで登録すると生徒の画面にも表示され、「校務」のカテゴリーに登録すると生徒から見えない設定になっています。
「ふるまい設定」の切り替え
「ふるまい設定」はカスタムAIのプロンプトそのものですが、一つのAIメニューに複数のふるまいを設定し、切り替えて使うことができます。例えば最初にアイディア出しをして、ある程度アイディアの種ができたところでまとめていく、といった作業手順の時、「そろそろまとめていきましょう」という流れでふるまいを切り替えるよう指示したりします。
切り替えたときに会話の継続性がないなど、どう使うか悩むところですし、一つのプロンプトで状況変化に合わせてふるまいを変える場合と比べた優位性は今のところ見いだせていませんが、試しているうちに面白い使い方が見つかるかもしれません。
テキストデータ参照(RAG)
教育現場ではRAGは必須の機能だと思っています。教科書データを登録したり、過去の資料を登録したりできます。RAGはAIメニューに紐づいているので、同じ教科書を使っている学校とRAGを含んだAIメニューを共有すれば容量的に良いかもしれませんね。現時点では、アップロードできるファイル形式はpdf、docx、pptxに限られています。
個人情報保護の観点からExcelやCSVファイルのアップロードを止めているようですが、様子を見ながら徐々に種類を増やすことも検討しているようで、現時点では賢明な判断だと思います。
AIのカスタマイズ
この機能には驚きました。
AIメニューの中で、以下のようなパラメータの細かいカスタマイズが可能になっています。
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Past messages included:応答時に考慮される過去のやり取りの数
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Max tokens:一度に生成されるトークン数(最大16,000)
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Temperature:応答の創造性・多様性を制御
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Top P:確率分布の上位P%から出力選択
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Frequency Penalty:繰り返し表現の抑制
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Presence Penalty:話題の多様性の促進
いや、Top Pとか弄れて喜びそうな先生は2人しか思い浮かびません(お2人とも都立の教員ではない)笑
自分としては、情報ⅡのプロジェクトでローカルLLMの構築を目指すチームにこういったパラメーターを学んでもらおうと思っていたので、安定した動作環境で例示できるのはとてもありがたく、他にどんな使い方ができるか考えるだけでワクワク感が止まりません。
今回盛り込まれなかった機能など
マルチモーダル、特に音声入力
音声入力は語学教育の肝だと思っています。また、ブレインストーミングなど、対話的に発想を広げるときにも強力なツールになります。画像生成は都立学校ではAdobe Fireflyが使えるから不要といえば不要ですが、連携していないので若干不便に感じます。
8月に向けてバージョンアップされていくという話も聞こえてきているので、今後に期待しましょう。
アカウントごとの利用時間など
exaBaseでは管理画面からアカウントごとの利用状況を見ることができました。授業以外で使い倒している生徒に使い方を聞いてみたりなど、意外と使う場面があったので、なくても良いけどあったらいいな、くらいの感じです。
管理的になっていくのは嫌なので、無い方が良いような気もしています。
一緒に公開されたもの
都立AIの公開とともに、いくつかの資料が公開されています。
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/05/2025051201
「都立学校生成AIサービス概要」
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kyoiku/2025-05-07-161008-657
この記事の最初に紹介している資料です。A4サイズ1枚で簡潔にまとまっています。
「都立学校生成AI利活用ガイドラインVer.1.0」
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kyoiku/2025-05-07-161048-501
これについては別記事で詳しく見ています。
「生成AI研究校初回授業モデル指導案」
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kyoiku/2025-05-07-161322-539
「基礎的な理解を重視」「応用的な思考を重視」「特別支援学校」の3種類の初回授業モデル指導案が掲載されています。
昨年度の生成AI研究校で原案を作成したものがきれいにまとめられており、見やすい資料になっていますが、ちょっと気になるところが…
「基礎的な理解を重視」「応用的な思考を重視」の指導案には、あえてハルシネーションを起こさせることを目的にしたプロンプトが記載されています。これは一年半前に自分が初めて「初回授業」をやったときに使った手法で、当時のChatGPT3.5では簡単にハルシネーションを起こすことができました。ex.:Q「東京ディズニーランドの所在地は?」→A「東京都浦安市・・」
昨年度末、生成AI研究校で初回授業の指導案を作成する際「今はハルシネーションをわざと起こすのは難しいから別のプランで」と提案したのですが、力及ばず公開された指導案にも盛り込まれてしまいました。
初回授業モデル授業案「基礎的な理解を重視」より抜粋
このプロンプトをそのまま都立AIに入力すると、なんと出力例通りの解答が出ました!(2025/5/18現在)もちろんこのままChatGPT o4-miniに直接入力しても、「2位」「そういう名称の都立高校は存在しないようです」と返ってきます。他の生成AIでも同じです。
ここで仕込みを入れるのはいかがなものか、と個人的には思うところです。
まとめ
5月12日の午後から使えるようになったのですが、タイミングが悪くてまだ自分の授業では使っていません。校内では国語や英語の授業ですでに使い始めている先生もいます。また、1年生は「初回授業」を中間考査後に実施予定なので、本格使用は6月からになってしまいます。
この環境であれば使い勝手はかなり良いと思いますので、今後しっかり使い込んでいこうと思います。
今後、自分や生徒が使っていくうちにいろいろ気になるところも出てくるだろうと思いますが、ここまで環境が整備されれば実践事例の積み上げと研修などの啓もう活動がメインになってきます。
少しでも活用が広がるよう、微力ながら頑張っていこうと思います。
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