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逃れられない家から出た先に――映画『異端者の家』感想【ネタバレ注意!】オモイカネの一人語り

🧠 あらすじと概要:
映画『異端者の家』のあらすじと記事の要約を以下にまとめます。

### あらすじ
シスター・パクストンとシスター・バーンズは、布教活動のため森の中にある一軒家を訪れる。そこには気さくそうな男性、リードが待ち受けており、彼は宗教についての独自の持論を展開する。会話が進む中で、不穏な雰囲気が漂い、二人は帰ろうとするが、鍵がかかっており逃げることができない。リードは、信仰心を試すために、特別な扉から出るように促す。やがて明らかになる真相は、既存の宗教を嘲笑うリードの思想に基づいていた。

### 記事の要約
この記事は、クリストファー・ノーランやスタンリー・キューブリック作品に触れつつ、映画『異端者の家』がエンタメと哲学を融合させた作品であると論じています。特に、ヒュー・グラント演じるミスター・リードのキャラクターが持つ独自の宗教観やその背後にあるテーマに焦点を当てています。映画は、ただのスリラーではなく、伏線が綺麗に回収されていくミステリーの要素も含まれ、観客に深い考えを与える作りになっています。最後には、宗教が人間を救う可能性についてのメッセージがあり、物語が終了する様子が描かれています。

以上が映画『異端者の家』の内容と記事の要約です。

逃れられない家から出た先に――映画『異端者の家』感想【ネタバレ注意!】オモイカネの一人語り

記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

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オモイカネの一人語り

2025年5月28日 10:15

真の宗教とはなんなのか――

映画をはじめとした創作物には時として「エンタメ」「哲学」が高度に融合することがあります。

クリストファー・ノーラン監督の映画『ダークナイト』はアメコミのヒーローとヴィラン・バットマンとジョーカーを中心にして人間の善性と悪性を克明に描き出し、岩明均氏の漫画『寄生獣』は読者に人類と地球の共存という問題を問いかけます。

スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』は――エンタメよりも哲学に寄りすぎているとは言え――そのテーマは未だに古くならず現在も多数のオマージュ作品が作られています。

よくよく考えれば『聖書』もそうした哲学とエンタメが高度に融合した作品と言えるかもしれません。そも物語として面白くなければ、あそこまで世界中に広まることもないでしょう。

さて、そんな哲学とエンタメが高度に融合した作品が2025年にも公開されました。

A24制作・スコット・ベック&ブライアン・ウッズ脚本・監督。物語の鍵を握る謎の男ミスター・リードを名優ヒュー・グラントが演じるスリラー『異端者の家』です。

日本での公開後は各シネマでも大々的に宣伝され、TOHOシネマ系列では他作品の上映前にもヒュー・グラントたちがインタビューに答えるプロモーション映像も放映されました。

この記事を読んでいる方にもご覧になられ方は多いのではないでしょうか?

今回はゴールデン・グローブ賞主演男優賞候補にもなった大作・『異端者の家』の感想を書いていきたいと思います。

私自身この映画を完璧に理解したとはとても言えませんがお付き合い頂ければ幸いです。

以下ネタバレ注意!

あらすじ

シスター・パクストンとシスター・バーンズは、布教のため森に囲まれた一軒家を訪れる。ドアベルを鳴らすと、出てきたのはリードという気さくな男性。妻が在宅中と聞いて安心した2人は家の中で話をすることに。早速説明を始めたところ、天才的な頭脳を持つリードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開する。不穏な空気を感じた2人は密かに帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされており、助けを呼ぼうにも携帯の電波は繋がらない。教会から呼び戻されたと嘘をつく2人に、帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかないとリードは言う。信仰心を試す扉の先で、彼女たちに待ち受ける悪夢のような「真相」とは——。

『異端者の家』公式ホームページより引用

この映画の魅力は何といってもヒュー・グラント演じるミスター・リードというキャラクターにあるでしょう。

彼は一見気さくな男性といった雰囲気ですが宗教といったものに独自の価値観を持っており彼の家を訪れたシスター・パクストンシスター・バーンズに持論を展開していきます。

ここに少し問題点があって、このシーンにはアメリカの風俗に関する話題が多数例え話として引用されており、そういったことに詳しくなければ話についていけない部分もありました。例えばアメリカで展開されているマクドナルドのみならずハンバーガーチェーンが比喩として語られていて、そういったアメリカの風俗に明るくない私にはさっぱりでした。

(日本で例えるならば二郎系ラーメンが比喩として登場する感じでしょうか?)

ですが個人的にこのシーンは結構気にいっていて(おそらくそれが狙いでもあるのでしょうが)持論を展開するミスター・リードには生徒に講義を行う大学の教授を思い出しました。

かくゆう私も大学生時代は授業が終わった後教授に積極的に質問をしていたタイプなので、その時のことを思い出してちょっと懐かしくなったりしました。

そんな雰囲気もあり表面上は会話が和やかに進行していますが、不気味さもそこはかとなく漂っていて、それが決定的になるのはシスター二人が帰ろうとしたとき。リードは家のドアは時間でロックされているため明日の朝まで開かないと言います。

果たしてそんな家がこの世に存在するのか?――そう思っているシスターたちと観客の予想は当たり、いよいよリードは本性を顕にします。

彼の持論はいよいよ宗教そのものの否定にまで至り、シスターたちに信仰心を試すといい、「BELIEF(信仰)」「DIBELIEF(不信仰)」と書かれた地下室へと続く扉のどちらかから入るか決めさせ、「扉の先には真の宗教がある」と嘯きます。

その先でシスターたちが見たものとは――と、このまま書いていけば映画のあらすじ全てを書いていくハメになりそうなので省略させて頂きますが、この映画は前述のリードが持論を展開するシーン以外にも魅力たっぷり。

何気ない会話や描写がほとんどすべて後半の展開につながっていて張り巡らされた伏線が意味を持っていく様子には感動すら覚えました

私自身伏線の回収などはそこまで重きを置くタイプでもないのですが、こうも綺麗に回収が行われると評価せずにはいられません!

ある意味ではミステリーと呼んでもいい作品なのではないでしょうか?

ミステリーの王道は何といっても「誰が犯人か?」という点に焦点を当てたフーダニット(whodunit)と呼ばれる形式ですが、この作品は「なぜ犯人は犯行を犯したか?」という点に焦点を当てたワイダニット(whydunit)と呼ばれる形式と言ってもいいのだと思います。

リードは一体何がしたいのか? リードの考える真の宗教とは?真の預言者だとリードが言った女性が毒のパイを食べて死んで、蘇生して預言を残す――奇跡というほかない現象を目撃しながら、そんな疑問がシスターたちと観客の頭をよぎっていきます。

そうして物語は進み、明らかになった真相とリードの思想、それは既存の宗教を嘲笑う衝撃的な内容だったのです

以下、一層のネタバレ注意!

ミスター・リードに追いかけられて辿りついた先で、シスター・パクストンは檻に入れられリードに逆らえなくなった女性たちを発見します。彼女たちはシスターたちが真の預言者だとリードが紹介し、毒のパイを食べて死に生き返った女性にそっくり。

そう、奇跡はトリックだったのです。

そこでシスター・パクストンはリードの真意に気づきます。

シスターたちの行動は今の今までリードにコントロールされていたのだと、そう考えると今までのリードの行動にもつじつまが合い、その言動に振り回され、彼女たちは知らず知らずのうちに行動を縛られていたのです。

さらにパクストンはリードの思想にも思い至ります。

真の宗教とは支配であると。それを聞いたリードは肯定し「檻に入れられた彼女たちは支配されることによって幸福を甘受している」と話します。支配されることによって自分で選択するという苦悩を背負わずに済むのです。

そしてリードは彼女にその事実を認めるように強要しますがシスター・パクストンは拒否、持っていた武器でリードを攻撃しますがもみ合いになり、二人とも重傷を負ってしまいます。

そして、二人の命が尽きようとする中でシスター・パクストンが言った台詞がこの映画の一番伝えたかったことではないでしょうか。

「祈りましょう。お互いのために」と。

この台詞は宗教というものを端的に表しているのではないかと思いました。私は今ある宗教のほとんど全ては他人を思いやる気持ちを尊重しているのではないかと考えます。これは宗教が社会の存続に密接に関わってきたことの証左ではないでしょうか。

社会は人が他人を思いやらないと崩壊するのです。

ちなみに脳の中で宗教心を感じる部分と他人のことを考える部分は同じなんだそう。こう考えるとこの作品の見方も変わってくるのではないでしょうか?

最終的にシスター・バーンズの助けもあり、ミスター・リードの家から脱出を果たしたシスター・パクストン。しかし、その代償にシスター・バーンズは命を落としてしまいます。

そして、異端者の家から出て草むらを抜けるその時に彼女の指先に一匹の蝶が止まりました。

そこで観客と彼女は思い出します。シスター・バーンズが、死後は蝶になって大切な人の指先に止まりたいと言っていたことを。

もちろんたまたま蝶が止まっただけかもしれません。しかし、シスター・パクストンはその蝶はシスター・バーンズの魂だと考えたことは描写からも明らかで、それによって彼女が救われたこともまた明らかなのです

思えば、ミスター・リードも「宗教による支配によって人間は救われてきた」言っていました。

ここにも宗教は人間を救うものというメッセージがあるのではないでしょうか?

そういった部分を含めてミスター・リードと意見を交わしてみたいと思――わないですね、あんな目には遭いたくないので

以上のように宗教という難しいテーマにもしっかりとオチを付けた、A24が得意とする上質なスリラーと言えるでしょう!

(散々ネタバレをした後に書くことでもありませんが)この記事を見て『異端者の家』という作品が気になった方がいれば、是非サブスクなどで観てみてくださいね

ここまでお付き合い頂きありがとうございました!

オモイカネの一人語り

自称(知識人)の私が、映画やアニメ、ゲームを中心にエンタメのあれこれを書きます。



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