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概要
この記事では、カルビーの「ブランド財務部」を通じて、財務の役割が従来の「守り」から「攻め」へとシフトしていることについて述べています。この新しいアプローチは、財務とマーケティングの融合を図り、企業の意思決定をより合理的かつ挑戦的に変えることを目指しています。
要約
- これまで、財務部門は「守りの砦」として機能していた。
- 一部の企業が財務を「攻め」の起点として活用する動きが進む。
- カルビーは「ブランド財務部」を設置し、財務とマーケティングを統合。
- ブランド別の収益性を可視化し、施策の財務的インパクトを分析。
- 財務が意思決定の初期段階から関与することで、ブランドの価値向上を図る。
- 「攻めの財務」は、過去の数値管理から未来の数値を描く役割へと発展。
- 具体的な役割として、ブランド別PLの設計やLTVに基づくROI検証が挙げられる。
- 中小企業にも「攻めの財務」の導入が効果的である理由が説明される。
- 財務が企業内の対話の質を向上させる力を持つことが強調される。
- 財務を「攻めの言語」として再定義することで、経営に新たな変化をもたらす可能性がある。
企業経営において、財務部門はこれまで「守りの砦」として語られてきました。予算管理、資金繰り、税務対応、リスク管理──これらはもちろん不可欠な機能ですが、それだけにとどまっていては、財務の可能性は限定されてしまいます。
一方で近年、一部の先進企業では、財務を「攻め」の起点として活用する動きが見られ始めています。中でも象徴的なのが、カルビーが設置した「ブランド財務部」です。この取り組みは、単なる組織構造の変更にとどまらず、財務とマーケティングの融合による価値創造の新たな兆しといえるでしょう。
ブランド財務部とは何か
カルビーのブランド財務部は、事業部横断でブランド別の収益性を可視化し、マーケティング施策に対する財務的なインパクトを分析・提案する役割を担っています。従来、財務部門は「費用対効果」の観点からマーケティング施策を評価する「後追い」の存在でしたが、この部門では、意思決定の初期段階から財務が入り込み、ブランドの価値や市場の潜在性を数値的な根拠をもって後押しします。
こうした新たな役割は、単に従来業務の延長線上で生まれるものではありません。「財務は攻めのミッションを担う」という意志を、組織内で明示的に定義し、言語化することが不可欠なのです。その意味で「ブランド財務部」という名称そのものが、従来の「管理部門」的な枠組みを超える宣言であり、象徴です。言葉が変わることで、ミッションも、思考も、会話の質も変わります。
多くの企業に染みついている「財務=バックオフィス」という固定観念を乗り越えるには、組織名の見直しや、役割の再定義といった“構造的な打ち手”が極めて有効です。
「攻めの財務」の本質とは
「攻めの財務」とは、単に売上拡大に貢献するというだけでなく、「企業の意思決定をより合理的かつ挑戦的に変える知的パートナー」として財務が機能することです。守りの財務が「過去の数値の整合性を担保」する役割だとすれば、攻めの財務は「未来の数値を描き、リスクをとる判断に筋道を通す」存在です。
たとえば、以下のような役割が考えられます。
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ブランド別PLの設計と継続的な可視化
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LTV(顧客生涯価値)に基づいたマーケティングROIの検証
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施策ごとのブレイクイーブン分析や感度分析の実施
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経営陣・現場双方に向けた数値に基づく対話の促進
これらは、単なる「予算枠の確認」とは一線を画し、むしろ経営の意思決定を前に進める「ファイナンスの言語化力」が問われる領域です。
中小企業こそ、攻めの財務を導入すべき理由
一見、こうした高度な財務分析や体制は大企業の専売特許のように見えるかもしれません。しかし、私はむしろ中小企業こそ、この「攻めの財務」的視点を早期に取り入れる意義が大きいと考えています。
中小企業においては、事業ポートフォリオが限定的である分、ひとつのブランドや施策が与える経営インパクトは非常に大きい。また、現場との距離が近いため、財務視点の導入が即座に経営判断に反映されやすい土壌があります。
たとえば、単一商品への追加投資を検討する際、粗利率や回転率だけでなく、LTVやペイバック期間をシミュレーションする。これだけでも、資金を「なんとなく」使うのではなく、「勝ち筋」に集中投下するという発想に変わってきます。
財務が、経営の「対話の場」を変える
最も重要なのは、「攻めの財務」が単なる数値のテクニックではなく、企業内の対話構造を変える力を持っているという点です。マーケティング部門と財務部門が、互いに納得感のある議論を交わす。経営陣が、数値とストーリーの両面から戦略を描く。こうした動きが、企業に内在する「思考の質」を引き上げていきます。
カルビーの事例は、その一歩を示す好例です。そして、それは決して特別な企業にしかできないものではありません。私たち一人ひとりの企業体においても、財務を「守りの手段」から「攻めの言語」へと再定義することで、経営に新たな風を吹き込むことができるのです。
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