自然物とは思えない”完璧な球体”が発見されました。
豪ウェスタン・シドニー大学(WSU)の研究チームはこのほど、天の川銀河の内部に、ほぼ完璧な球体をとどめた宇宙の構造物を発見したと報告。
一見してその姿は、自然界にはあり得ないほど対称で滑らか。
人工物のような外観すら思わせるその姿は、天文学者たちをして「完璧な球体(Perfect Sphere)」と言わしめました。
チームは古代ギリシャ語で「完璧」を意味する言葉にちなんで、この球体を「テレイオス(Teleios)」と名づけています。
では、テレイオスの正体とは何だったのでしょうか?
研究の詳細は2025年5月7日付でプレプリントサーバ『arXiv』に公開されています。
目次
- 完璧な球体「テレイオス」の正体とは?
- なぜ「完璧な球体」になったのか?
完璧な球体「テレイオス」の正体とは?
完璧な球体「テレイオス」は、オーストラリアの電波望遠鏡・ASKAPによって観測されました。
ASKAPはこれまでにも、宇宙に浮かぶ奇妙な円形構造物を発見しています。
その中には、たとえば「奇妙な電波サークル(Odd Radio Circles、略称ORCs)」と呼ばれる、銀河間空間に存在する謎の構造物も含まれています。
今回のテレイオスは天の川銀河内に位置しており、チームはその正体について、ある程度の見当をつけています。
それは「超新星爆発の残骸」です。
特にテレイオスから放たれる電波の波長から、これが「Ia型超新星(タイプ・ワン・エー・スーパーノヴァ)」の残骸である可能性が高いことを指していました。

Ia型超新星とは、宇宙でもっとも明るい種類の超新星の1つです。
このタイプの超新星は、白色矮星が近くにある連星系の伴星から物質を吸い取りすぎ、質量の限界を超えて爆発することで発生します。
超新星のサブカテゴリーとしては他に、大質量星の重力崩壊によって誕生するIb型およびIc型超新星などがあります。
ここまでは比較的シンプルな話ですが、ただテレイオスのサイズや距離については複数の可能性が指摘されています。
なぜ「完璧な球体」になったのか?
チームは「テレイオス」までの距離を推定することには成功しましたが、1つに絞ることができず、2つの候補に分かれました。
一方は約7175光年、もう一方は約2万5114光年です。
いずれかの距離によってテレイオスのサイズも大幅に変わってきます。
チームによると、仮に近い方の距離にあるとすれば、テレイオスの直径は約46光年になり、遠い方の距離であれば、直径は157光年になるという。
超新星の残骸は一般に、爆発で放出された物質の雲が時間とともに広がり膨張することで形成されます。
つまり、残骸の大きさの違いは、その年齢の違いを意味します。
近い距離にあるとすれば、テレイオスは比較的若く、誕生から1000年未満と考えられ、遠い距離にあれば、1万年以上前に爆発したものということになります。
しかし、どちらのシナリオにも問題があるとチームはいいます。
それは「Ia型超新星の進化モデルに基づけば、本来ならX線も観測されるはずだ」という点です。
ところが、テレイオスからはX線が一切観測されていません。
これはかなり不可解です。
そこでチームはもう1つの可能性として、テレイオスは「Ia型超新星」の亜種である「Iax型超新星」の残骸ではないか、という説と唱えています。
これは白色矮星が爆発によって完全には破壊されず、爆発後も「ゾンビ星」と呼ばれる残骸が残るタイプの超新星です。
このモデルは、テレイオスが放つX線なしの電波の特徴によく合致します。
ただし、その場合は距離がもっと近く、約3262光年である必要があります。
もしこのシナリオが正しければ、テレイオスはもっと小さく、直径は約11光年程度ということになります。

では、テレイオスはなぜここまで完璧な球形をしているのでしょうか?
実際、超新星残骸はほとんどの場合、何らかの形で非対称です。
爆発そのものが非対称であったり、周囲に存在する星間ガスや塵にぶつかって形が歪んだりします。やがて膨張が進むと、外殻は不規則に崩れていきます。
しかし、もし爆発が偶然にも完全に対称で、かつ周囲に邪魔するものが何もない空間で起きた場合、残骸は均等に広がることが可能です。
それからテレイオスは、まだ外殻が崩壊する段階に達していないとも見られています。
非常に珍しい現象ではありますが、不可能というわけではありません。
だからこそ、テレイオスは実に興味深い天体なのです。
今後さらに観測を続けて、その成り立ちを解き明かしていく必要があります。
チームは以上を次のようにまとめています。
「私たちは、表面輝度、見かけの大きさ、そして想定される距離に基づいて、テレイオスの進化的状態について徹底的に検討しました。
すべての仮説には何らかの難点があり、とくに私たちの進化モデルに基づけば、本来観測されるはずのX線が見られない点は大きな謎です。
私たちはIa型超新星の可能性をもっとも高いと判断していますが、現時点でどの仮説も決定的に裏付ける直接証拠は存在しておらず、この天体については、より感度が高く高解像度の新たな観測が必要です」
宇宙はまだまだ私たちの知らない謎で溢れているようです。
参考文献
Mysteriously Perfect Sphere Spotted in Space by Astronomers
https://www.sciencealert.com/mysteriously-perfect-sphere-spotted-in-space-by-astronomers
元論文
Teleios (G305.4-2.2) — the mystery of a perfectly shaped new Galactic supernova remnant
https://doi.org/10.48550/arXiv.2505.04041
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
🧠 編集部の感想:
この「完璧な球体」の発見は、宇宙の謎を解明する新たなステップとして非常に興味深いです。自然界にはない対称性を持つこの天体が、果たして超新星の残骸であるかどうか、多くの可能性を探る研究が待たれます。今後の観測によって、さらに深い理解が得られることを期待しています。
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