習近平国家主席率いる中国政府は、米国との歴史的な通商交渉を前に、中国経済に刺激を与える措置を講じた。当局者は、中国政府の交渉力を強化するための多様な政策を発表した。
中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁は7日、政策金利と預金準備率を引き下げなどの措置を発表した。何立峰副首相が9-12日にスイスを訪問し、米国のベッセント財務長官、グリア米通商代表部(USTR)代表と会談すると明らかにした数時間後のことだった。
これにより、中国経済には2.1兆元(約41兆6400億円)相当の流動性が注入される可能性がある。トランプ米大統領による上乗せ関税が世界経済の秩序を混乱させ、市場を混乱させる貿易戦争を引き起こして以来、中国がとった金融緩和措置としては最大規模だ。

中国の何立峰副首相はスイスを訪問し、米国のベッセント財務長官とグリア米通商代表部(USTR)代表と会談する
Source: Bloomberg
米中はそれぞれ、10日から始まる交渉へ臨むにあたり、優位に立てると見込んでいる。トランプ氏は、NBCとの最近のインタビューで「中国は現在、大打撃を受けている」と述べた。ベッセント氏も、輸出依存型経済の中国にとって、145%の関税は「持続不可能」と指摘している。
一方、中国側は、この交渉は米国が始めたものと位置付け、必要であれば「最後まで戦う」と繰り返し表明している。
いずれにせよ、世界最大の経済大国間の貿易が断絶するリスクを伴う対立を経て、米中両国には今、少なくとも関税削減について話し合う動機がある。ゴールドマン・サックス・グループが「雪解け」と表現する今回の交渉で、両国がどのような譲歩を提示するかは不明だが、高官級交渉が開催されること自体が楽観的な見方を呼び、中国の株式市場を押し上げ、米株式指数先物にも追い風となった。
米中ビジネス協議会のショーン・スタイン会長は7日、ブルームバーグテレビジョンで「ベッセント氏、グリア氏を欧州まで行かせて議論を行うのに、結果が実質的に何も得られないようなことはあり得ない。両国は会談を行うというとても勇気ある政治的決断を下したが、現在は期待が高まっている」と述べた。また、もし成果がなければ、市場では強いネガティブな反応が起きるとの見通しも示した。

現在の大きな疑問は、トランプ氏が関税の即時引き下げに同意するか、また、どの程度引き下げるかだ。
考えられる動きの一つは、トランプ氏のチームが、フェンタニル関連を除くすべての懲罰的関税を90日間凍結し、税率を20%に戻すことを中国側に提案するものだ。これは、トランプ氏が他の国々に対してとっているアプローチと同じで、交渉中は米国にあらゆる関税を停止するよう求めている中国側の要求にも近い。
ただ、皆がそれほど楽観的には見ていない。HSBCホールディングスのエコノミストは、米国が関税を50%に引き下げる可能性を予測している。モルガン・スタンレーの邢自強氏は「段階的なアプローチ」がより可能性が高いと述べた。関税がこうした水準にとどまるなら、米中貿易の大部分を消滅させる恐れがあり、習政権は約5%の成長目標を達成するため、今年後半に追加の金融・財政刺激策を講じる必要に迫られる。
シティグループの余向栄氏らエコノミストは7日のリポートで、現在の状況は勝者のいない「ルーズ・ルーズシナリオ」だと指摘し、6ー12カ月間は極めて高い関税水準が維持されると予測した。
米側の交渉担当者が明らかになったのは、明るい材料だ。中国側がかねてから求めていたことで、トランプ氏が1月の就任以来望んでいる、習氏との会談への道筋をつける可能性がある。
ヒンリッヒ財団の貿易政策責任者、デボラ・エルムズ氏は、中国側の交渉担当者にとっての難点は、トランプ氏が依然として主要な「決定権者」である点だと指摘する。同氏は「期待は控えめにすべきだ。グリア氏やベッセント氏らと数日、数週間、あるいは数カ月間、必死に交渉を重ねても、最終的にトランプ氏が条件を変更する可能性もある」と述べた。
上海の復旦大学米国研究センター所長の呉心伯主任氏は、中国と米国は互いに課した高関税の縮小について議論すると予想している。「双方とも高関税を負担できないからだ」という。ただ、同氏は「貿易合意の本質について議論する可能性は低い。今回の協議は将来のより実質的な交渉の準備を目的としている」との見方を示した。
原題:Xi Fortifies China’s Economy Before First Talks on Trade With US(抜粋)
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