株式会社河出書房新社から、フィンランドの新鋭作家イーダ・トゥルペイネンによる初の長編小説『極北の海獣』が発売されました。ヘルシンギン・サノマット文学賞を受賞した本作は、絶滅した海獣「ステラーカイギュウ」の運命を軸に、3つの時代を旅する歴史小説です。
『極北の海獣』は、史実に基づいた歴史物語です。18世紀のロシア極東カムチャツカ半島(第1部)、19世紀アラスカ南東部(第2部)、そして現代のフィンランド・ヘルシンキの自然史博物館(第3部)と、時代と場所を移しながら、絶滅した海獣「ステラーカイギュウ」をめぐる人々の物語が描かれています。
それぞれの時代に生きた探検家や研究者たちの葛藤や生き様を通して、人間が自然に与える影響、種の絶滅、強者の理論といったテーマが浮かび上がってきます。中でも、第2部と第3部の主役が女性である点は、理系キャリアの女性比が約4割を占める北欧ならではの特徴と言えるでしょう。
「自然科学」×「文学」の交差点から生まれた傑作
著者のイーダ・トゥルペイネンさんは、「自然科学」と「文学」の交差を研究するという珍しい経歴を持つ方です。徹底的な調査により、学問だけでは描ききれない、絶滅に追いやった人間側の心情が生き生きと描かれています。
北欧文学に共通する「圧倒的な力を持つ自然が常に人間の傍らにある」という世界観を背景に、絶滅という現代的なテーマを洗練された筆致で描き出し、「想像を絶するほど成熟したデビュー作」と高い評価を受けています。その評価は国際的にも広がり、北欧初の純文学作品としては異例となる世界28言語での出版が決定しているそうです。
日本版は画家・ミロコマチコさんが装画を担当
日本語版の装画は、生き物や自然をダイナミックに描く画家・ミロコマチコさんによるものです。カバーには堂々たる姿のステラーカイギュウが、カバーを外した表紙には全身骨格が描かれています。これは本書の冒頭と結末に登場する要素だそうで、著者のイーダ・トゥルペイネンさんからも絶賛されているとのことです。
また、本の帯(オビ)の裏面には、物語の舞台となるフィンランド〜ロシア〜アラスカ地域のマップが印刷されており、読者が物語の地理を把握する助けになりそうです。
本書の舞台となるフィンランド〜ロシア〜アラスカ地域のマップ(紙版書籍のオビ裏面に印刷)『極北の海獣』カバーデザイン全景
『極北の海獣』表紙デザイン全景
小説家・川端裕人さんも推薦
小説家の川端裕人さんは本書を「絶滅した生きものをめぐって、もはや四散しつつある記憶を掬い上げる。著者の丁寧な語りは、静謐にして緊密だ」と評し、「絶滅文学の精髄がある」と推薦しています。
電子書籍版は2025年7月に発売予定とのことです。
【書籍情報】書名:極北の海獣著者:イーダ・トゥルペイネン訳者:古市真由美装画:ミロコマチコ/装幀:大倉真一郎仕様:四六判/上製/272頁発売日:2025年5月7日税込定価:2,970円(本体価格2,700円)ISBN:978-4-309-20924-1
編集部の感想:
『極北の海獣』が日本上陸とは、絶滅した海獣と歴史的な背景を織り交ぜた新たな文学作品が楽しみです。特に、女性の視点や自然と人間の関係を描く点が印象的で、現代のテーマを深く掘り下げているのが魅力的ですね。装画や地図など、ビジュアル面にも考慮された作品に期待が高まります。
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