はむね_main多摩川住宅の区分所有最大区画「はむね団地」では、19棟820戸の大規模な建替え事業を計画中。高さ40mの給水塔は同住宅のシンボル Photo by Ryoichi Shimizu

1960年代に開発された総戸数3914戸のマンモス団地「多摩川住宅」では、現在、マンションへの大規模な建替えプロジェクトが進行中だ。その一角を成す区分所有最大区画「はむね団地」で、20年以上にわたって培われてきた住民の合意形成への努力の軌跡と、これからの展望について聞いた。

築60年のマンモス団地で進む老朽化と高齢化

 冬晴れの空の下、お囃子(はやし)が響き渡り、獅子舞が勇壮に舞う。普段は閑静な多摩川のほとりも、この時ばかりはにぎやかな正月ムードに包まれる。東京都調布市の南東端部と、狛江市の西端部にまたがるマンモス団地「多摩川住宅」。その中心部で行われた新春イベント「ほとりとたまがわ NEW YEAR」には、団地の住民ら400人以上が足を運び、盛況のうちに幕を閉じた。

 このイベントを主催する多摩川住宅街づくり協議会は、住民主導で地域全体の再生を進めるために作られた団体だ。現在進行中である多摩川住宅全体にわたる建替えプロジェクトにおいても、主導的な役割を担っている。住民主体で運営する協議会が発足し、建替えプロジェクトが進む背景の一つには、団地の老朽化がある。

 1966年、当時の住宅不足の解消に向け東京都住宅供給公社が手掛けた初の大規模団地として、多摩川住宅は産声を上げた。2つの市にまたがる約48.9haの広大な敷地には、分譲住宅と賃貸住宅を合わせ88棟、3914戸の住宅棟が立ち並ぶ。商業施設、公園、保育園から中学校までの教育施設も整備され、完成直後には新たな街づくりのモデルとして多くの見学者が集まった。全棟が完成する69年には、当時皇太子だった上皇さまも視察に訪れたという。

 団地はイ・ロ・ハ・ニ・ホ・トの6つの街区からなり、建物は地上5階建ての中層住宅が中心。イとロが賃貸住戸で、残り4街区が区分所有住戸という構成だ。敷地にゆとりがあるのが印象的で、多摩川沿いの豊かな自然との一体感がのどかな雰囲気を醸し出している。

「駅から距離があり、交通の利便性が高いとはいえませんが、その分、喧騒から離れた静かな環境です。自然を好み、落ち着いた生活に魅力を感じる人々が集まっている団地です」と、多摩川住宅はむね団地管理組合法人の野﨑理人理事は話す。

 そんな団地の区分所有ブロックの中で最も規模が大きく、19棟820戸を抱えるのが「はむね団地(ハ号棟)」だ。その敷地内を歩くと、隅々まで手入れが施されており、管理がしっかりと行き届いていることがうかがえる。それでも竣工からすでに60年近くがたっていて建物の老朽化は避けられず、壁面のひびなどが見て取れる。住民の高齢化も進んでおり、設備面の課題が浮き彫りになってきたと、同法人の関昭弘理事は言う。

階段エレベーターがないことも、住民の意向が建替えに向かった理由の一つ  Photo by Ryoichi Shimizu
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「喫緊の課題だったのは、エレベーターがないことやバリアフリーではないこと。高齢者の方が最後まで住み続けることが困難な状況でした」

 この課題は、2005年ごろからたびたび管理組合の議題に上がってきた。長期修繕プロジェクトの一環として新たにエレベーターを設置する案もあったが、10年に東京都防災・建築まちづくりセンターに「建替えと改修費用対効果」の調査を依頼したところ、最終的に導き出された増設コストは思いのほか高額で、建替えた場合と比較して大きく変わらなかったという。

「新耐震基準を満たしておらず、防災面の不安もありました」と、同法人の大町忠敏理事長は回想する。

 同団地の修繕計画には耐震化工事が含まれず、資産価値向上の点からも建替えが望ましいと判断されたため、管理組合は建替えへとかじを切り、長期修繕も中止したという。管理組合法人では11年の年末から4回にわたって住民説明会を開催、12年2月の臨時総会で建替え推進決議までこぎ着けた。

「住民の反応は良好で、合意形成もスムーズに進むのではと感じていました」(野﨑氏)

 建替えには住民間の意見衝突が付き物だ。マンモス団地でありながら、なぜ賛同する人が多かったのか。住民がまとまった大きな理由は、実は“過去の対立”にあるという。

ほとりと多摩川住宅街づくり協議会主催の新春イベント「ほとりとたまがわ NEW YEAR」の一コマ(2025年1月) Photo by Ryoichi Shimizu
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