月曜日, 6月 2, 2025
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第9章 カードデッド(Card Dead)|RITT


RITT

「あと1日」

エムホールデムのホーム画面中ほど、「ランクマッチ」の入り口には吹き出しで、ターム終了までの残り時間が表示されている。

ここのところ、かなり詰めて打っていたこともあり、少し疲れが出ていた。

そう。先日の「AQo」の展開も、普通なら降りられていたかもしれない。
だが、それまでにまともなハンドがしばらく入っていなかったこと。そして、明快な「AK」に比べ、扱いの難しい「AQ」への経験不足。そうした小さなズレが敗因となった。

それでも、現在のランキングポイントはm2 QUEENの暫定ボーダーより上。ただ、次なる目標であるm1リーグ進出の条件が「m2 KING以上」であることを思えば、ここで打たなければこれまでこのタームで打ってきたランクマッチポイントが無駄になってしまう。

でも、集中力も途切れ始めていた。

それでもいつものように、アドバンスト卓へマックスバイインでエントリーする。
しかし、この日はどうも振るわず、なかなか勝てない——。

時間とともに、じわじわとポイントが削られていく。
まだKINGランクを狙える圏内にはいるものの、ここでこれ以上失うと状況は厳しい。

「このままでは、QUEENランクすら維持できないかもしれない」
そんな焦りが心を支配し始める。だが、それでハンドが入るわけでもない——。

あとで知ったことだが、このような状況は界隈で「Card Dead(カードデッド)」と呼ばれているらしい。

つまり、配られるハンドがひたすら弱いものばかり。あるいは、手元にそれなりのハンドが来ても、ボードと噛み合わない。どこまで待っても、チャンスが来ない。

そんな苦しい時間が、延々と続くことだ。

私のスタイルはもともとタイト。ただでさえ参加率を抑えている中で、手が入らない。絡まない。勝負にならない。

そうなれば、やるべきことはただひとつ——耐えること。

ポーカーには「波」や「流れ」がある。好調なときは、何をやっても勝てるように感じる。手がボードと自然と絡み、リバーで引き切れる。

だが、裏を返せば、「何をやっても勝てない」時期もあるのだ。

それが、「Card Dead」。

これと似た現象で、ターンやリバーで逆転する(された)展開を「上振れ」「下振れ」と呼んだりもする。
いずれにせよ、ポーカーには——実力だけではどうにもならない日が、確かに存在する。

私は、静かに決断した。

「……もう、今日は打つのを止めよう」
ポーカーでは、「引き際」もまた、大切な判断なのだ。

そう自分に言い聞かせて、アプリを閉じたその夜のこと——。

「ちょっとだけ、気晴らしでもするか」

眠気もなかった私は、何となくトーナメントの中でも手軽にできる「S&G(シット・アンド・ゴー)」の卓に付いた。
これならランクマッチと違ってポイントを消費することもないし、6人卓なら15分少々で終わる。気楽な遊びだ。

すると、これが不思議なくらいに噛み合った。

序盤からハンドは冴え、フロップもぴたりと絡む。最後はAJoでボードにストレートが完成して、きれいにフィニッシュ。

ここまで勝ち過ぎると、逆に相手に申し訳ないくらいだ。

気づけば、チップリーダーのまま優勝していた。

さっきまでの「Card Dead」が嘘のようだった。
本当に、ポーカーってやつは、わからない。

——でも、きっとこれも「判断」の報酬だったのだ。

RITT

宗教二世として育ち、南フランスで宣教師として過ごした日々。このnoteでは、実体験をもとにした創作ポーカー物語『run it three times』を連載していきます。運と偶然とちょっとした縁が織りなす、静かな熱狂の世界へようこそ。



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