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概要
この記事は、BtoBマーケティングにおける「想起」の重要性とそれをサポートする「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」の概念に焦点を当てています。従来の「認知」や「リード数」を重視するだけではなく、「顧客に選ばれる状態」を作り出すために、想起を促す戦略が必要であると主張しています。特に、顧客が特定の課題を抱えたときに企業名を思い出されるような接点を設計することが重要です。
要約
- 認知と想起: BtoBマーケティングでは、まず認知されることが必要だが、さらに「思い出される」ことが重要。
- 想起集合: 顧客が課題を抱えた際に思い浮かべる企業のリスト(想起集合)に入ることが市場で勝つ鍵。
- カテゴリーエントリーポイント(CEP):顧客が自社を思い出す状況や文脈を設計することが必要。
- 文脈接触:接触が単なる認知で終わってしまわないように、特定の課題文脈と結びついた接触が重要。
- マーケティング施策の見直し: SEOや広告、メールマーケティングなどの施策を文脈接触に基づいて設計すべき。
- KPIの見直し: KPIはリード数やCPAに偏りがちだが、記憶に残る設計を重視する必要がある。
- ブランドの再定義:ブランディングは「見た目」ではなく、「思い出される存在」となることが重要。
- 短期・長期の視点:長期施策が短期の成果にも影響を与えることを理解することが重要。
- 自社の位置付け:自社がどのような状況で思い出されたいのか、顧客の悩みや価値提供を見直す必要がある。
このように、想起を促進するための施策と視点を見直すことが、BtoBマーケティングの成功につながると強調されています。
「知らないものは買えない」──これは、マーケティングの世界で古くから言われる普遍的な原則です。
特にBtoBマーケティングの現場では、まず認知されなければ検討すらされません。だからこそ、広告やコンテンツで「知ってもらう(認知)」ことが、常に最初の課題として語られます。
しかし、私は昨今のBtoBマーケティングにおいて、「認知されれば売れる」「売るためにはリードが必要だ」という前提が強くなりすぎていると感じています。
マーケターたちはPVやリードの数、コンバージョン率、CPAばかりを追いかけ、肝心の「選ばれる理由」や「思い出される仕組み」について考える機会が減っているのではないでしょうか。
本記事では、BtoBマーケティングにおいて本当に必要な「想起」という視点、そしてそれを支える「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」という考え方について解説します。
短期的な成果に追われる毎日だからこそ、いま一度マーケティングの本質に立ち返り、「顧客に選ばれる状態」とは何かを一緒に考えてみませんか?
CVより前に必要なもの──それは「想起集合」に入ること
多くのBtoBマーケターは、KPIとして「リード数」や「コンバージョン率(CVR)」を設定しており、日々の施策もその数値を起点に設計されがちです。もちろんそれらは重要な指標です。しかし、それらは「比較検討の土俵に上がった後」の話であり、もっと手前にあるべき視点が見落とされていることが多いのです。
その視点とは、「顧客が自社を思い出すことができるか」という問いです。
マーケティング用語で言えば、「想起集合(evoked set)」に入っているかどうか。
想起集合とは、顧客が何らかの課題を抱いたときに、「この企業に相談してみよう」と思い浮かべる会社のリストのことです。たとえばMAツール導入を検討する際に「A社、B社、C社のどれかかな」と自然に思い浮かべる。その状態こそが「想起された」ということです。
逆に言えば、いくら素晴らしいサービスを提供していても、想起されなければ存在しないのと同じです。検討の土俵にすら乗れないのです。
想起集合に入ることは、認知された状態から偶発的にCVが発生するのを待つより、はるかに選ばれやすい状態です。BtoBにおける“比較検討型購買”の構造を考えれば、それは当然のことです。
では、どうすれば想起集合に入ることができるのでしょうか?
ここでカギとなるのが「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」という考え方です。
想起を設計する──カテゴリーエントリーポイント(CEP)という考え方
「想起されるかどうか」が勝負の分かれ目になるBtoBマーケティングにおいて、次に考えるべきは、“何の文脈で”思い出されるべきかという問いです。
この「文脈」こそが、マーケティングでいう「カテゴリーエントリーポイント(CEP: Category Entry Point)」です。
CEPとは、顧客がある課題やニーズを感じたときに、「このカテゴリの商品/サービスが必要だ」と考える、その“入口となる状況や文脈”のことです。
たとえば、見込顧客が
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「展示会で名刺は集まったが、その後うまくフォローできていない」
-
「リードの検討状況が営業に適切に共有されない」
-
「リードはあるのに商談化率が低い」
といった文脈で課題を感じているときに、瞬間的に「あの会社に相談してみよう」と思い出される状態をつくること。これがCEPを活用した想起設計です。
上記の例では、各々「リードフォロー」「リードマネジメント」「リードナーチャリング」がCEPとなります。
セグメンテーションだけでは足りない──「どの文脈で選ばれるか」の視点
従来、BtoBマーケティングでは「セグメンテーションやターゲティングを明確にする」ことが重要だと言われてきました。たしかに、自社サービスが価値提供できる顧客層を明確にしてアプローチすることは大切です。
しかし、顧客の頭の中で行われる思考プロセスは、次のような順序で進みます。
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ある状況で課題に気づく
-
解決策のカテゴリを思い出す(=CEP)
-
そのカテゴリに紐づいた企業・ブランドを思い出す(=想起集合)
つまり、顧客の脳内でCEPがトリガーとなって、自社が想起される構造になっていなければ、ターゲティングがどれだけ優れていても検討の対象にすらなれないのです。
CEPは「定義」と「拡張」の2ステップで考える
CEPをマーケティングで活用するには、以下の2つのステップが必要です。
ステップ①:顧客に想起されたいCEPを明確に定義する(=想起されたい状況を決める)
まず、自社が「どのような状況・文脈で思い出されたいか」を明確に定めます。
ここで重要なのは、「競合と違う文脈(≒差別化)」を狙うことではありません。
むしろ、顧客が自然にそのカテゴリを想起する状況に、自社を紐づけることが大切です。
たとえば「BtoBマーケティングコンサルティング会社」という立場であれば、以下のようなCEPが考えられます。
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「展示会のリードを活かしきれていない」
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「営業との連携がうまくいっていない」
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「Webサイト経由のリードがCVしない」
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「社内にMAツールはあるが使いこなせていない」
こうした見込顧客の“課題としての認識”が芽生える瞬間に、あなたの会社が「そういえばあの会社があったな」と思い出されるよう、コンテンツやコミュニケーションを設計していくのです。
ステップ②:CEPを拡張する(=想起の接点を広げる)
理想は、1つのCEPでマインドシェアを独占することですが、それは現実的には困難です。競合も多く、顧客の思考パターンも多様だからです。
そこで必要になるのが「CEPの拡張」です。
たとえば、
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「リード管理」「営業DX」「SFA活用」など、隣接する課題文脈に露出を広げる
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「経営課題」「人材育成」「営業組織論」など、より上位の意思決定層の関心軸にもアプローチする
このように、複数の文脈で想起される状態=“マルチCEP戦略”を取ることで、比較検討されるカテゴリーが増え、結果的に思い出される確率も向上します。
CEPは、単なる戦略理論ではありません。
「どんなシチュエーションで、誰に、どのように想起されたいか?」という問いに具体的な答えを与える実践的フレームワークです。
次のセクションでは、このCEPを活かすためにどのようなタッチポイントを設計すべきか、つまり“接触の質”について掘り下げていきます。
認知から“文脈接触”へ──想起につながるマーケティング施策設計
多くのマーケティング施策は、いまだに「認知を広げる」ことに重点が置かれています。
たとえば広告やSNS、SEOなどを通じてより多くの見込み顧客に接触し、自社を“知ってもらう”ことが第一の目的になります。
もちろん認知は重要です。しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、その接触が「どんな文脈で」行われているかです。
単なる接触では“想起”されない
人は日々大量の広告やコンテンツに触れていますが、そのほとんどはすぐに忘れ去られます。
覚えているのは、ごくわずか。しかもそれは、「自分に関係がある」「特定の状況で役に立ちそう」と意味づけできた情報だけです。
つまり、「何度も目にする=想起される」ではないということです。
ただの認知では、「なんか聞いたことあるけど、何の会社かは思い出せない」という状態で終わってしまいます。
想起されるには「文脈」と結びついた接触が必要
では、どのような接触なら想起につながるのでしょうか?
答えは明確です。「ある課題やニーズが生まれたときの文脈と、あなたの会社が結びついている状態」です。
これを実現するために有効なのが、“文脈接触”を意識したコンテンツ設計やコミュニケーションです。
【施策例①】SEOコンテンツ:課題文脈に寄り添った“検索接点”の設計
SEOというと、つい「キーワード選定」「検索ボリューム」といった視点に偏りがちです。
しかし本来、SEOの起点は「見込み顧客がどんな課題に悩み、その解決策をどのように探すか」という問いにあります。
つまり、重要なのは“検索されるワード”ではなく“検索に至る文脈”です。
たとえば、
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「展示会で集めた名刺をうまく活用できない」
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「営業が属人化しており、商談化に波がある」
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「リードはあるが、育成の方法が分からない」
こうしたリアルな悩みを起点に、「それってこういう構造の問題だよね」と整理し、解決の方向性を提示する──そんな“課題文脈ドリブンのテーマ設計”こそが、BtoBにおけるSEOの本質だと考えています。(この文脈への理解が無いと、昨今のSEOだけではなくAIOにも悪影響を及ぼします)
こうしたテーマで発信を続けることで、「あの会社は課題を分かってくれる」「困ったときにまず読んでみるべきコンテンツがある」と、“想起される存在”としてのポジションを確立できます。
【施策例②】メールマーケティング:特定文脈での“記憶の定着”を狙う
既存リードに対するメルマガやステップメールも、文脈接触を意識することで大きく変わります。
たとえば、以下のようなアプローチが可能です。
-
「営業組織の属人化」→ ナレッジ共有の事例を紹介
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「展示会後のフォローが不十分」→ 商談化施策のeBookを訴求
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「MA導入済みだが活用できていない」→ 活用チェックリストを送付
これらはすべて、ある課題文脈が想起されたタイミングで「思い出されるブランド」になるための“仕込み”です。
定期的な接触により、ザイオンス効果(単純接触効果)も発動しますが、重要なのは接触の「質」──つまり文脈との一致です。
【施策例③】広告:CV目的ではなく“記憶形成目的”の設計
たとえば中堅SIerが広告施策を行う際、多くは「ソリューション一覧」や「導入事例」といった直接的な訴求に偏りがちです。
しかし、いま求められているのは、「どんな課題文脈で思い出してもらうべきか」を設計することです。
たとえば、自社が「業務効率化支援」や「老朽化したシステムの刷新」を強みにしている場合、以下のような“顧客の課題文脈”を起点にしたメッセージが有効です:
「Excelベースの業務、そろそろ限界を感じていませんか?」
→ 業務の属人化・手作業過多に悩む現場マネージャーに刺さる文脈
「業務システムがブラックボックス化して、現場で困っていませんか?」
→ 自社開発・レガシーシステムに依存している企業に対する切り口
「“業務改善したい”と思ったとき、相談できるパートナーはいますか?」
→ SIerというカテゴリ自体の再想起を促す文脈
「業務フローを変えずにDXはできません。まず業務から見直しませんか?」
→ 「ツール入れ替え=DX」と思っている層に、本質的な訴求
「紙・FAXがまだ残っている業務、私たちがなくします」
→ 製造・物流業界など、残存するアナログ業務に共感する層へ
このように、SIerの商材や立ち位置を“課題文脈”から逆算して設計し直すことで、単なる「ソリューションの棚卸し」ではなく、顧客の記憶に“相談すべき存在”として残る広告に変わります。
また、これらの広告は短期のCVだけを狙うのではなく、中長期的に顧客の頭の中に“タグ”として残り続ける効果が期待できます。
結果的に、比較検討フェーズで「そういえば…」と思い出してもらい、想起集合に入る可能性が高まるのです。
文脈接触こそ、想起を生み、想起がCVを生む
ここまで見てきたように、BtoBマーケティングにおいて本当に重要なのは「誰にどれだけ接触したか」ではなく、「どの文脈で接触したか」です。
文脈接触が蓄積されることで、「その課題といえばこの会社」という構造的な記憶が形成されます。
これが想起集合に入るという状態であり、見込顧客がお問い合わせをする“前提条件”になります。
次の章では、このような中長期の視点を持つために、BtoBマーケターがどのような「視座の転換」を図るべきかを考えていきます。
BtoBマーケターに必要な視座の転換──“選ばれる理由”を設計せよ
ここまで、「想起されること」の重要性と、それを実現するためのカテゴリーエントリーポイント(CEP)の活用、文脈接触型の施策について述べてきました。
これらを踏まえて改めて強調したいのは、BtoBマーケターが担うべき役割の再定義です。
リード数やCPAといった定量指標は確かに必要です。しかし、それだけを追っていると、“売れるための前提”が整っていないまま戦ってしまうリスクがあります。
KPI偏重から「記憶に残る設計」への転換を
多くのマーケティング組織では、「リード数」「商談化率」「広告効果」などのKPIが設定され、それに基づいて施策が回されています。成果の見える化という点では有効ですが、数値化しやすい(もしくは特定のツールで計測できる)ことばかりが重視される構造にもなってしまいます。
結果、「知ってもらうこと」はできても、「思い出してもらうこと」が置き去りになる。
だからこそ、いまBtoBマーケターに求められているのは、次のような視座の転換です:
つまり、マーケターが“売るための仕掛け人”から、“選ばれるための設計者”になる必要があるということです。
「ブランド=見た目」ではない。「記憶される価値」がブランドになる
BtoBの世界では、「ブランド」という言葉が軽視されたり、誤解されたりしがちです。
「うちはナショナルクライアントじゃないし」「ブランドといってもロゴとか世界観の話でしょ」といった認識を持っている企業も少なくありません。
しかし本来のブランドとは、「ある状況で、自然に思い出される存在」であり、それは“記憶の中にある価値”です。
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「課題が浮かんだときに最初に相談しようと思う会社」
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「情報収集を始めたときに、まずチェックするWebサイト」
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「社内会議で他メンバーから名前が挙がる会社」
このような状態こそが、BtoBにおける「ブランド」であり、「競争力」です。
これは、一朝一夕で作られるものではなく、文脈に沿った接点と記憶の積み重ねによって築かれていきます。
「短期」と「長期」はトレードオフではない
よく、「ブランディングや想起のような長期施策は、短期の売上に繋がらないからやりづらい」という声を耳にします。たしかに、今月の商談数や今期の売上に追われている状況では、即効性のある施策にリソースを集中したくなるのも理解できます。
しかし実際には、「想起集合に入っているかどうか」は、短期のCVにも大きな影響を与えます。
例えば、展示会で名刺交換をした見込み顧客が後日Web検索したとき、「あの会社なら」と思い出してくれるかどうかで、コンバージョン率はまったく異なります。
つまり、“記憶されるマーケティング”は、短期施策のCV率を底上げする基盤にもなるのです。
BtoBマーケティングは、いまや“認知”の重要性よりも、“想起”の方が重要な時代に入っています。単なる露出ではなく、「文脈の中で意味を持つ存在」であること。
そのためには、KPIの裏にある「思い出される理由」を設計する視点が必要不可欠です。
おわりに──あなたの会社は“思い出される会社”ですか?
あなたの会社は、顧客が課題に直面したときに「まず最初に相談したい」と思い出してもらえるでしょうか?
今月のリード数、LPのCV率、クリック単価──それらを追いかけることに忙殺されるあまり、**「そもそも自社は、誰のどんな課題のときに、何者として想起されたいのか?」**という問いを見失ってはいないでしょうか?
マーケティングの仕事は、単に問い合わせを増やすことではありません。
顧客の頭の中に“存在”を築くこと。それこそがマーケターにしかできない、最も戦略的な仕事です。
今日からできる第一歩
いきなりすべてのCEPを洗い出し、文脈ごとの施策設計を一気に変える必要はありません。
まずは、次の問いから始めてみてください。
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「自社は、どんな状況で思い出されたいか?」
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「そのとき、顧客はどんな悩みを抱えているか?」
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「その悩みに対して、記憶に残る価値提供ができているか?」
このような視点で施策を見直すだけで、コンテンツの切り口も、広告コピーも、メルマガのトーンも変わってくるはずです。
想起は、最も見えづらいが、最も効くマーケティング資産
“想起”は数値化が難しいため、KPIとしては設定しづらいかもしれません。
しかし、比較検討の瞬間に想起されるかどうかは、最終的な受注に直結する、極めて重要なファクターです。
むしろ、想起されない限り、どんなに訴求力のあるオファーも届かない。どれだけ緻密な施策も空を切る。
だからこそ、「想起集合に入る設計」は、全マーケティング施策の前提として位置づけるべきものです。
最後に、もう一度だけ問いかけます。
「あなたの会社は、思い出される会社ですか?」
この問いへの答えを変えることが、BtoBマーケティングの成果を変える第一歩になると、私は信じています。
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