
中国の若者の間で、驚くほどオープンな新しい出会いの形が急速に広がりつつある。
それは、数千人の視聴者がリアルタイムで見守る中、ビデオチャットを通じて行われる“ライブ配信型のお見合い”だ。
伝統的な価値観と現代的なテクノロジーが交差するこの現象は、単なる流行に留まらず、現代中国が抱える社会的な課題や、愛を求める個人の切実な思いを映し出している。
『ワシントンポスト』が報道した、中国で広がる新たな出会いの潮流をみてみよう。
伝統と現実の狭間で生まれた苦肉の策。
中国の若者が直面する恋愛・結婚の壁
中国では近年、未婚率の上昇と少子高齢化が深刻な社会問題となっている。政府統計によれば、2023年の15歳以上の単身者は2億4000万人にも達し、過去最高を記録した。
習近平国家主席が結婚や出産を奨励する演説を行うなど、国を挙げて対策が講じられてはいるものの、若者を取り巻く環境は依然として厳しい。
背景の一つに、過酷な労働環境がある。「996」と呼ばれる午前9時から午後9時まで週6日働くような長時間労働が一部企業で常態化しており、多くの若者が心身ともに疲弊し、恋愛や結婚に踏み出す時間的・精神的余裕を持てないでいる。
こうした社会のプレッシャーに対する一つの抵抗として、あえてキャリアや結婚といった従来の成功モデルを追わず、最低限の生活で満足する「寝そべり族(lying flat / 躺平)」というライフスタイルを選ぶ者も現れている。
また、伝統的なお見合いの場である「結婚市場」では、親同士が子供の釣書を交換し条件本位で話が進むことが多く、当事者の意思が尊重されにくいという不満も根強い。
一方で、手軽なマッチングアプリも、表面的なプロフィールのやり取りに終始しがちで、相手の人間性を深く理解するには限界があると感じる人も少なくない。
25年間恋愛経験がなかったというSteve Chenさんのように、「母胎ソロ(mutai solo)」(母親の胎内にいる時から独身という意味のネットスラング)を自称するほど恋愛に奥手な若者にとって、これらの方法はハードルが高かった。
“サイバー・マッチメーカー”が導く、リアルタイムな劇場型婚活
こうした閉塞感を打ち破るかのように登場したのが、ライブ配信型のお見合いだ。
その舞台の一つが、中国のソーシャルメディアアプリ「RedNote」などで活動する“サイバー・マッチメーカー”と呼ばれる配信者たちが主催するビデオチャットルームである。
例えば、マッチメーカーとして活躍するTian Xin氏の配信には、多い時で数千人の視聴者が集まる。
彼女は巧みな話術で参加者の緊張をほぐし、会話を円滑に進め、時には的確なアドバイスも送る。参加者は画面に映し出された他の参加者たちと、年齢、職業、趣味、相手に求める条件などを公開で語り合う。
時には、体育教師の男性が視聴者のリクエストに応えて筋肉美を披露したり、参加者がカメラの前でメイクを落としたり、夜食を食べたりと、ありのままの日常をさらけ出す場面も見られる。このオープンさが、従来の形式張ったお見合いとは一線を画し、参加者の素顔や人間性を垣間見る機会を生み出している。
視聴者はコメント機能を通じてリアルタイムで感想を述べたり、参加者を応援したりと、まるで劇場型のエンターテイメントに参加するように婚活のプロセスを共有する。
先述のSteve Chenさんは、このライブ配信で臨床研修医としての多忙な日常を語り、同じく常連だった Christine Zhangさんと出会ったという。
彼女は数百人の視聴者の前で Steve への好意を表明し、それがきっかけで二人は交際に発展、真剣な関係を築いている。
「勇気のある人だけが愛を見つけられる」と語る彼女の言葉は、この新しい出会いの形がもたらす可能性を象徴しているようだ。
中国で勃興するライブ配信型お見合いは、テクノロジーが人間関係のあり方を大きく変えうることを示す一例と言えるだろう。
画面の向こうに確かに存在する他者とのリアルなコミュニケーションが、孤独感を抱える現代人にとって新たな希望の光となるのかもしれない。
このユニークな婚活トレンドが今後どのように進化し、中国社会に何をもたらすのか、注目していく必要がある。
🧠 編集部の感想:
ライブ配信型お見合いは、伝統と現代が交差する新たな出会いの形で興味深いです。多くの人が視聴者の前で自分をさらけ出すことで、従来の恋愛の枠を超えたリアルなつながりが生まれるのは刺激的。中国の若者が抱える恋愛や結婚に対する課題を浮き彫りにしつつ、希望を見出す可能性があることに、これからの展開に期待が高まります。
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