2012年に火星へ降り立った火星探査ロボット「キュリオシティ」。
それ以来、長きにわたって火星上をたったひとりで調査し続けてきました。
その姿はまるで、地球に取り残されたウォーリーのようです。
そんな中、NASAの火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」が、宇宙空間からキュリオシティを捉えることに成功したと報じられました。
調査の真っ最中のキュリオシティが宇宙から撮影されたのは初めてだといいます。
目次
- 走行中のキュリオシティを撮影
- キュリオシティはどこに向かっているのか?
走行中のキュリオシティを撮影
「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」は火星の周回軌道から火星を探査しています。
今回の写真が撮影されたのは、キュリオシティの火星探査開始から4,466火星日(ソル)目、地球時間で2025年2月28日のことでした。
火星の周回軌道にあるマーズ・リコネサンス・オービターは、搭載されている超高性能カメラ「HiRISE(高解像度画像科学実験)」を用いて、火星表面を詳細に撮影しました。
その撮影データを解析した結果、淡く赤茶けた大地に、小さな黒い点が移動しているのが見つかったのです。
これは走行中のキュリオシティでした。
キュリオシティの背後には、はっきりと続く一筋の灰色の線が見えますが、これは探査車の車輪が火星の土に刻んだ走行跡です。
キュリオシティの走行速度はとてもゆっくりで、最高時速0.16キロメートル、つまり人間の歩行速度の40分の1程度しかありません。

なぜこんなにもゆっくりなのかというと、理由は2つあります。
ひとつはエネルギー効率です。
火星でできるだけ長く探査してもらうため、電力消費を抑える必要があり、そのために無駄な加速は避けています。
もうひとつは安全な走行です。
火星の地形は一様ではなく、柔らかい砂地や鋭い岩場、急な傾斜などが続きます。
ヘタに飛ばして転んだりすれば、起こしてくれる人もいないので、永遠に寝転んだままになってしれないのです。
写真に映った走行跡は、火星の激しい風によっていずれ消えてしまう運命にあります。
キュリオシティはどこに向かっているのか?
キュリオシティが向かっているのは、ゲールクレーター内に存在する「ボックスワーク構造」と呼ばれる興味深い地形です。
ボックスワークとは、蜘蛛の巣のように網目状に広がった岩の構造で、地球では洞窟などで見られます。
形成のメカニズムは、まず地下水が岩の割れ目を流れ、その中に鉱物を沈着させること。
長い年月をかけて周囲の岩が風化・侵食されると、鉱物だけが残り、細かい格子状の模様を形作るのです。
このような地形が火星に存在するということは、かつてその地下に豊かな水流があったことを示唆します。
しかも、地中という比較的暖かく湿潤な環境は、微生物が生存するにはうってつけの場所だった可能性があります。
つまり、もし火星に古代の生命が存在したのなら、その痕跡がこうしたボックスワーク構造の中に閉じ込められているかもしれないのです。

NASAジェット推進研究所(JPL)のチームは、探査ルートを緻密に設計し、毎日の走行を慎重に指示しています。
目の前には急な傾斜が立ちはだかっていましたが、キュリオシティはすでにその坂を登りきり、新たな科学調査地点への到達はあと1カ月ほどの見込みです。
ここではキュリオシティが化学分析を行い、岩石に含まれる鉱物成分を詳しく調べる予定となっています。
それによって「地下水が流れていた痕跡」や「生命活動に伴う化学的なサイン」が検出できる可能性があるのです。
微かな望みを胸に、キュリオシティは今日もひとり、赤い世界を進み続けます。
ゴールが見えても、誰も迎えてはくれません。
しかしその孤独な旅路を私たちは地球から確かに見守っています。
参考文献
NASA Reveals First-of-Its-Kind Image of Mars Rover Seen From Space
https://www.sciencealert.com/nasa-reveals-first-of-its-kind-image-of-mars-rover-seen-from-space
NASA Orbiter Spots Curiosity Rover Making Tracks to Next Science Stop
https://www.nasa.gov/missions/mars-science-laboratory/nasa-orbiter-spots-curiosity-rover-making-tracks-to-next-science-stop/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
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