欧州の主要自動車メーカーが財務見通しを次々に撤回している。トランプ米大統領による関税が主因で、急速に変化する米国の通商戦略がもたらす混乱の深刻さを物語っている。
ジープを傘下に置くステランティスとドイツのメルセデス・ベンツ・グループは4月30日、関税を理由に今年の業績見通しを撤回した。関税はサプライチェーン(供給網)を混乱させ、自動車価格の上昇を招いている。
メルセデスは、関税による変動性が、今年の事業展開について「信頼性のある見通しを示すには高すぎる」と指摘した。同社は、現在の貿易障壁が継続した場合、営業利益、キャッシュフロー、利益率が打撃を受けると述べるにとどめた。
フォルクスワーゲン(VW)は業績見通しをほぼ据え置いたが、関税の影響をまだ織り込んでいないとした。また、営業利益率は目標範囲の5.5-6.5%の下限付近になると予想している。同社の1-3月期(第1四半期)の純利益は、前年同期比で40%減少した。欧州工場での製造コスト上昇と、主要市場の中国での需要減退で利益率を圧迫したという。
欧州の自動車メーカーは、トランプ政権が新たな厳しい関税を導入した後、例外措置や延期を繰り返し、対応を変化させ続けているため、影響を正確に把握できずにいる。
トランプ氏は4月29日に、外国製の自動車部品に対する一部関税を撤廃し、複数の関税が重複して課されないようにする大統領令に署名した。これらの措置は製造業者やサプライヤーの負担を軽減すると見込まれるが、米国が中国との通商合意に達するかどうかなど、根本的な問題は未解決のままだ。

米アリゾナ州にあるメルセデス・ベンツのディーラー
Source: Bloomberg
対応模索
英アストンマーティンは30日、米国への高級車の出荷を制限し、現地のディーラー在庫を消化することで、関税の影響を緩和する計画を発表した。
メルセデスとVWの株価は下落した一方、アストンマーティンの株価はロンドン市場で序盤の落ち込みを回復した。ステランティスはミラノ市場で一時4.6%上昇した。アナリストは、同社の北米事業が安定しつつあり、主要地域での価格設定が強化されている点を重視している。ステランティスは、米国で販売する車のほとんどを現地で生産しており、トランプ氏の29日の救済措置の恩恵を受ける見込みだ。

トランプ氏は、関税は国内の自動車生産と雇用を後押しするために必要と主張しているが、自動車業界幹部は、長期的に高い関税を課すことは、その目標に反すると警告している。
VWのアルノ・アントリッツ最高財務責任者(CFO)は30日、生産拡大と関税の緩和策について、米政策当局者と協力する用意があると述べた。同社は、テネシー州チャタヌーガとメキシコ・プエブラで、米国市場向けの自動車の一部を生産している。
米アラバマ州タスカルーサに工場を持つメルセデスは4月、関税対策として、他の車種の生産を米国に切り替えることも検討していると明らかにした。同社は現在、欧州製車両を北米に輸出する一方、米国で生産した車両を国内販売と中国を含む市場への輸出に充てている。ハラルド・ウィルヘルムCFOは、関税が変更されない場合、一部免除を考慮しても、今年の自動車製造の利益率が300ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)減少するとの見通しを示した。従来の見通しでは6-8%の利益率が、3%まで低下する可能性があるということだ。
S&Pグローバル・モビリティは4月、米国の関税を理由に、世界の小型乗用車生産の年間見通しを大幅に引き下げた。見通しでは、自動車メーカーの今年の生産台数を、1カ月前時点の想定より約156万台少ない約8791万台としている。
原題:Mercedes, Stellantis Scrap Guidance as Tariff Chaos Spreads (1)、 Volkswagen Earnings Plunge 40% as US Tariffs Cloud Outlook (1)(抜粋)
(4段落目を追加し更新します)
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