ワクチン接種で腕を差し出す時、ふと疑問に感じるかもしれません。
「右腕と左腕、どっちがいいのだろう?」
利き腕が痛むのを避けるために、反対の腕が選ばれることもあるでしょう。
でも実は、「どちらの腕に打つか」が、免疫の働きに影響を与えるかもしれないという研究結果があります。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究チームは、2回目のワクチンの接種部位が免疫の応答に違いをもたらすことを明らかにしています。
研究の詳細は、2025年4月28日付の『Cell』誌に掲載されました。
目次
- ワクチン接種する腕は右と左どっちがいいの?
- なぜ「同じ腕」にワクチン接種すると良いのか?
ワクチン接種する腕は右と左どっちがいいの?
「ワクチン接種する腕は、右腕と左腕のどっちがいいのだろう?」
これまで、ワクチンをどちらの腕に打つかについて、科学的に調べた研究はごく僅かしかありません。
しかもCOVIDワクチンに関する結果は様々であり、決定的な証拠はありませんでした。

たとえば、COVID-19の流行後、ドイツの研究者らは、同じ腕に複数回注射すると、2週間後に免疫反応がより良くなることを発見しました。
一方で、アメリカの研究者は、真逆の結果を提出しました。
前回のワクチン接種とは別の腕にするなら、抗体が増加するというのです。
こうした矛盾するような研究結果がいくつかある中で、UNSWによる新しい研究が行われました。
この研究では、ヒトとマウスの両方を用いた実験が行われ、その結果が一致しています。
今回の結果は、「同じ腕にワクチンを打つほうが、より良い免疫反応を引き起こす」と言うものでした。
では、なぜそんなことが起こるのでしょうか?
なぜ「同じ腕」にワクチン接種すると良いのか?
この研究では、健康な大人30人を対象に、COVID-19ワクチン(ファイザー製ワクチン)を3週間間隔で2回接種し、免疫の働きにどんな違いが出るかを調べました。
20人は1回目と2回目を同じ腕に、10人は反対の腕に接種しました。
その結果、同じ腕に打った人は、2回目の接種から5~7日後に、より多くの抗体(特に広い型に対応できるもの)を素早く産生していたことが分かりました。
一方、反対の腕に打った人では、抗体の立ち上がりが遅く、初期の防御反応が弱かったのです。
ただし、時間の経過とともに(2回目の摂取から4週間後には)両グループの抗体レベルはおおよそ近い水準に落ち着いたとされています。

また、今回の研究ではマウスを使った実験でも、同様の結果が得られました。
マウスの体の同じ側にワクチンを投与すると、リンパ節の監視役である免疫細胞「マクロファージ」で、既に反応する準備が整っていたのです。
これは「リンパ節による記憶」を意味します。
ワクチンを打つと、近くのリンパ節がその情報を学習・記憶するため、同じ病原体が来たときにすばやく反応できたのです。
では結局、ワクチン接種はどちらの腕で受けるのがいいのでしょうか?
今回の研究結果だけを考えると、「初回と同じ腕で受けることが、初期の免疫反応をより強く引き出す」と言えます。
ただし、最終的な抗体の量はどちらの腕でも似たような水準に達するため、重大な違いではありません。
研究チームも、「もし、異なる腕でワクチン接種を受けたとしても、心配しないでください。時間の経過と共に防御効果の差は小さくなります」と述べています。
そして、この研究は小規模に行われたものであり限界があります。
より大きな集団に対する検証が今後の課題と言えるでしょう。
研究チームも「これはワクチン戦略の一つの知見であり、今後の設計や記録方法に活かせる情報です」と慎重に語っています。
参考文献
Which Arm Gets Vaccinated Could Play a Role in Your Immune Response
https://www.sciencealert.com/which-arm-gets-vaccinated-could-play-a-role-in-your-immune-response
Left or right arm? New research reveals why vaccination site matters for immune response
https://www.sciencedaily.com/releases/2025/04/250428221209.htm
元論文
Macrophages direct location-dependent recall of B cell memory to vaccination
https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.04.005
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部
Views: 0