『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)が、5月16日の日本テレビ系『金曜ロードショー』にて本編ノーカットでオンエアされる。同シリーズが『金曜ロードショー』で放送されるたび、耳を傾けたくなる声がある。主演トム・クルーズ演じるイーサン・ハントの吹き替えを長年担当している、クルーズ本人からも「公認」とされた声優・森川智之の声だ。
息もつかせぬアクションの連続で観客を圧倒するこのシリーズにおいても、森川の演技は緻密で、感情のグラデーションも実に豊かだ。さらに特筆すべきは、イーサン・ハントというキャラクターが作中で多国籍な任務にあたり、イタリア語やロシア語など、現地の言語を自在に話す設定であること。これらもすべて、日本語吹替版では森川が担当しており、外国語のセリフ部分は専門の言語指導を受けたうえで演じているという(※)。
「超一流のエージェント」であるイーサンとして、言語の響きひとつにも“伝わるリアリティ”が求められる。それに応えるのが、森川智之という声優のプロフェッショナリズムだ。
『クレヨンしんちゃん』の二代目・野原ひろしをはじめ、『ファイナルファンタジーVII』のセフィロス、さらにはトム・クルーズのみならずユアン・マクレガーの吹き替えまで。そのキャリアを並べるだけで、その守備範囲の広さには改めて驚かされる。
なかでも印象的なのが、美形で冷徹な悪役やライバルキャラクターの演技。『機動新世紀ガンダムX』のシャギア・フロスト、『犬夜叉』の奈落、『地獄先生ぬ~べ~』の玉藻京介といった“ダークサイド”の役どころでは、妖艶さや静かな狂気を含んだ芝居が印象に残る。厚みのある低音がベースにありながらも、そこに知性や色気、余裕といった質感を重ねていくことで、悪の側にいながらも、どこか紳士的な余韻を残す。それは、森川の声ならではの魔力だ。
さらに特筆すべきは、ショートアニメ『神々の記』で見せた表現の幅だろう。本作では、人間キャラクターのイアビやアーケウに加え、神々や群衆といった存在まで、登場するすべての声を1人で演じ分ける。さらに主題歌「神々を讃える唄」も自ら歌唱。演じる対象の年齢も性質も超えて、作品世界を作り上げていくその技量は圧巻だ。
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今挙げた作品群を見渡すだけでも、声優としての振れ幅がいかに大きいかがよくわかる。その声は、スクリーンやテレビの枠を超え、思いがけない場所にも息づいている。東京ディズニーシーではエントランスでの開園・閉園アナウンスや、『タワー・オブ・テラー』のエレベーター搭乗前ナレーションなども担当。『ズートピア』(2016年)のニック・ワイルドや『トイ・ストーリー4』(2019年)のデューク・カブーンなど、キャラクターを演じるだけでなく、非日常の入口にふさわしい重厚さを兼ね備えた“語り部”として、日々数多くの来園者を物語の世界へと誘っているのだ。
さらに忘れてはならないのが、BL作品での存在感だ。『ただいま、おかえり』『純情ロマンチカ』など、数多くのアニメやボイスドラマ作品に出演し、関係性の機微や感情のゆらぎを、声ひとつで繊細に描いてきた。甘さや色気、そして人間ドラマの中に滲む苦さや切なさ。そのどれもが過剰にならず、キャラクターに自然な体温をもたらしている。黎明期から真摯に作品と向き合い、“声”という手段でその魅力を丁寧に伝えてきた姿勢には、現在も変わらぬ説得力がある。
また、こうした出演を通じて、後進の声優たちにもジャンルの奥深さや表現への向き合い方を示してきた点でも、BL文化の発展に確かな足跡を刻んできた。出演作の多さはもちろん、どの作品にも深い理解と敬意をもって臨んできたからこそ、森川智之は“BLの帝王”と称される存在となったのだろう。

数々の名作を振り返って改めて思うのは、森川の声が響くとき、作品の温度が確かに変わるということ。今夜『金曜ロードショー』で響くその声が、またひとつ、新たな冒険の扉を開いてくれるはずだ。
参照
https://hominis.media/category/voiceactor/post4202/
■放送情報
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』
日本テレビ系にて、5月16日(金)21:00〜23:39放送
※放送枠45分拡大 ※本編ノーカット
出演:トム・クルーズ(森川智之)、ジェレミー・レナー(花輪英司)、サイモン・ペッグ(根本泰彦)、ポーラ・パットン(東條加那子)、ミカエル・ニクヴィスト(仲野裕)、ウラジミール・マシコフ(水内清光)、ジョシュ・ホロウェイ(成田剣)、アニル・カプール(天田益男)、レア・セイドゥ(行成とあ)、サムリ・エーデルマン(宮内敦士)、イワン・シュヴェドフ(大滝寛)、パヴェル・クリス(梅津秀行)、ミラジ・グルビッチ(遠藤純一)、イリア・ヴォロック(駒谷昌男)
監督:ブラッド・バード
製作:トム・クルーズ、J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク
©2025 Paramount Pictures。
編集部の感想:
森川智之さんのプロフェッショナリズムは本当に素晴らしいですね。多国籍なキャラクターを演じる際の細やかな表現力と、感情の豊かさには感銘を受けます。トム・クルーズからも公認される実力を持つ彼の声が、作品に与える温度感を改めて感じさせてくれました。
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