金曜日, 5月 30, 2025
ホームニュースNetflix松重豊と共演、韓国の大御所バラード歌手ソン・シギョンが語る「20年で変化した音楽界」

松重豊と共演、韓国の大御所バラード歌手ソン・シギョンが語る「20年で変化した音楽界」


韓国では知らない人がいない国民的レジェンド歌手のソン‧シギョンさん。「バラードの皇帝」「鼓膜彼氏」等の異名を持ち、アルバム総セールス数は200万枚以上。毎年恒例のコンサートでは6万人を動員し、「チケットの取れない歌手」としても知られている。

YouTubeチャンネルでは本業である歌はもちろん、大好きだという食べ歩きや料理のコンテンツを合わせて配信しており、現時点でフォロワー数は210万人超え。またNetflixでは、松重豊さんと共演するグルメ番組『隣の国のグルメイト』が配信中でシーズン2に突入! 新たなエピソードが配信されるたびにランキングの上位にあがっている。

松重さんはシギョンさんのYouTubeチャンネルにも出演し、107万再生を超えている。そんな活躍から5月5日には韓国を代表する総合芸能大賞である第61回百想芸術大賞で、音楽活動やYouTubeなど多角的な活動と人気で「芸能賞」にもノミネートされた。

連載7回目となる今回は、20年を超えるキャリアとなる「音楽」についての想いを詳しく聞いた。

シンガーとして「いい曲」を歌いたい

――2000年に韓国でデビューしたソン・シギョンさん。今までシギョンさんが歌ってきた曲は、今も多くの人に愛され、BTSのジョングクやSHINeeのオンユなどもカヴァーし話題を集めた。楽曲は、自身で作曲することもあれば、提供された曲を歌うこともあり、そこにこだわりはなく、いちシンガーとして「誰が作った曲でもいい曲を歌いたい」という思いがあるという。ご自身で作曲する際のスタイルや方法について聞いてみた。

「自分で曲作りをする際は主に鍵盤、ピアノで作曲します。僕はもともとプロの作曲家ではなくシンガーなので、自身で曲を作ることにはそこまでこだわっていません。昔はちょっとプレッシャーがあって『歌手としては、曲を書けないといけない』という気持ちがありましたが、今はそんなふうには考えなくなりました。

この世界に、自分よりいい曲を書ける人はたくさんいます。僕にはシンガーとしての立場とシンガーソングライターとしての立場がありますが、それがいい感じで混ざっていてあまりこだわりがないんですね。

韓国では、映画監督にしても自分で脚本を書き演出をするという感じで、全部一人でやる人が多いです。でも、アメリカ映画のクレジットを見ると、それぞれ分業で別の人がやっている。役者にしても監督や脚本家にしても、誰が何をやろうと、それぞれのプロとしての想いが合わさりその作品がいい状態で作られ、世の中に出ていけばそれでいい。歌手も同じで、誰が作った曲でもいいからいい曲を歌いたいというのが本音です。

写真提供/ソン・シギョン

なかには『売れなくてもいいから自分が作った曲を歌いたい』という人もいるでしょう。確かに、自作の歌を歌うときの気持ちと、人が作った歌を歌うときの気持ちはまったく違います。これはもう、どちらがいい悪いという問題ではなくどこにプライオリティを置くのか、ということなので、人それぞれでいいのではないかと思っています。

また、人に曲を書いてあげる楽しさも違います。自分が提供した曲を別のシンガーが歌うのを見るのは、『なるほど、こんなふうに歌うんだ!』という発見があってそれはまた違った感じで楽しいです」

ダメだったら次! 速いペースで進む音楽界

――「自分は古い人間なので、今の若い人たちのようにトラックを全部作るというスタイルではありません。手元に鍵盤がないときは、頭の中で曲を考えることもあります」と語るソン・シギョンさん。時代と共に変化する制作システムに、驚かされることもあるそう。

「昔はアルバムをリリースするスパンも長く、たとえば僕の場合で言うと、1枚出したら次は2年後に出すというのんびりとしたサイクルでした。でも今はそうではなく、1曲出してダメだったらはい次。よし、次の曲は良かった。じゃあこの調子で次いこう!という具合。言わば、「トライアンドエラー」の時代。

これは韓国だけではないのかもしれませんが、市場のスピードがとても速くなっていると感じます。もちろん今でも一人でこだわりながら作るアーティストもいますが、そういった地道な制作方法が少数派になってきたことは確かです。

曲作りといえば、昔はすごく頑張って魂を入れて作るため、誰かから『この部分が気になるからちょっと直したいな』と言われると、『人の作品の邪魔をするな!』と一蹴することができました。それくらいひとりで、全身全霊で作っていたんですよね。

世界中でバズったブルーノ・マーズとBLACK PINKのロゼの『APT.』は、作詞・作曲のクレジット欄に10人を超える名前があります。最近のアイドルの曲も同様で、やっぱり10人近いプロデューサーの名前が並んでいる。これも時代の流れなのでしょうが、見るたびにびっくりします(笑)」

t8xwm1py1ukr1qp39hwltdk2写真提供/ソン・シギョン

現在の主流、「ソングキャンプ」とは?

――昔と今とでは大きく変わった音楽制作の現場。ソン・シギョンさんは、「楽器が弾けなくても、センスがあれば誰でもアーティストになれる」と今の音楽シーンを分析する。

「ソングキャンプ(Songwriting Camp)とは、作詞家、作曲家、プロデューサー、アーティストなどが一堂に会し、短期間で集中的に楽曲を制作する合宿形式のセッションのこと。1990年代後半にスウェーデンを中心に始まり、2000年代後半から韓国のSMエンタテインメントが取り入れ、K-POP界でも一般的になった手法です。

複数のプロデューサーがワイワイと打ち合わせのような形で曲作りをすることが多く、センスのいい人たちが集まって、『あ、そのフレーズいいね』『ここはダダダダ~からのララララ~♪がいいんじゃない?』といった感じで、自由にアイデアを出し合いながら1曲を作り上げていきます。

みんなで『いいねえ、これは売れるんじゃない?』なんてことを言い合いながら、毎日楽しく曲を作る時代になっているのです。

そのシステムは成果報酬型が多く、楽曲が採用・リリースされた場合にのみ報酬やロイヤリティが発生し、採用されなければ無報酬。ソングキャンプで作られた曲は、 全てが日の目を見るわけではないですが、その過程での出会った人脈や経験は、作曲家やアーティストにとっても財産になります。僕も近い将来、参加してみようと考えています。

昔は、創作活動は人間にとってすごくつらい作業でした。一人だけの孤独な時間を乗り越えて、絞り出すように作品を作る……。でも今は、プレッシャーなんか感じずに、みんなで楽しくやればいいじゃん!みたいな感じで、「スピード」と「多様性」の時代かなと思います。

そう、楽器が弾けなくても、センスがあれば誰でもアーティストになれる。そもそも楽器が弾ける人が必ずしもいい曲を作れるとは限りませんしね。時代が変わったなあとしみじみ思います」

ソン・シギョンの音楽の土台とは

――教育熱の高さで知られる韓国。ソン・シギョンさんも幼いころから、当然のように習い事でピアノを学んだ。ステージでも弾き語りをするほどの腕前だが、そこにいきつくまでにはあのスティービー・ワンダーが影響しているんだとか!?

「日本も同じかもしれませんが、韓国は子どもへの教育熱がすごくて、小さい頃からお母さんは我が子にいろいろな習い事をさせます。テコンドー、美術、計算、ピアノ、英語……もう子どもがかわいそう(笑)。僕の時代からそうだったので、今はもっと忙しくなっていると思います。僕が住んでいたソウルの地域は教育熱心な家庭が多く、そして韓国ではクラシックが人気ということで、ピアノは誰もが当然のようにやらされていました。

でもピアノって、ある一定以上のレベルにならないと役に立たないんですよ。5年以上習って基本的なことは全部終えて、ベートーヴェン、モーツァルト、バッハあたりまでいければいいのですが、そこまでいくにはやはり大学で音楽を専攻しないといけません。楽譜を見ながらちょっと弾けるくらいでは、大衆音楽には何の役にも立たないです。

僕は、音楽を専攻する気はなかったので練習は楽曲を聴いてそれを正確に弾く、“耳コピ”でピアノの腕を磨いていきました。

たとえばいい教材としてはスティービー・ワンダーの曲。

コピーしたことある人はわかると思うけど、すごい難しい!

一般の目が見える人の曲とは全然違って、キーが全部違うし、自由。ピアノは鍵盤の黒い部分が多いと難しいんだけど、ほとんど黒いところ(笑)。

最初は1曲を聴き取るのに3時間以上かかり、繰り返すうちにどんどん短い時間で完全コピーできるようになる。そうやってピアノを練習してました。音楽を勉強する人にはスティービー・ワンダー、おすすめです」

時代の変化を受け入れることの必要性

――技術の進歩により、アナログなものが次々と消えていく現代。クリエイターとして戸惑う部分もあれば、受け入れて適応していかねばと思う部分もあるとソン・シギョンさんは言う。

「地道に音楽と向き合って20年経って、昔憧れていた先輩みたいな曲がやっとできるようになったら、もうそんな曲は売れない、求められない時代になってしまう。時代の変化が早すぎて、もうどうしたらいいんだって感じ(笑)。

例えるなら、ポケベル全盛の時代にポケベルをなんとか使えるように努力して、やっとよし理解できたと思った時には世間はスマホを使っていた、みたいな(笑)。

僕が尊敬するある写真家は、フィルムで撮って、暗室で現像して、時間をかけて1枚の芸術作品を生み出す、そのアナログな過程をも大事にしていました。でも今はデジタルで、失敗したら消してやりなおしができる。……こんなことを言いながら、自分も古いことを言っているなってわかっている。でもここを否定してしまうと、今まで自分や先輩たちが力を注いで努力してきたことが、ある意味全部ムダになってしまう気もして……。

どんな仕事でも、時代の変化をすぐに受け入れて適応していく人だけが生き残っていきます。それができない人は、『今の時代はダメだよ』と文句を言うだけの頑固おじさんになって世間から置いていかれる。僕は、そのちょうど真ん中に位置している世代なのかもしれません」

q9t26gmpccnyutcnxjzfxoiu画像提供/『隣の国のグルメイト』(Netflix)

連載『ソン・シギョンの〜짠(チャーン)〜乾杯!』の第7回は6月12日配信を予定しています。お楽しみに!!

ソン・シギョン(SUNG SI KYUNG)

⽣年⽉⽇:1979 年4⽉17⽇、⾝⻑:186cm、⾎液型:A型、出⾝校:⾼麗(コリョ)⼤学社会学科、同⾔論⼤学院卒業、⾔語:韓国語、英語、⽇本語※日本語能力試験最上級「N1」合格。

韓国本国では、知らない人はいない国民的人気歌手。その活躍は歌手活動のみにとどまらずMC、タレント、YouTuber、などエンターテイナーとして多岐に渡る活動を行うマルチタレント。自身の YouTube チャンネルは、登録者数が 210 万人を超え、歌以外にゲストとのトークや、料理、食べ歩きなどのコンテンツで、国内外の有名アーティストや俳優から出演オファーが来る人気のチャンネルとして注目されている。

また日本語の実力は、通訳なしで日本のトークバラエティー番組にも出演できるほど。2023 年にキングレコード移籍第1弾アルバム『こんなに君を』をリリース。今後の日本での活動に注目が集まる。



続きをみる

Views: 0

RELATED ARTICLES

返事を書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

- Advertisment -