🧠 概要:
概要
東京ガスは、従来の供給者モデルから脱却し、「エネルギーライフ共創型マーケティング」を実践している。このアプローチは、生活者との共創を重視し、エネルギーの売買から、ライフスタイルの設計や体験価値の提供へとシフトしている。特に「ウチコト」メディア戦略など、暮らしの情報を発信し、ブランドとの接点を深化させる試みが目立つ。災害時のライフライン確保やサステナビリティへの取り組みも強調し、エネルギー会社としての枠を超えたブランディングを追求している。
要約の箇条書き
- マーケティングの転換: 東京ガスは、生活者と共にライフスタイルを設計するパートナーとしてのブランド価値を育成。
- エネルギーの意味: エネルギーは生活の一部として存在意義を持つという視点から、提案型のコンテンツ展開を強化。
- ウチコトメディア戦略: レシピや暮らしの知恵を発信し、契約から「暮らしの工夫」への接点をシフト。
- 社会的責任: 災害時のライフライン確保やゼロカーボンへの取り組みを強調。
- ビジョン: 持続可能な暮らしのデザイン企業への進化を目指し、地域貢献やデジタル価値の提供を追求。
- 歴史と変遷: 創業1885年からの進化、電力自由化を契機に新たなサービス強化に取り組む。
- 課題への対応:
- 自由化による競争激化
- サステナビリティへの対応プレッシャー
- 顧客接点の希薄化
- 若年層からのブランド認知低下
- 解決策: 暮らしに根ざしたブランド再設計で、エネルギーがもたらす体験や価値を重視。
東京ガスが実践する「エネルギーライフ共創型マーケティング」は、従来の「供給者」としての立場から一歩踏み出し、“生活者と共にライフスタイルを設計するパートナー”としてのブランド価値を育てていく戦略です。エネルギーを「売る」ことから、「使い方」や「活かし方」までを共に考え、体験価値として提供するアプローチへと転換しました。
この戦略の中心にあるのは、「エネルギーは生活の中に溶け込んでこそ意味を持つ」という発想です。たとえば、ガス機器や電気契約を通じた商品提供にとどまらず、「食」「住」「防災」「サステナビリティ」など、生活全体を支えるテーマと結びつけた提案型のコンテンツ展開を強化。生活者目線で“エネルギーがある豊かさ”を再定義するような取り組みが目立ちます。
特に「ウチコト」などのメディア戦略では、レシピや暮らしの知恵といったコンテンツを発信することで、ブランドとの接点を「契約」ではなく「暮らしの工夫」へと移行させ、親しみやすさと実用性の両立を図っています。
また、災害時のライフライン確保やゼロカーボンの取り組みなど、社会的責任と生活密着型のメッセージを両立させている点も特徴です。こうした情報発信を通じて、「東京ガス=エネルギー会社」という認識を超え、「暮らしのインフラからライフパートナーへ」というブランディングの転換を実現しています。
このように、東京ガスのマーケティング戦略は、インフラ産業の枠を超えて“暮らしそのものをデザインする共創型アプローチ”として位置づけられる事例と言えるでしょう。
東京ガスとは?
東京ガスの事業内容
東京ガス株式会社は、日本のエネルギー業界を代表する総合エネルギー企業であり、都市ガスの供給を中核としながらも、電力事業、再生可能エネルギー開発、エネルギー機器販売、リフォーム、暮らし支援サービスに至るまで、多角的なビジネスを展開しています。
首都圏を中心に、都市ガスの安定供給を担ってきた東京ガスは、2016年の電力自由化を契機に「電気+ガス」のセット提案を本格化。家庭向けサービスではエネルギーの最適利用に加え、調理機器・床暖房・浴室乾燥などの住宅設備を通じた“快適な暮らしの実現”を軸にした提案型営業を展開しています。
また、法人向けにはエネルギーのコンサルティングや省エネソリューション、分散型エネルギーの導入支援などを実施。加えて、海外展開にも力を入れており、LNG(液化天然ガス)バリューチェーンの構築やアジア市場への技術・サービス提供を進めるなど、“グローバル総合エネルギー企業”への進化を志向しています。
東京ガスが掲げるビジョン
東京ガスのビジョンは、「エネルギーの未来をつくる、人と地球にやさしい社会へ」というメッセージに象徴されています。これは単なるガス会社から脱却し、「持続可能な暮らしのデザイン企業」としての自覚と意思を込めた長期的方向性です。
このビジョンのもと、東京ガスは「カーボンニュートラルへの移行」「地域と共生する都市インフラ」「安心・快適な暮らしの創出」「デジタルを活用した新たな価値の提供」という4つの柱を中心に、事業を再構築しています。特に「暮らし起点」という考え方を大切にし、生活者のリアルな課題に寄り添うプロダクト・サービス・情報設計を通じて、エネルギーと人との距離を縮める戦略を取っています。
また、再生可能エネルギーの積極導入や、脱炭素社会に向けた水素・メタネーション技術の開発など、社会課題と経営課題の統合を図る姿勢も明確に打ち出されています。単なる“供給者”から“共創者”へと変革を遂げつつある企業ビジョンが、全ての活動に通底しているのが特徴です。
東京ガスの歴史
東京ガスの創業は1885年(明治18年)にさかのぼり、日本の近代化とともに歩んできた歴史を持ちます。当初は、都市の夜を灯すガス灯の普及を目的に事業を開始。その後、日本の経済成長や都市開発と歩調を合わせて事業を拡大し、1960〜70年代には一般家庭へのガス供給の普及、1990年代にはガス機器の高度化・快適化を進めました。
2000年代に入ってからは、エネルギー自由化に伴い電力事業へ参入し、2016年には「東京ガスの電気」として家庭向けの電力サービスを本格展開。また、災害対応やBCP(事業継続計画)強化の一環として、分散型エネルギー(コージェネレーションシステムなど)の導入にも注力し、防災都市・レジリエンス社会の構築にも貢献しています。
加えて、2020年代以降は、カーボンニュートラル実現に向けてメタネーション技術や水素活用の研究開発を進行中。創業から140年を超える歴史のなかで、常に都市の発展とともに社会のインフラとして進化してきた企業であり、その使命感は現在も受け継がれています。
東京ガスが直面した課題
東京ガスは、長年にわたり都市インフラとしての地位を確立してきた一方で、時代の変化とともに従来の“供給者モデル”では対応しきれない新たな課題に直面してきました。特に、エネルギー自由化による競争激化、再生可能エネルギーへの対応プレッシャー、生活者との関係性の希薄化、そして若年層からのブランド認知の低下といった4つの課題は、企業としての進化を促す大きな契機となりました。
以下では、それぞれの課題を具体的に見ていきます。
1. 電力・ガス自由化に伴う“選ばれないリスク”の顕在化
2016年の電力小売自由化、そして2017年の都市ガス自由化は、東京ガスにとって構造的な転換点となりました。これまで地域独占に近い形で契約を維持できていた状況から、電気・ガスを“自由に選べる時代”へと移行したことで、他業種・異業種からの参入が一気に加速。
電力・通信・ネット企業との価格競争やサービス競争が激化し、単なる「インフラ提供者」では契約を維持できない構造に変化しました。特に若年層や単身世帯では、料金の安さやスマホ連携などの利便性を重視する傾向が強く、「東京ガスである理由」が説明できなければ、契約を失うリスクが現実化したのです。
この課題は、“生活に必要だから存在する”という前提を根底から問い直す契機となり、ブランドの再設計が急務となりました。
2. 再生可能エネルギーへの対応に対するプレッシャー
脱炭素社会の実現がグローバルな潮流となる中で、東京ガスにも“再エネ対応企業”としての変革が求められました。従来の天然ガス供給を中心としたビジネスモデルは、「比較的クリーン」ではあるものの、再生可能エネルギーではないという評価にさらされるリスクが増していました。
特に、欧州や北米のエネルギー事業者が太陽光・風力・水素などへとシフトする中で、「東京ガスの取り組みは遅れているのでは?」という見方が一部で広がっていたのです。メディアやESG投資家からの厳しい視線にさらされる中、「本当にサステナブルな企業か」という信頼の根幹に関わる課題が突きつけられました。
この状況は、単なる技術開発の問題だけでなく、企業の“社会的姿勢”が問われるブランディング課題としても大きく影響しました。
3. 顧客接点の希薄化による“距離感”の広がり
ガス・電気といった生活インフラは、日常的に使われる一方で、顧客との直接的な接点が極めて少ないサービスです。契約後は自動引き落としが続くだけで、商品選びや接客のような体験がほとんどないことから、「東京ガス=無感情な存在」と捉えられる傾向がありました。
この“無接点構造”は、生活者のロイヤルティを築きづらく、何かのきっかけで他社に乗り換えられる危険性を高める要因にもなっていました。とくに、デジタル世代が企業に求める「共感」や「ストーリー」が欠如していると感じさせる状況は、マーケティング視点で見ても大きな弱点でした。
“暮らしに密着しているはずなのに、存在感がない”。この矛盾をどう解消するかが、ブランド再構築の鍵を握っていたのです。
4. 若年層からのブランド認知・共感の低下
東京ガスは社会インフラとしての信頼性が高く、年配層からは「安心できるブランド」として認知されています。しかし、若年層やZ世代にとっては、ガス会社そのものが“選ぶ対象”として認識されていないという問題が浮き彫りになってきました。
SNS上での存在感や、ライフスタイル提案力、エモーショナルなブランドストーリーの不足は、特に若い世代の共感を得にくい要因となっており、「ガス会社にブランドは必要か?」という問いにすら直面しました。
このような状況は、「契約先としての認知」ではなく、「共に未来を考える存在」としての再定義が求められるタイミングであり、企業の姿勢・ビジュアル・語り口までを変革する必要性が突きつけられたのです。
東京ガスが直面した課題は、いずれもエネルギー業界特有の構造に起因するものでありながら、ブランドとしての在り方や社会との向き合い方を根本から見直すことを迫るものでした。電力自由化による価格競争、サステナビリティへの期待、無接点ビジネスの弱点、そして若年層との共感不足——。
これらの課題は、「ガス会社である」という前提を脱し、“暮らしの共創者”としてどのように振る舞うかを再定義する大きな転機となりました。次章では、東京ガスがこれらの課題にどう向き合い、乗り越えていったのかを見ていきます。
東京ガスはどうやって課題を乗り越えた?
東京ガスは、エネルギー自由化や社会構造の変化によって浮き彫りとなった複数の課題に対し、**“暮らし起点”でのブランド再設計というアプローチで打開策を講じました。**ガス・電気という商品そのものではなく、エネルギーがもたらす体験や価値を生活者と共に考えるという視点が、マーケティングの中核に据えられたのです。
以下では、東京ガスが具体的に実施した5つの課題解決策を紹介します。
Views: 0