月曜日, 5月 19, 2025
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最も満足度の高い仕事と最も満足度の低い仕事が判明


仕事には人生の大半の時間を費やすとよく言われます。

では、どんな職業に就くと人は幸せに感じるのでしょうか。

エストニアのタルトゥ大学(UT)で行われた大規模研究によって、医療職や聖職者、作家など達成感と自律性に富む仕事が満足度ランキングのトップを飾る一方、厨房や倉庫作業、コールセンターなど反復的でストレス要因の高い職種は下位に沈み、自己決定感が幸福度を強く押し上げるという傾向が示されました。

また意外なことに、仕事の満足度を左右するのは高い給料や肩書きよりも、「やりがい」や「自律性」といった要素であることが示されています。

あなたは今の仕事から十分な達成感を得られているでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月6日に『PsyArXiv』にて発表されました。

目次

  • なぜ今「仕事×幸福」を科学するのか
  • 5.9万人が答えた「仕事満足度」の真実
  • 収入と満足度の相関は薄い

なぜ今「仕事×幸福」を科学するのか

なぜ今「仕事×幸福」を科学するのか / 生活の満足度が高い職業/Credit:Maris Vainre et al . PsyArXiv (2025)

人々は昔から「〇〇という職業は幸せそう」「△△の仕事は大変そう」といったイメージを抱いてきました。

しかし、職業と人生満足度の関係を科学的に検証した研究は少なく、性格などの個人差を十分に除外できていないケースが多かったです。

たとえば「楽天的な人はどんな仕事でも満足しやすいのか」、あるいは「仕事そのものの特性が満足度を左右するのか」は切り分けが難しい問題です。

そこでエストニアのタルトゥ大学を中心とする研究チーム(第一著者カトリン・アンニ氏ら)は、エストニアのバイオバンクに登録された約5万9千人のデータを用いて職業別の満足度を比較しました。

なぜ今「仕事×幸福」を科学するのか
なぜ今「仕事×幸福」を科学するのか / 生活の満足度が低い職業/Credit:Maris Vainre et al . PsyArXiv (2025)

対象となった職種は263種類に及びます。

今回の研究では、あらかじめ分析計画を公開したうえで、年齢・性別・学歴などの人口統計学的要因に加えてビッグファイブ性格特性も詳細に測定し、統計モデルに組み込みました。

つまり「本人の性格や背景を考慮しても、職業の違いによって満足度に差が出るのか」を検証したのです。

この点が、過去の研究で曖昧だった部分を大きく補う特徴となっています。

研究チームの目的は、職業ごとの「仕事満足度」および「人生満足度」の差を客観的に測定し、「どの職業に就く人がより幸せなのか」を明らかにすることでした。

さらに、もし職業間で満足度に差が見られた場合、その要因が収入や社会的地位によるのか、あるいは仕事内容そのもの(自律性や対人支援の度合いなど)によるのかを検証する狙いもありました。

いわば「仕事選びと幸福度」の関係をデータで解き明かそうとする、壮大な試みです。

5.9万人が答えた「仕事満足度」の真実

5.9万人が答えた「仕事満足度」の真実
5.9万人が答えた「仕事満足度」の真実 / 仕事の満足度が高い職業/Credit:Maris Vainre et al . PsyArXiv (2025)

この研究ではエストニア・バイオバンク参加者から収集されたアンケートデータを分析しました。

参加者は自分の職業、年収、性格テストの結果、現在の仕事満足度、そして全体的な人生満足度を詳しく報告しています。

すると職業によって平均的な仕事満足度と人生満足度に有意な差があることが確認されました。

統計的なばらつきを示す効果量で見ると、職業によって仕事満足度は全変動の約7%(調整前)~6%(調整後)が説明され、人生満足度も約5%(調整前)~1~2%(調整後)が説明されるという結果です。

これらの値は心理学や社会学の分野ではかなり大きな差とされ、「職業による満足度の違い」が確かに存在することを示唆しています。

さらに、年齢・性別・学歴・性格などをすべて統計的にコントロールしてもなお職業間の満足度の差が残りました。

これは「どの職業に就いているか」という要因自体が幸福感に独立した影響を与えている可能性を示します。

では具体的に、どの職業が満足度の高い「幸せな仕事」なのでしょうか。

5.9万人が答えた「仕事満足度」の真実
5.9万人が答えた「仕事満足度」の真実 / 仕事の満足度が低い職業/Credit:Maris Vainre et al . PsyArXiv (2025)

分析によれば、仕事満足度が特に高かったのは「人々の役に立つ」「自主性が高い」と感じられる仕事でした。

例えば聖職者、医師や看護師などの医療系専門職、作家といった職業は平均して仕事満足度が非常に高く、「就いてよかった」と思う人が多いことが分かっています。

意外にも歯科医、助産師、理学療法士に加え、美容師やソフトウェア開発者も上位にランクインしました。

総じて、自分の裁量で人に貢献できる仕事、創造性を発揮できる仕事が上位に並んでいると言えそうです。

一方、仕事満足度が低かった職種には共通点があります。

工場や倉庫の作業員、厨房スタッフ、清掃員、販売員などの肉体労働系や単純労働系の仕事が軒並み下位に位置しました。

またコールセンターのオペレーターや市場調査のインタビュアーといった単調で拘束が多い仕事も満足度が低い結果でした。

研究者たちは「職業は人格特性と並んで人生の満足度を左右する最も重要な要因の一つ」であり、人格の影響を差し引いてもなおその効果が見られると結論付けています。

もう一つ興味深い結果は、「人生満足度」の職業差です。

仕事満足度が高い人はそのまま人生全体にも満足している場合が多いですが、一致しないケースも見られました。

例えば心理学者や特別支援学校の教師、船の機関士、さらには板金工などは人生満足度が高い職業の上位に挙がりました。

必ずしも高収入とは言えない仕事ですが、自分の人生に誇りを持ちやすい職業と言えるかもしれません。

一方で警備員、給仕スタッフ(ウェイター)、セールス営業、化学技術者(化学エンジニア)などは人生満足度が低い職業として名が挙がっています。

仕事そのものの満足度が低い職種ではやはり人生全般にも不満を感じやすい傾向がありますが、化学エンジニアのように仕事満足度は平均的でも人生全体の満足度が低めという例もあり、仕事以外の要因も含めた複合的な検討が必要と言えます。

収入と満足度の相関は薄い

収入と満足度の相関は薄い
収入と満足度の相関は薄い / Credit:Canva

この研究から、「仕事選び」と「幸福度」に関していくつかの重要な示唆が得られます。

第一に、仕事に対する満足感を左右するのは必ずしも給与や社会的地位ではないということです。

実際、統計分析では収入と仕事満足度の相関はわずかで、社会的な「仕事の格」と満足度の関連も非常に弱いことが示されました。

研究を率いたアンニ氏(タルトゥ大学)は「仕事の社会的地位が満足度に大きく影響すると思っていましたが、実際はごくわずかな相関しかありませんでした。達成感の高い仕事ほど満足度が高く、たとえ地位が低くても非常にやりがいのある仕事はあり得ます」とコメントしています。

つまり、仕事に幸福を見出すかどうかは「その仕事を通じて得られる目的意識や自己決定感」に大きく依存しており、お金や肩書きは補助的な要因に過ぎない可能性があります。

第二に、自営業やフリーランスといった働き方の利点も浮き彫りになりました。

調査では自営業者は勤め人よりも仕事満足度が高い傾向が見られましたが、その背景には「独立性」や「時間の融通」といった要素があると研究者は分析しています。

上司の指示に縛られず自分の裁量で働けることが、満足感につながりやすいのでしょう。

ただし、自営業には収入の不安定さや社会的保障の少なさも伴うため、一概に全員に勧められるわけではありません。

重要なのは、自分がどのような働き方でストレスを感じにくいかを知ることであり、キャリア選択時には「自分に合った職務環境かどうか」という視点が幸福度の向上にとって欠かせないといえます。

さらに、この研究は職業そのものの特性にも注目しています。

データを詳しく分析した結果、満足度の高い職業では「人と接する」「創造的である」「主体的に判断できる」などの傾向が強い一方、満足度の低い職業では「ルーチン的」「身体的に負荷が大きい」「他者から指示された作業が中心」といった特徴が浮かび上がりました。

これは心理学で言うワークバリュー(仕事で重視する価値観)や職務特性の違いが満足度に影響することを示唆しています。

例えば単調でも安定した仕事を好む人もいれば、多少不安定でも裁量の大きい仕事に充実を感じる人もいます。

本研究では裁量や自己決定が大きい仕事の満足度が高い傾向が見られましたが、理想の仕事像は個々人で異なるでしょう。

自分の性格や価値観に合った職業に就くことが、その人にとって最大の幸福をもたらすと考えられます。

最後に、この研究結果は社会全体への示唆も含んでいます。

仕事満足度の低い職種として挙がった現場労働やサービス業は、社会に不可欠な仕事であるにもかかわらず従事者の幸福度が低いという問題を浮き彫りにしました。

今後、これらの職種では働きがいを向上させる施策(仕事内容に裁量やスキル活用の余地を増やす、人間関係のストレスを減らす工夫、待遇改善など)が求められるでしょう。

逆に言えば、仕事環境や内容の工夫次第で従業員の幸福度を高める可能性があります。

本研究は職業ごとの満足度傾向を明らかにしましたが、低い傾向にある職種でも職場環境を見直すことでやりがいを感じられる場に変えていくことが社会の課題と言えそうです。

なお、本研究はエストニア国内のデータに基づいており、文化的背景によって職業イメージや満足度が異なる可能性があります。

研究チームも「エストニアで見られたパターンが他国でもそのまま当てはまるとは限りません」と注意を促しています。

例えば宗教関係者の高い満足度は宗教が盛んな国ほど顕著かもしれませんし、医師という職業の社会的評価も国によって違うでしょう。

しかし、「達成感」や「自律性」が幸福感につながりやすいという傾向は多くの社会で共通すると考えられます。

本研究はプレプリント(査読前の論文)として公開された段階ですが、調査の規模と包括的な分析から得られた知見は大きく、今後さらなる査読研究や国際比較研究が進めば、私たちが「幸福な働き方」について学べることは一層増えていくでしょう。

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元論文

How satisfaction varies among 263 occupations
https://doi.org/10.31234/osf.io/8zqgd_v1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部



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🧠 編集部の感想:
この研究は、仕事の満足度が給与や地位よりも「やりがい」と「自律性」に大きく依存していることを示しており、非常に興味深いです。特に、満足度の高い職業に自分の裁量で人に貢献できる仕事が多いことは、自己実現の重要性を再認識させます。さらに、職場環境の改善によって、満足度を高める可能性があることも示唆されており、社会全体での取り組みが求められます。

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