2025年4月4日より、ついに放送がスタートしたTVアニメ『謎解きはディナーのあとで』。宝生麗子(CV.花澤香菜)が難解な事件にぶち当たるたびに、彼女の推理力を指摘し、事件を解決へと導く、“執事兼運転手”の影山。ここでは、影山を演じる梶裕貴さんに、作品に対する思いをたっぷりと語ってもらった。
梶裕貴さん(以下、梶):先日、原作の東川(篤哉)先生と対談させていただいたんですけど、先生のミステリー作品への想いを伺う中で、先生ご自身は「ハートフルな部分が自分にはあまりないから、そういうものが必然的に表れない形で作品になっている」とおっしゃっていて。
そう考えると、影山ってまさにその象徴というか。ハートフルなところを排除して淡々と進めていく……しかも毒舌でありつつ、麗子たちを華麗にかわす様だったり、ある種の人間味のなさは、きっと東川先生ならではのキャラだったんだろうなと思いました。
影山って、名前に“影”が付いていますけど、まさに影の主役として、この作品の屋台骨として機能している存在なんだなって、改めて感じました。
そんな影山の歯に衣着せぬ小気味良い語り口と並行して、宝生麗子や風祭京一といった濃いめのキャラクターたちが、すごくポップに、バラエティ豊かに暴れ回ってくれるので、読んでいて飽きないんですよね。
それにミステリー作品だけれど、ミステリー初心者にとっても、もしくは読書に馴染みがない人にとっても、ミステリーというジャンルを非常に身近なものにしてくれる読みやすさがあるなとも感じました。ライトに本格ミステリーを楽しめるところが、本作の魅力だと思っています。
──そんな本作のアニメ化を知ったとき、いかがでしたか?
梶:原作の第一作が発売されたのが2010年で、僕自身も購入し、読んでいた作品なので、ここにきてアニメ化されたのはとても感慨深いなと。これまでにもオーディオブックやドラマなどでメディアミックスされており、いろいろな方が影山を演じてこられたと思うんですけど、15年という時を経て、まさか自分が影山役としてアニメに携われるとは思っておらず、本当に驚きましたし、嬉しかったですね。
──オーディションはいかがでしたか?
梶:もしも2010年のアニメ化であれば、おそらく僕に影山役のオーディションが回って来ることはなかったと思うので、そのあたりはご縁だと感じています。
本作のオーディションは少し特殊で、印象に残っていますね。既に絵コンテが上がっている状態で、それを元に作成された簡単な動画に合わせて、セリフを収録しました。
普通はシチュエーションとセリフのみが書かれた原稿をいただいて、自分の間合いで録り進めます。そもそもオーディションの段階で、動画まで出来上がっている現場は、ほとんどないかと。それぐらい『謎D』のアニメ制作は、クオリティを高めるために、早くから進行していたんだと思います。
──影山を演じる上で、意識した点や大切にされたことを教えてください。
梶:僕の中にいる原作版影山は、淡々と静かに執事の仕事をし、毒を吐き、推理するという明確なイメージがありました。けれど、今回のアニメ版では、テンションやテンポが、いわゆるエンタメに寄ったキャラクター性に振られています。
きっと麗子と風祭の濃さが際立っている分、音で聴いた時に、影山が単調すぎると彼のセリフが埋もれてしまい、勿体ないからという意図なのでしょう。そのため、セリフを少しスピーディーにしてみたり、毒を吐く時にも声量を大きくしてみたりと、一歩踏み込んだお芝居が求められているのだろうなと、第1話の収録時に感じました。
アニメの仕事には、声優本人のキャラクターと作品に対する自分のイメージ、アイデアやアイデンティティが少なからず投影されるものだと思っています。だからこそ今回、原作への思い入れが強いだけに、アニメ版影山を求められている中で、自分の脳内にいる影山と、どうすれば矛盾せずにアウトプットできるかを考えながら、大切に演じさせていただきました。
──そのギャップを埋めていくような感じだったのですか?
梶:そうですね。自分の中の原作版影山イメージと、監督たちの作りたいアニメ版影山イメージの擦り合わせをしていく作業でした。演出をいただき、「きっとこういうお芝居が求められているんだろうな」というのは何となく理解できるんです。
でも、ただ求められている音を出す、それっぽい表現をするというのは、たとえ技術的に可能であっても、誠実じゃないなと。「こう言われたから、こうやる」というのは、原作に対しても、自分を含めた読者に対しても、リスペクトがないなと思ったんです。
なので、アフレコ現場では「自分が思う影山を、いかにアニメ版として相応しい形でアウトプットできるか」という戦いを毎週していた感じです。納得をして声を出す、腑に落として芝居する、という作業。とてもシンプルであり、難しく、そして何より大切にしていたことです。
──花澤(香菜)さんや風祭役の宮野(真守)さんとの共演はいかがでしたか?
梶:基本的には、僕らはもう毎回一緒……といっても、影山は基本的に麗子としか喋っておらず、風祭とはほぼ喋ったことがないのでは…? “抑えて抑えて”の影山に対し、基本的に“出して出して”のお二人なので、見ていて憎たらしくなるほど、のびのび演じられていた印象が強いです(笑)。二人のアドリブやお芝居を聞いて、思わず後ろで笑ってしまうこともありました。
特に、宮野さんが毎話汗だくになって、声が枯れるぐらい叫んでいて。常に全力全開でカッコよかったです。でも、僕がマイク前に立つのはたいていエピソードの後半で、しかも、マイク前に立ったと思ったら、ずっと一人で喋り続けるという。序盤、散々楽しそうに演じていた二人を見たうえでの長セリフ一人旅は、結構堪えました(笑)。
──同じ世代を生きてきた同志でもあると思うのですが、梶さんから見たお二人の凄さは、どんなところにあると思いますか?
梶:花澤さんや宮野さんとは原作第1巻が発売された15年くらい前から、ずっと一緒にやってきたような感覚なので、僕にとってはすごく馴染みがあるし、絶対的な安心感がありますね。
麗子も風祭も、コミカルとシリアス両面が求められる難しいキャラクターですが、それこそお二人ともいろいろな作品で、どちらの役割も担ってきていますからね。もう第一話のアフレコ時からバチっと役にハマっていました。積み重ねてこられた経験値が遺憾なく発揮されていて、まさに納得のキャスティングです。
──このキャリアがありながらも、汗だくでアフレコされているというのがいいですね。
梶:とても素敵ですよね。それぞれがお互い、いろんなステージで経験してきたものを、この場で発揮する。今の自分たちだからこその声優力が、遺憾なく発揮されていた現場なのかなと思います。