🧠 あらすじと概要:
映画『浮き雲』のあらすじ
『浮き雲』は、フィンランドの監督アキ・カウリスマキによる作品で、主人公イロナがレストランで給仕長として働く姿を描いています。彼女は、経済的困難に直面しながらも、その日常を静かに耐え抜く様子が描かれています。この映画は、カウリスマキの独特の作風と静謐な雰囲気が特徴で、特にエドワード・ホッパーの絵画を連想させる情景が広がります。登場人物たちは、不幸に見舞われても己を貫き通し、やがて意を決して昔の仲間に頼ることで、彼らの人生に変化が訪れる様子が描かれます。
記事の要約
この記事は映画『浮き雲』のレビューで、特にそのビジュアルスタイルや物語の進行に関して触れています。特徴的なライティングやインテリアの描写が、カウリスマキ作品とアメリカ人画家エドワード・ホッパーの絵画に共通する点を指摘しています。また、フィンランド人の我慢強さと孤独というテーマが、登場人物の陰影に反映されていると述べています。この映画は、ハッピーエンドを迎えつつも静かな哀しみが漂う作品であり、観る者に深い印象を与えると語られています。
オススメ度は★★★★☆と高く評価されています。


数あるカウリスマキ作品の中でもNo1にあげる人が多い本作。非常にわかりやすいハッピーエンドが、日本人の情緒にぴったり合いやすい作品なのかもしれない。歴史あるレストランで給仕長を勤めるイロナを、同監督の常連“泣き顔”女優カティ・オウティネンが好演している。今回、カラフルな室内装飾が施されたレストランやアパートでのシーンが多かったせいか、登場人物の影が丸映りしている監督独特のライティングがことさら目立っていたような気がする。一瞬、ダリオ・アルジェントが監督したジャッド・ムービーあたりの物真似かとも思ったのだがあそこまで毒々しくはなく、むしろ俳優のデッドパン面演技に共鳴するような“静謐さ”を際立たせているのだ。どこかで観たことのある照明なのだがなかなか思い出すことができず、ずっとモヤモヤが続いていたのである。皆さん、アメリカ人画家エドワード・ホッパーの絵をご覧になったことがおありだろうか。人物は動的に描かれているのに、なぜか静けさがあたりを支配している『ナイト・ホークス』が特に有名。カラフルな色使いと陰影が特徴的で、“都会の孤独”という形容がぴったりあてはまる画風のアーティストなのである。そのホッパーの絵画と、カウリスマキ作品独特の映像がとても似ていることに今回気がついたのである(俺だけだったりして)。フィンランドの経済発展からこぼれ落ちた“負け組”のみなさんを、さらなる不幸が次々と襲う展開は、ケン・ローチのごとく祖国に対して怒りを爆発させるような結末にはしていない。ふりかかった不幸に耐え、じっと我慢するのがカウリスマキ作品のキャラクターたちなのである。フランスやイタリアのラテン系や、英米のアングロ・サクソンや黒人の皆さんはちょっとした不公平があると我慢ならず、すぐにデモやストライキにうったえ、はては暴動にまで発展するお国柄。そこへいくとフィンランド人の皆さんは戦前の日本人同様大変我慢強いのである。我慢しすぎてその場で意識を失うほど?なのである。笑顔の時もなぜか泣いているようにしか見えない主演女優カティ・オウティネンは、もしかしたらそんな国民性を体現しているのかもしれない。
カウリスマキが決して隠そうとしないそんな登場人物たちの陰影は、我慢強いが故になかなか他人によりかかることができないフィンランド人の“孤独”そのもののメタファーなのではないか。しかし、意地を張るのを止め、気心のしれた昔の仲間を頼ることにしたイロナ夫妻に最後人生の転機が訪れる。満席になったレストランの外で一服する夫婦の晴れ晴れとした顔には、お天道様の明るい日差しが燦々と照りつけるのであった…..
浮き雲監督 アキ・カウリスマキ(1996年)
オススメ度:★★★★☆
Views: 0