土曜日, 6月 7, 2025
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映画『国宝』を通じて人生を俯瞰する夜明けa.

🧠 あらすじと概要:

映画『国宝』のあらすじ

映画『国宝』は、伝統芸能である歌舞伎の世界を舞台に、親子の絆や人生の意味を深く掘り下げたストーリーです。主人公は、歌舞伎役者としての道を歩むために厳しい稽古に励む喜久雄。彼は、亡き祖母から受け継いだ教えや家族の期待の中で、自身の才能と向き合います。物語は、喜久雄が過去の痛みや喜びを乗り越え、自身のアイデンティティを見つける旅を描いています。

記事の要約

この記事では、映画『国宝』を観た感想が述べられています。著者は、映画を通して人生の短さや人間関係の儚さを痛感します。特に、祖母との思い出や家族の絆がテーマとなり、自らの人生に対する焦りや不安を吐露しています。また、劇中の人物たちの苦悩や成長が描かれ、見る者に深い感動を与えます。著者は映画を通じて、前向きな気持ちを持てるようになったと結びつけ、国宝が自分にとって特別な作品であることを強調しています。映画の中で描かれる厳しい現実は、観客に深い思索を促し、心に残る影響を与えると感じています。

映画『国宝』を通じて人生を俯瞰する夜明けa.

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 浪速座の冷たくて無機質な蛍光灯の色、無数の茶色くて硬いスリッパ、行き交う白塗り途中の演者たち、大道具、暗くてやけに天井が高い木造の舞台袖、化粧糊の匂いが漂ってくるようだった。
 学生時代を過ごした京都の風景、夏の夜川沿いを走っては足を水につけた鴨川、すべてが懐かしかった。

 由緒ある家に生まれ、幼少期より舞を教養として続けていた祖母に連れられ、1歳から日舞の稽古を重ねた日々。

 ああ、そうそう、あんなふうに厳しかったな。 扇子でビシバシ、は、現実だった。ー足袋は絶対に床から離したらあかんよーひとつひとつの仕草に命を吹き込むように、指先に神様を宿すようにー手と首の動きで感情を表現して、目は口ほどにものを言う、を体現する 祖母の稽古が終わるまで、祖母の稽古を眺めながら数時間、正座でじっと待っていた。 芸事を教える・極める過程において、今では「体罰」だと確実に言われるであろう厳しい指導。 厳しいけど、教える側に礼節と確かな愛があって、親子であってもなあなあには絶対にさせない、一種の冷酷さがある。

 自分自身にも子どもにも、人前では”甘やかし”が一切ない。

 指導を受けている張本人も、’辛い’より、なんとか食らいついていこう、と、必死でもがく。 次は必ずできるように、という思いが勝つ。

 手本は先生、敵はいつだって先に舞った自分、頼りは琴の音色と唄から見えてくる情景と感覚だったのを思い出した。

 獅子舞は、祖母の最期の舞台だった。わたしが5歳の時、祖母が亡くなると同時に、厳しい師匠によって愛孫が傷つくことから守りたかったのか、私は祖母の遺言で日舞から身を引いた。

 連獅子を舞う親子を見て、祖母を思い出し、もしこの作品を母と一緒に観ていたら、祖母がいちばん思い入れの強かった母はどう感じたのだろうと、目に涙を浮かべる母が頭に浮かび、鼻の奥がジンとなった。

 この物語を通して感じたのは、 「納得のいく人生を歩むには、人生はあまりにも短すぎる」 「いつまでも(自由が利いて元気でいられる)時間はないし、人もいない」ということ。 この作品を通して背中を押してもらうつもりだったのに、いつまでも司法試験受験なんてやってられない、という焦りに全身が包まれた。 やっとの思いで合格できたとしても、合格をいちばん伝えたい人がその時もうこの世界にいなかったとしたら、と考えると不安でたまらなくなった。 合格してからがスタートなのに、まだ何者にもなれていない自分、強い思いとは裏腹に、何事も成し遂げられていないもどかしさ、社会になにも貢献できていない恥ずかしさ、身近な人に恩返しすらもできていない悔しさが、自分の首を更に絞めてしまう。 後付けできるような肩書きは学歴くらいしかない。だけど、そういうものを取っ払ったら自分に何が残るのだろう、自分の人生は間違ってるんじゃないか、本当に自分がやりたいことじゃないんじゃないか、でももう後戻りなんてできないんじゃないか、もう遅いんじゃないかって、途端に恐怖に襲われる。 喜久雄が悪魔と取引をしたという台詞が、かつての自分と重なった。  「司法試験の合格以外何もいらない」と、本気で思って突き進んでいたはずなのに、何度も挫け続けているうちに、周りの優秀な仲間達が次々と次のステップに進んで行くうちに、身近な人々から心無い言葉を浴びせられるうちに、いつしか「なにくそ!」とそれに打ち勝つくらいの熱い思いの火が消えかけていった。 本当は、この作品に、今やるべきことに一心不乱に取り組む精神を受け取れると思っていた。 でも、背中を押してもらうどころか、自分はもうこの世界にお呼びでないよとでも言われているような、現実を突きつけられてしまったような、そんな感覚がじわじわと心を抉る。 任侠の道に生まれた少年が歌舞伎の後継ぎになること以外はあまりに現実的で、現実の世界を、人生を真正面からぶつかって描いたらこんなにもヘビーで毎秒心が苦しくなる作品が出来上がるのかと、『現実は小説より奇なり』って、こういうことかと妙に納得した。ある意味ハイパーリアリティーショーなんじゃないか。 不幸は突然やってくる。 当たり前も幸せも、長くは続かない。 一見うまくいっているようにみえても、人それぞれに地獄が来る。 永遠に続くように感じる家族の形は一瞬にして崩れ、自分も人も、いつか死ぬ。 大事なものに気づいた時には感謝を伝えたい相手はもういないし、時を共にしたいと思った相手は、別の人生を進んでいたりする。 自分がほしいと思った時に、タイミングは都合よく来てくれない。

 人生は、自分が思ってるほど長くは待ってくれない。

 そんな敗北感に苛まれている中、鷲娘を舞う喜久雄の’孤高’の姿から一縷の光が見えたような気がした。 山の頂に到達する前は、あとどれくらいの距離があって、どれくらいの時間がかかるのかわからない暗闇の中をしばらく彷徨うものだということ。 今の苦しみは、いつかきっと突破できる頂の前座だということ。 先が見えない暗い霧を抜けた先には、晴れ渡った景色が広がっていると信じて、進むしかない。

 「まだ諦めたくない」と、前向きになれた。

作品の感想

 半次郎は、自らの代役を息子ではなく部屋子の喜久雄にさせ、半次郎の名も歌舞伎では禁忌の血筋でない喜久雄に継がせ、一見、俊介に対して冷徹な父親という印象だった。 伝統芸能たる歌舞伎を後世に残すために何が最善なのか、才能と、その才能を潰さないだけのたゆまぬ努力によって作り上げられた喜久雄の芸にその思いを託したようにみえた。 喜久雄に対して、「この世界で親がないのは首がないこと同然。そんなときに支えてくれるのは、”芸”や。本物の”芸”は、刀や鉄砲よりも強い。何があっても、”芸”が守ってくれるように生きていかなあかんで。」と(いうような内容を)、優しく語り掛ける半次郎の姿は、まるで本物のお父さんのようだった。 しかし、2代そろっての襲名披露の時、死に際に半次郎がとりつかれたように「俊坊、、俊坊、、」とすがるように俊介の名を呼んだ姿に、 「ああ、やっぱりいちばん可愛いのは、我が子なんだな。お父さんとしては、本当は自分の子に継いでほしかったんだな。」と、どこか安堵の気持ちが湧いてきた。

 ”それ”が、自分に後を継がせてもらえなかった俊介の怨念の物の怪のようにも受け取れたけど、逃げたわけではない、別の場所で必死に本物の歌舞伎役者になろうともがいていた俊介が、死ぬほど悔しい思いをしたとしても、父を”恨むはずがない”と思わずにはいられなかった。

 人間国宝、万菊先生は、終始この世のものとは思えないただならぬ気配を醸し出していた。
 最期の喜久雄を見つめる目のあまりの美しさに、魅了されてしまった。

 糖尿で世を後にした半次郎の”血”を継ぐ俊介には、皮肉にも病魔の手が伸びるのはあまりにも早かった。 あの体で、だけど動けるうちに、最期とわかりながら曽根崎心中をやりたいと心の底から言った俊介、それを聞いて否定せず、声を震わせて喜久雄がやろうと言ったあの空気感。 十数年ぶりに、喜久雄が舞台下から昇ってきて2人が舞台で向かい合う横顔から始まる画は、眩しいくらい神々しかった。 俊介が生きた方の足先を出すのを見た時、最期の舞台だと悟って涙が溢れて止まらなかった。 俊介が、喜久雄に支えられながら命からがら舞台を後にした後ろ姿。 最後、短剣で本当に刺してしまうんじゃないかという緊張感。

 そのすべてに飲み込まれた。圧巻だった。

 これまで、ハリウッド映画じゃなければ映画館で観る必要がないと思っていたわたしにとって、国宝は、邦画で初めて映画館で観た作品となった。

 簡単に人にオススメできない作品の反面、必要な人に、自ずと届く作品だと確信している。

忖度ゼロの率直な感想

 作品では2人が学校帰りに無我夢中で稽古をしていた京都の鴨川が大阪の設定だった(思い違いかも)のは、ハリウッド映画で新大阪ー東京間の新幹線内で、新大阪ー京都の間で富士山が拝めるシーンを観るのに通ずるものを感じた。

  関西弁は、エセを抜け出せないなら無理やり使わず言い慣れた標準語で進めてくれる方が観る

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