木曜日, 5月 22, 2025
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新旧2種の薬剤の組み合わせでLDLコレステロール値が49%低下する


健康診断で「LDLコレステロール値を下げるべきです」と医師から言われたことがあるかもしれません。

放っておくと動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気につながることもあるため、「コレステロール値をどう下げるか」は心疾患を持つ患者にとって重要な関心事です。

そんな中、アメリカの医療センターであるクリーブランドクリニック(Cleveland Clinic)の研究チームが驚くべき成果を発表しました。

なんと、既存薬「エゼチミブ(ezetimibe)」と新薬「オビセトラピブ(obicetrapib)」の2つを組み合わせることで、プラセボと比較してLDLコレステロールの値を平均48.6%も低下させることに成功したのです。

この成果は2025年5月7日付の『The Lancet』誌にも掲載されました。

目次

  • LDLコレステロールとは?従来の薬が効かないケースも
  • 新旧2つの薬が合わさるとLDLコレステロールを49%も低下させる

LDLコレステロールとは?従来の薬が効かないケースも

LDLコレステロール(Low-Density Lipoprotein cholesterol)は、以前は悪玉コレステロールとして呼ばれていました。

LDLはリポタンパク質の一種で、全身の細胞にコレステロールを運ぶ役割を担っています。

これ自体が悪い働きをするわけではありませんが、過剰になると血管の内壁にこびりついてプラークという塊を形成すると考えられてきました。

このプラークは血流を妨げることで動脈硬化の原因になります。

高すぎるLDLコレステロール値は血流を妨げる要因 / Credit:Canva

そして動脈硬化が進行すると、心筋梗塞、脳梗塞、狭心症といった命に関わる疾患のリスクが高まってしまいます。

ガイドラインによれば、すでに心疾患を抱えている人では、LDL値を70mg/dL未満に抑えることが推奨されており、それでも数値が高い場合は薬物療法が導入されます。

しかし、すでにスタチンなどの薬を服用していても、十分にLDL値が下がらない人が多く存在します。

そこで今回の研究では、既存薬エゼチミブと新薬オビセトラピブを組み合わせるという新しい治療戦略が試されました。

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既存薬と新薬の組み合わせを検証 / Credit:Canva

対象となったのは、心血管疾患の既往歴がある、あるいはリスクが高い407人の患者たちです。

スタチン治療に十分な効果がなかった、あるいはスタチンに不耐性の患者で、LDLコレステロール値が70mg/dL(1.8mmol/L)以上であることが条件でした。

被験者は①オビセトラピブとエゼチミブの併用療法、②オビセトラピブ単独、③エゼチミブ単独、③プラセボという4つのグループに無作為に割り当てられ、それぞれが84日間にわたり薬を服用しました。

主要評価項目は、ベースラインからのLDLコレステロールの変化率でした。

では、結果はどうなったでしょうか。

新旧2つの薬が合わさるとLDLコレステロールを49%も低下させる

結果は非常に注目すべきものでした。

84日後、最も効果があったのは、エゼチミブとオビセトラピブの併用療法グループでした。

このグループでは、LDLコレステロールがプラセボ群と比較して48.6%も低下していました。

そして、エゼチミブ単剤と比較して27.9%、オビセトラピブ単剤と比較して16.8%という、圧倒的な差を示しました。

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新旧2種の併用はLDLコレステロールを49%も低下させる / Credit:Canva

では、なぜこの2剤を併用することでこれほどの効果が得られたのでしょうか。

その鍵は、2つの薬が働く場所と仕組みがまったく異なるという点にあります。

エゼチミブは、小腸でのコレステロール吸収を阻害する薬です。

これは、食べ物や胆汁由来のコレステロールが小腸から血液に吸収されるのを防ぎ、血中LDLコレステロールの増加を抑える働きをします。

一方で、オビセトラピブはCETP(コレステロールエステル転送タンパク質)を阻害する薬です。

この作用により、HDL(善玉)コレステロールが増え、LDL(悪玉)が効率的に肝臓へ回収されやすくなります。

つまり、エゼチミブは体に入ってくるLDLを減らす一方で、オビセトラピブは体の中でLDLの流れを調整するという、異なるアプローチで悪玉コレステロールに対処しているのです。

副作用の面でも、併用グループで重篤な有害事象が起きたのは3%であり、これはプラセボ(4%)や他の薬と同等で、安全性も良好と評価されました。

もちろん、この研究には限界もあります。

例えば、期間が84日と比較的短期間であるため、心筋梗塞や脳卒中といった臨床イベントの抑制効果については今後の研究が必要です。

それでも、スタチンが使えない人や、効果が不十分な人にとって、この新旧薬の合わせ技は有力な治療オプションになりうると言えるでしょう。

日々のバランスの取れた食生活や適度な運動といった生活習慣がコレステロール管理の基本であることに変わりはありません。

しかし、それを支える薬の選択肢が進化していることは、私たちにとって非常に心強いニュースです。

※2025年5月現在、オビセトラピブは日本で臨床試験中です。

全ての画像を見る

参考文献

New & old drug combo drops cholesterol by 49% in human trial
https://newatlas.com/heart-disease/cholesterol-medication-combination-ezetimibe-obicetrapib/

New Drug Used in Combination Therapy Reduces LDL Cholesterol by Nearly Half in Patients at Risk of Cardiovascular Disease
https://newsroom.clevelandclinic.org/2025/05/07/new-drug-used-in-combination-therapy-reduces-ldl-cholesterol-by-nearly-half-in-patients-at-risk-of-cardiovascular-disease

元論文

Fixed-dose combination of obicetrapib and ezetimibe for LDL cholesterol reduction (TANDEM): a phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled trial
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(25)00721-4

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部



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🧠 編集部の感想:
新旧2種類の薬剤の組み合わせにより、LDLコレステロールが49%も低下するという成果は、心血管疾患のリスク管理において非常に有望です。特に、スタチンが効果的でない患者にとって新たな治療選択肢が増えることは、大きなメリットと言えるでしょう。今後、さらなる研究によってその効果が実証されることを期待しています。

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