最高学府における生成AIの使用は微妙な問題で、大学の教授や教員たちはChatGPTで研究が大いにはかどったと報告する一方で、大学生の大半が生成AIを使っていることに衝撃を受けています。こうした中、自分たちにChatGPTを使うなと言っていた教授がAIで授業資料を作っていたとして、アメリカ・ノースイースタン大学の元学生が大学に返金を求めたことが報じられました。
College Professors Are Using ChatGPT. Some Students Aren’t Happy. – The New York Times
https://www.nytimes.com/2025/05/14/technology/chatgpt-college-professors.html
2025年2月、当時ノースイースタン大学の学生だったエラ・ステイプルトン氏は、組織行動学の講義の資料に「あらゆる分野について詳しく説明してください。より詳細かつ具体的に記述してください」と、まるでChatGPTへのプロンプトのような一文が紛れ込んでいるのを見つけました。
ステイプルトン氏がさらに詳しく調べてみると、その教授の資料にはいびつな文字や、余計な体の一部が映り込んだオフィスワーカーの写真、普通なら考えられないスペルミスなど、生成AIを使った痕跡がいくつもあることがわかりました。
無料で使えるチャットボットに相談するためではなく、人間の教育者から一流の教育を受けるために学費を納めてきたステイプルトン氏にとって、これは大きな不満でした。特に、シラバスにAIやチャットボットの無断使用を含む「学術的な不正行為」を禁じると明記されていた講義ではなおさらです。
ステイプルトン氏は「教授は、私たちにはAIを使うなと言っておいて、自分では使っていたのです」と話しています。
以下は、実際に大学で教材として使われていたスライドの画像です。
by Ella Stapleton
一部を拡大してみると、英語にはない単語や、他のアルファベットと融合したような文字があるのがわかります。
教育機関のレビューサイト・Rate My Professorsなどには、教員たちがChatGPTに過度に依存していることに不満を漏らす学生たちが多数書き込みをしており、チャットボットが多用する言葉が授業に頻出すると訴えています。
一方、教育者たちは、AIチャットボットをよりよい教育を提供するためのツールとして活用してると主張しています。The New York Timesの取材に応えた教員たちは、AIが膨大な作業の負担を軽減し、時間を節約することができる「自動化された助手」として機能していると回答しました。
教育にAIを使うべきかどうか、使っていいのであればどこまで使うかは、教育者の間でも意見が分かれていますが、オハイオ州アセンズのオハイオ大学で英語学の教授を務めるポール・ショブリン氏は、ステイプルトン氏が遭遇したようなユースケースなら教育倫理に反しないと考えています。
ショブリン氏によると、学術界では外部の出版社から授業計画やケーススタディなどのコンテンツを調達する慣行が長年行われており、教授がChatGPTから出力されたコンテンツを自らの専門知識で編集するのであれば、問題はないとのこと。
ショブリン氏は「AIを使ってスライドを作成した教授をモンスター呼ばわりするのは、私に言わせればおかしな話です」と述べました。
The New York Timesの取材を受けるショブリン氏。
by Rich-Joseph Facun for The New York Times
学生の間でAIが急速に普及しているのと同様に、教育者の側でもAIの使用を容認する傾向が加速しています。
高等教育の教員1800人を対象とした2024年の調査によると、対象者の18%が「生成型AIツールを頻繁に使っている」と答えたとのこと。調査を実施したコンサルティンググループのTyton Partnersは、6月に発表する予定の2025年度調査では、この割合がほぼ倍増していると述べています。
ステイプルトン氏は、ノースイースタン大学に苦情を申し立てるとともに、担当者と何回か面談を重ねましたが、大学の最終的な結論は、学費の返還は認められないというものでした。
大学に学費の返還を求めたステイプルトン氏。
by Oliver Holms for The New York Times
経営学教授としてステイプルトン氏の講義を受け持ったリック・アローウッド氏は、今回の一件を深く反省していると話しています。非常勤教師として20年近くのキャリアを持つアローウッド氏は、授業のファイルを「真新しい印象」にするためにChatGPT、AI検索エンジンのPerplexity、AIプレゼンテーション生成ツールのGammaにアップロードしたとのこと。
こうして生成された資料やスライドは、一見すると素晴らしいできばえでしたが、生徒の復習用の教材として大学のシステムにアップロードしてから、学校関係者に指摘されて内容に不備があることに気づきました。なお、授業はディスカッションが中心だったため、当該資料は教室での講義には使われていないと、アローウッド氏は強調しています。
アローウッド氏は「今にして思えば、もっと注意深く見ていればよかったです」と話しました。なお、Rate My Professorsにおけるアローウッド氏の評価は5段階中2.7で、16件のレビューのうちまた講義を受けたいという意見は38%でした。
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🧠 編集部の感想:
このニュースは、AI技術の利用が教育界にも及んでいることを示していますが、教授が学生に禁じていたAIを使っていたことに対する不満は理解できます。教育には人間らしい指導が求められるなかで、AIの過剰依存は問題になってきそうです。今後、教育現場でのAIの使い方について、より明確なガイドラインが必要になると思います。
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