
労働年齢人口の自殺率は、職業によって大きく差異があります。2021年の調査では、最も自殺率が高い職業では自殺率が約0.07%あった一方で、教師や教授、図書館員などの教育従事者は、男性は約0.01%、女性は0.004%と、かなり低い自殺率であることが判明しています。教育従事者の自殺率が低くなる理由の分析について、アリゾナ州立大学暴力予防・地域安全センターの研究アナリストであるジョーダン・バチェラー氏が解説しています。
Teachers and librarians are among those least likely to die by suicide − public health researchers offer insights on what this means for other professions
https://theconversation.com/teachers-and-librarians-are-among-those-least-likely-to-die-by-suicide-public-health-researchers-offer-insights-on-what-this-means-for-other-professions-252795
以下は、アメリカの保健福祉省が公開した2024年自殺予防国家戦略で示された自殺率の推移です。グラフはアメリカの労働年齢人口10万人あたりの自殺者数を表しており、2000年は10万人当たり10.4人だったのに対し、2022年は14.2人と、約20年で大きく増加しています。
2022年のアメリカの自殺者は男性が10万人あたり23人だったのに対し、女性は5.9人と、性別によっても大きく異なります。また、特定の職業に従事する人は、他の職業よりも自殺リスクが高いことも分かっています。
職業によって自殺率に差異がある理由としては、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすタスクにさらされやすい職種であったり、雇用の安定性が低かったり、職業の人口構成に左右されたりと、さまざまな問題が考えられます。例えば、軍人は死への恐怖が薄く痛みへの耐性が高く、生活リズムが乱れやすく通常の市民生活への移行に苦戦する傾向にあることから、自殺率が高くなると考えられています。
一方で、労働統計局によって「教育指導および図書館」に分類される「教育従事者」の職種は、全体的に自殺率が低いことが報告されています。バチェラー氏によると、公衆衛生の研究者が自殺データを調べる際、介入と予防が最も必要な場所を探るため、自殺リスクの高い集団に焦点を当てることが多いとのこと。しかし、自殺リスクの低い集団からも学ぶことがあるため、分析は重要な意味があるそうです。
教育従事者の自殺率が統計上低い理由としては、まずは教育従事者全体で女性の割合がかなり高い点にあります。男性より女性の方が自殺率は大幅に低いため、職業の人口構成で女性の割合が大きいと、その職種は自殺率が低くなる傾向にあります。また、教職に就いている人は高学歴の傾向があり、高学歴は社会的経済地位や雇用可能性を高めるため、自殺の予防につながっている可能性を研究者らは指摘しています。
また、自殺率の上昇と関連している注目すべきポイントとして、「致死的手段へのアクセス可能性」があります。医療従事者や軍隊のように、医薬品や銃器といった致死的手段へのアクセスが容易な職場は、自殺率と密接に関連していると2017年の研究で示されています。一方で、学校では致死的手段が比較的入手しにくいため、教育従事者の自殺率が低く抑えられている可能性があります。
by Z H
そのほか、学校やキャンパスといった職場環境は、強固な社会的関係を築く機会を豊富に提供するため、メンタルヘルスに良いと考えられています。さらに、教育従事者は他の労働者と比較して、アルコールや薬物の問題を抱えている人が少ないなど、健康的なライフスタイルを送っている傾向にあることも自殺リスクを抑えている原因です。
バチェラー氏は「自殺率が低い教育従事者を分析して得られる教訓は、仕事のストレスに対処するスキルを身に付ける必要があるということです。仕事のストレスの根本原因を特定し、ポジティブ思考、瞑想(めいそう)、目標設定などの対処スキルを活用することで、有益な効果が得られます。また、職場でのソーシャルネットワークの構築も重要です。ソーシャルネットワークは、有形無形の支えとなり、目的意識やアイデンティティを確立するのに役立ちます。教育従事者の自殺率が環境要因によって抑えられているという考えは、職場や組織はポジティブな文化を醸成することができるということを意味しています」と分析結果について説明しています。その上で、「職業上の健康に関する継続的な研究の重要性は特筆に値します。自殺のリスクと無縁な人はいないとはいえ、すべての自殺は予防可能です」とバチェラー氏はさらなる研究の重要性を述べています。
この記事のタイトルとURLをコピーする
Views: 2