火曜日, 5月 13, 2025
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性科学研究により「気が進まないセックス」のコストと利益が判明


「本当は気が進まないけれど、パートナーのために義務的に性行為に応じてしまった」──そんな経験は決して珍しくありません。

フィンランドのオーボ・アカデミー大学(ÅAU)で行われた研究によって、このような望まない性交への同意が一方では関係を深める利益をもたらし、他方では心に負担となるコストを生みうることを明らかにしました。

「仕方ない」が二人の未来にどんな影響を及ぼすのか、最新の性科学はどこまで解き明かしたのでしょうか?

研究内容の詳細は『Journal of Sex & Marital Therapy』にて発表されました。

目次

  • “仕方ないセックス”は敵か味方か
  • 「義務ックス」のコストと利益を科学的に解明
  • “諸刃のYES”を味方につける条件

“仕方ないセックス”は敵か味方か

“仕方ないセックス”は敵か味方か
“仕方ないセックス”は敵か味方か / 面倒だと思いつつ仕方なしにコスプレと性行為に応じる例/Credit:clip studio . 川勝康弘

「望まない同意(性的コンプライアンス)」とは、自分自身はその時あまり欲していないにもかかわらず、パートナーとの性的行為に同意することを指します。

強制されたわけではなく基本的には自発的な行動ですが、義務感や罪悪感や相手を失望させたくない気持ちなど、微妙なプレッシャーが背景にある場合もあります。

パートナーを満足させたい、関係を維持したい、ケンカを避けたいといった思いからこのような同意がなされることが多いと報告されています。

より簡単に言えば相手の希望に沿うための「仕方ないセックス」や「受け身のセックス」あるいはネットスラング的に言えば「義務ックス」とも言えるでしょう。

(※望んでいるわけではないけれどもセックス自体には同意するという意味で以降では「望まない同意」と表現します)

実際、過去の研究では半数からほぼ全員が人生で一度は「望まない同意」の経験があると回答しており、長期的な関係でも一時的な関係でも比較的よく見られる行動です。

では、この「望まない性交への同意」は人々の幸福にどんな影響を与えるのでしょうか?

実は専門家の間でも見解は分かれていました。

性的欲求の不一致(いわゆるセックスにおける食い違い)に対処するためのひとつの有効な手段になり得るとの指摘がある一方、実は隠れた強要の結果であり関係に悪影響を及ぼす恐れもあると警鐘を鳴らす声もありました。

こうした賛否両論がある中で、この行動がもたらす利点とリスク(コスト)をより包括的に理解する必要性が高まっていたのです。

フィンランドのオーボ・アカデミー大学のSabina Nickull(サビーナ・ニックル)氏ら研究チームは、「望まない同意」の感じられるポジティブな結果とネガティブな結果のそれぞれについて、どういった要因が関係しているのかを明らかにしようと試みました。

「義務ックス」のコストと利益を科学的に解明

「義務ックス」のコストと利益を科学的に解明
「義務ックス」のコストと利益を科学的に解明 / 正直うざいと思いつつ何となくの義務感で応じる例/Credit:clip studio . 川勝康弘

望まないものの同意するセックスは人間にどのような影響を与えるのか?

謎を解明するため研究チームはフィンランドの18~50歳の男女を無作為に抽出し、大規模な全国調査を行いました。

公的データベースから招待状を送付し、その結果948名(男性449名、女性499名)がパートナーとの最近の性経験に関する詳細なアンケートに回答しています。

参加者の平均年齢は34歳、交際期間は平均約9年でした。

ここで特筆すべきは、「望まないがパートナーのためにセックスに応じたことが1回のみ」と答えた人が約3%、「数回(a handful)」が約31%、「数十回(a few dozen)」が約28%、「100回以上」が約38%という分布が明らかになった点です。

つまり「望まない同意」は、単発ではなく繰り返し起こりうる行動であることが改めて示唆されました。

調査では、「望まない同意」によるポジティブ・ネガティブの結果を評価する尺度に加え、性行為へのアプローチ動機・回避動機、パートナーとの性的コミュニケーションや信頼感、性的自己効力感や性的自尊心、性に関する不安やストレス(性的苦痛)、性的自己主張の強さ、さらにパートナーによる性的強要経験の有無などを幅広く測定しました。

結果として、男女間でいくつか傾向の違いが確認されています。

男性は女性よりも、性的自己効力感や性的自尊心が平均して高く、さらにアプローチ動機も強い傾向があり、加えて「望まない同意」であってもポジティブな結果をより感じやすいというデータが得られました。

一方、女性はパートナーからの性的強要を経験した割合が高く、不安型愛着や抑うつ・不安症状のスコアも高かったためか、「望まない同意」に対してより強いネガティブ感情を抱く傾向が示唆されました。

特に、セックスそのものが苦痛であったり、心理的圧力を感じていたりする場合、「望まない同意」はネガティブな結果を引き起こしやすいと報告されています。

実際、本研究では「過去1ヶ月間にパートナーにセックスを強要されたと感じた回数」と「性的苦痛(セックスに対する悩みやストレスの度合い)」の二つの要因が、望まないセックス後の嫌悪感や後悔、不安などを強く予測していました。

女性については、「断ると関係が悪化しそうで怖い」といった回避的な動機で応じるほど、後味の悪さや虚しさが増す傾向もみられています。

男性においては、パートナーへの信頼感が低いほど、「望まない同意」に伴う心理的マイナス影響が大きくなることが示されました。

こうした不本意な性交渉を何度も繰り返すと、当座は関係維持に役立ったように見えても、長期的にはセックスへの満足感や心の健康を損ないかねないと警告されています。

積み重なった不満が原因で、パートナーへのわだかまりや燃え尽き状態を招く可能性があるためです。

一方、「最初はそれほど欲求がなくても、パートナーに愛情を示したい」「関係を深めたい」といった前向きな理由(アプローチ動機)で同意した場合は、むしろプラスの効果を得るケースもあります。

今回の研究でも、相手との絆を深めたい・相手を喜ばせたいといった気持ちが動機となっている人ほど、「応じてみて良かった」「2人の関係が良好になった」といったポジティブな結果を得やすいことが分かりました。

量的調査のため直接的なコメントは掲載されていませんが、先行研究からは「相手が満足してくれると自分も嬉しい」「結果的に良い雰囲気になった」などのプラス面を感じる人も一定数いると推測されます。

“諸刃のYES”を味方につける条件

“諸刃のYES”を味方につける条件
“諸刃のYES”を味方につける条件 / Credit:Canva

この研究は、横断的な調査ということもあり因果関係を断定するわけではないものの、「望まない同意」がまさに「諸刃の剣」であることをデータから示唆しました。

重要なのは、同意の背後にある動機やパートナーとの関係性だといえます。

研究チームは「望まない同意」のポジティブな結果を最も強く予測したのはアプローチ動機で、ネガティブな結果の最も強い予測因子はパートナーによる強要経験と性的苦痛だった、と結論づけています。

男性と女性でわずかな差異はありましたが、個々の効果は小さいものでした。

これらの知見は、性的欲求のズレで悩むカップルや、そうしたケースに携わる臨床家が焦点を絞るうえで大いに役立つでしょう。

もし相手への思いやりや絆づくりといったプラス志向の理由であれば、片方がその時乗り気でなくても、それほど深刻な悪影響には至らず、むしろ2人の関係を良好にするきっかけとなり得ます。

しかし「断りづらい」「言い出せない」といった回避動機ばかりが原因で繰り返し応じている場合や、実質的にプレッシャーがあって強要されているような場合には注意が必要です。

慢性化すると、当人の心身をむしばむだけでなく、相互の信頼関係を大きく損なうリスクがあります。

今回の知見は実務の現場にも応用可能です。

セックスに関するカウンセリングや夫婦療法の場面で、専門家(セラピストや医師など)は「望まない同意」の頻度や動機、そこから生じている感情を掘り下げることで、その裏にあるコミュニケーション不足やトラウマ、自己主張の難しさなどを見極めやすくなるでしょう。

場合によっては、相手の強要傾向や性的な痛み・トラウマの有無を慎重に確認し、必要ならば専門的な対処を検討することも大切です。

文化が異なる地域では感じ方や背景要因が変わる可能性がありますが、「欲求のないままセックスに合意する」現象はどこでも起こり得るものです。

フィンランドという環境下でのデータではありますが、「同意する理由と伝え方が、同じ行動を明と暗に分ける」というメッセージは、多くのカップルや支援者にとっても参考になるのではないでしょうか。

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元論文

Predictors of Perceived Positive and Negative Consequences of Sexual Compliance
https://doi.org/10.1080/0092623X.2025.2452844

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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