私は現在、社員50名弱、そのほとんどがエンジニアという中小SIerで働いています。小さい企業ですので、自社のインフラやセキュリティ対策も、もちろん自分たちで担っています。
私の所属している企業は、コロナ禍以降、フルリモートでの勤務が一般的となり、日本全国から優秀なエンジニアたちの技術力とセキュリティ意識のおかげで、幸いにもセキュリティインシデントを起こすことなく働けています。
しかし、Qiita Tech Festa 2025のスポンサーテーマでもある「組織にとって特権アクセス管理(PAM)が重要な理由とは?」について考えるうち、 私たちの組織の安全は、メンバーの『優秀さ』や『善意』という、性善説の上に成り立っているだけではないか? と自社の体制を省みるきっかけを得ました。
私たちのような「小さなエンジニア中心」の組織にこそ、特権アクセス管理(PAM)が必要だと感じた3つの理由と、具体的なソリューションとしてKeeperPAMを試した所感をご紹介します。
そもそも特権アクセス管理(PAM)とは何なのか?
PAMを簡単に説明すると
特権アクセス管理(PAM: Privileged Access Management)
管理者権限など、OS、サーバー、クラウド基盤などに対して強力な操作権限を持つアカウントを厳格に管理するセキュリティ対策。また、パスワード管理、アクセス制御、操作監視の自動化により、不正利用を予防し、インシデントの早期検知を可能にする仕組み。
となります。
管理者権限アカウントの管理やパスワードの自動更新などでセキュリティを向上させるだけでなく、「いつ・誰が・どういった目的で」使用したのかという証跡を残すことで、より安全に会社やサービスを運用していく上で重要な仕組みです。
PAM自体の詳細な解説は、今回のテーマに参加している方の優れた記事に譲り、(車輪の再開発をしても仕方がないので)ここでは割愛します。
特権アクセス管理(PAM)が必要な3つの理由
ここからは、早速、我々のような小さなエンジニア中心の組織において、特権アクセス管理(PAM)が必要だと感じた3つの理由を述べます。
1. 巧妙化するサイバー攻撃から「重要な権限」を守るため
小さなエンジニア中心の組織では、プロジェクトごとに管理者権限を持っていたり、多くのメンバーに管理者権限が付与される傾向にあるのではないでしょうか。
開発、インフラ、運用を少数で担当するため、「少人数だから大丈夫」という性善説や、暗黙の信頼から、メンバーに強い権限を渡してしまうこともしばしば。気がつくと管理者権限が分散し、「誰がどのシステムにアクセスできるのか」の把握が困難になりがちです。
もちろん、セキュリティポリシーを策定し、1Passwordといったパスワードマネジメントツールでパスワード共有を行うなど、適切な管理を心がけています。しかし、メンバーの入退社時の権限管理や、急ぎの対応時の権限付与など、完全には管理しきれない部分が存在するのもまた現実です。
これこそが、小さなエンジニア組織が抱える「構造的な脆弱性」ではないかと考えています。
近年のサイバー攻撃は、生成AIにより巧妙化したフィッシングメールやサイトを使って、こうした管理の隙を狙い特権アカウントを標的にしてきます。小規模組織だからこそ、PAMによる権限管理と監視体制の構築が、組織の信頼性と事業継続性を支える強力な防衛線となるのです。
今回のテーマで投稿されている、こちらの記事も併せて読むと、PAMが防衛線として、なぜ重要か理解が深まると思います。
2. 内部リスクの低減と「性善説」に頼らない仕組みを作るため
セキュリティリスクは外部の攻撃者によるものだけではありません。悪意のある内部関係者による不正行為(そんな人はいないと信じていますが)や、意図しない操作ミスによって、組織に大きな損害を与える可能性があります。
大手企業やグローバル企業の方がセキュリティインシデントの社会的影響は大きいものの、資金力や体力のある企業は既に「特権アクセス管理」で予防線を張っていたり、万が一インシデントが発生しても生き残れるだけの体力があります。
しかし、私たちのような小さなエンジニア組織では、悪意のない「うっかりとした操作ミス」が、事業の継続を困難にするほどの損害に繋がりかねないという現実的なリスクを抱えています。
小さな組織だからこそ、人の善意に頼るのではなく「特権アクセス管理」という仕組みで内部リスクを最小化する必要があるのではないでしょうか。それによって、私たちは本業である開発や顧客への価値提供に集中できるようになると考えています。
3. 高まる取引先のセキュリティ要求に応え、「信頼」を勝ち取るため
多くのお客様と取引をさせていただく中で、求められるセキュリティレベルは年々高まっています。全幅の信頼を寄せてくれるお客様もいれば、本質的に必要なのか疑問に思うような無数のセキュリティ要件を満たさないと取引ができないお客様もいます。
現在の開発環境では、複数のクラウド(AWS、GCP、Azureなど)サービスや、大量のSaaSなど、管理すべき「特権アクセス」の対象と経路が無数に存在し、プロジェクトやお客様ごとに管理方法が異なることで運用が複雑化してしまいます。
PAMを導入することで、分散した特権アクセスを一元管理し、明確な統制体制を構築できます。これによって、お客様に対して「どのような権限管理を行っているか」「誰がいつアクセスしたか」を明確に説明・報告できるようになります。
透明性の高いセキュリティ管理体制は、お客様からの信頼獲得に直結し、新規案件の受注や既存取引の継続・拡大にもつながると考えています。
小規模組織こそ、しっかりとした管理体制を「見える化」し、お客様に安心を提供することが、持続的な成長の基盤となります。それは、守りのセキュリティ対策であると同時に、ビジネスチャンスを掴むための攻めの投資と言えるのではないでしょうか。
実際に触って分かったKeeperPAMという選択肢
ここまで、小さなエンジニア組織にこそPAMを導入すべき3つの理由を述べました。しかし、そこには「高価で、導入・運用が難しいのでは?」という、多くの人が抱くであろう大きな壁が立ちはだかります。
金額面に関しては、組織の規模や既存のツール環境など様々な要因が絡むため、ここでその是非は問いません。しかし、情報漏洩などのリスクを低減でき、顧客からの信頼向上にも繋がる点を考慮すれば、十分な投資対効果が期待できるのではないでしょうか。
そこで本セクションでは、「導入と運用の難しさ」に焦点を当て、実際の使用感をレビューします。前提として、筆者の所属組織はエンジニア中心の少数精鋭の組織ですが、各種SaaSアカウントの発行(例:Office365)はバックオフィスの方々が担当しています。
そのため、「エンジニア以外でも使いやすいか」は、導入成功の重要な鍵となります。
トライアルへの申し込みと管理者アカウント作成
早速、以下のページから14日間の無料トライアルに申し込みました。
トライアルで必要な情報は、
- 姓名
- 会社・組織名
- ビジネス用のメールアドレス
- 直通の電話番号
のみで、1分もかからずに登録が完了します。
クレジットカード情報の登録が不要なため、気軽に試せる点は非常にありがたいポイントです。
企業によっては、トライアルの申し込みですら稟議が必要になるケースもあるため、この手軽さは大きなメリットと言えるでしょう。
管理者が唯一覚えてなければならないパスワードである、マスターパスワードを設定します。
このマスターパスワードをどう管理するかは、どのような方法がベストプラクティスなのでしょうか?覚えられる範囲で複雑なものにしつつ、2要素認証を組み合わせるのが現実的な対策でしょうか。(ぜひ、コメントください)
いずれにせよ、Keeperの管理者には、セキュリティリテラシーの高い人材をアサインすることで、より安心して運用できるはずです。
もちろん、マスターパスワードを忘れてしまったときのためのリカバリー方法も用意されており、
リカバリーフレーズを作成することで、万が一マスターパスワードを忘れても復旧可能です。
往年のRPGにおけるふっかつのじゅもんのように復活できます。(まだ伝わりますよね・・・?)
ダッシュボードや各ページの使い勝手
アカウントの作成とログインが成功すると、ダッシュボード画面が表示されます。
入門ガイドが動画で用意されているので、実際に何ができるのかを素早くキャッチアップできます。
ただし、2025年6月現在の筆者の観測範囲において、ガイド動画は英語(字幕も英語)のみの対応のため、英語が苦手な方には少しハードルが高いかもしれません。今後の多言語対応に期待したいところです。
もっとも、多くのエンジニアは動画よりも公式ドキュメントを読んだり、実際に製品を触ったりしながら使い方を覚えるのではないでしょうか。幸い、ドキュメントは日本語にしっかり対応しているため、操作に困ることはありませんでした。
私が触った感覚ではありますが、各ページで何ができるかは直感的に分かりやすくなっています。
例えば、リスク管理のページでは、
現状のリスクがメーターで表示されており、非常に直感的です。
リスク低減のために何をすべきかが一覧で提示されるため、次に取るべきアクションに迷わないUIは、高く評価できるポイントです。
現在もユーザー追加やパスワード管理など様々な機能を試している最中ですが、詳細な権限設定や証跡記録、分かりやすいリスク提示など、総じて非エンジニアでも直感的に操作できるという印象です。
実際に触れてみてわかった魅力3つ
実際に触れてみて、特に魅力的だと感じたのは以下の3点です。
-
パスワード管理の延長で始められる「手軽さ」
1Passwordのようなパスワードマネージャーと同様に、堅牢なパスワード管理機能(パスワードボルト)もありながら、PAM機能も提供されている点が大きな魅力です。普段のパスワード管理の延長線上で、スムーズに特権アクセス管理へ移行できる感覚です。 -
非エンジニアでも使いやすい画面
管理画面やリスク状況が視覚的に分かりやすく、非エンジニアでも直感的に操作できると感じました。ツールの導入において、UIの分かりやすさは組織への定着を左右する重要な要素であり、この点も非常に好印象です。 -
「性善説」からの脱却を実感できる機能
例えば、「この作業のために1時間だけ」といった時間制限付きのアクセス許可や、Keeper経由でSSH接続などが可能となるKeeperコネクションを利用すると、「セッションレコーディング」機能によって、その操作内容が動画として記録されます。これによって、誰が何をしたかが明確になります。これこそが、性善説に依存しないセキュリティの仕組みだと実感できました。
余談ですが、公式から1Passwordの比較出ているので、読んでみると面白かったです。
Keeper は 1Password に代わる最高のソフトウェアです。
まとめ
結論として、メンバーの善意に頼る「性善説セキュリティ」は、もはや限界を迎えています。
本記事では、その課題に対する現実的な一手として、特権アクセス管理(PAM)が有効な解決策になり得るのではないかと述べました。
PAMは、巧妙化するサイバー攻撃や内部リスクから組織を守る「盾」であると同時に、高まる顧客の要求に応え、ビジネスチャンスを掴むための「武器」にもなり得ます。
中でも、今回触ってみたKeeper PAMは、使い慣れたパスワード管理の延長線で導入できる「手軽さ」と、非エンジニアにも分かりやすい「UI」、そして操作記録などの「強力な管理機能」を兼ね備えており、PAM導入の第一歩として有力な選択肢だと強く感じました。
「うちの規模ではまだ早い」と考えるのではなく、この記事が、皆様の組織のセキュリティ体制を見つめ直し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです!
本記事の内容は筆者個人の見解であり、所属する組織の意見を代表するものではありません。
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