政府は2029年度までの5年間で実質賃金を年1%程度上昇させる目標を設定した。賃金上昇率の目標を設定するのは今回が初めて。中小企業の賃上げ環境の整備を後押しし、物価高に負けない賃金の上昇を目指す。
14日開催の「新しい資本主義実現会議」で提示した「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5カ年計画」施策パッケージ案で示した。同計画には「2%の持続的・安定的な物価上昇の下で、物価上昇を1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルムとしてわが国に定着させる」と記している。6月に閣議決定する「新しい資本主義実行計画」に盛り込む見通し。
石破茂首相は同会議で、「雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者の経営変革の後押しと賃上げ環境の整備に政策資源を総動員する」と語った。
持続的な賃上げ実現に向けて政労使が取り組む中、名目賃金は今年3月まで39カ月連続プラスと所得環境の改善が続いている。もっとも、物価高の影響から実質賃金の前年比は24年まで3年連続減少しており、賃金上昇の実感は乏しい。政府は数値目標を設定することで、成長戦略の要と位置付ける賃上げの重要性を示した格好だ。
明治安田総合研究所の吉川裕也エコノミストは、今回の政府目標は「無理のない目標だ」と評価。過去10年ほど実質生産性が1%程度で推移する中、一昨年から企業が生産性に見合った賃上げを行う流れができていることを理由に述べた。昨年後半から上昇していた食料品物価の前年比寄与度が剥落するため、今年後半に実質賃金はプラスに浮上するとみている。
賃金底上げ
石破政権は賃金の底上げに向けて20年代に最低賃金を全国平均1500円まで引き上げる目標を掲げている。同計画によれば、最低賃金の引き上げにより影響を大きく受ける飲食や宿泊、運輸など12業種の「省力化投資促進プラン」を策定・実行する。また、29年度までの5年間で60兆円程度の生産性向上のための投資を行う。
今回の目標は、内閣府が1月に公表した中長期試算と整合的な数字となる。試算では、「成長移行ケース」(実質成長率1%台半ば、名目2%台後半)や「高成長実現ケース」(実質成長率2%程度、名目3%程度)が実現する場合、実質賃金は中長期的に1%から1%台半ばとなる見通しを示した。日本銀行も3%程度の賃金上昇が2%の物価安定目標とおおむね整合的な水準との見方を示している。
実質賃金の算出には、消費者物価指数(CPI)の「総合」を使用する。これに基づくと、昨年は6月と7月、10-12月に上昇したが、今年は3月まで減少とプラス圏で定着するには至っていない。今春闘の平均賃上げ率は5.32%、中小組合で4.93%と前年同時期を上回る歴史的な高水準で推移しているが、米国の関税政策の影響で先行き不透明感が高まっており、企業の賃上げ機運に水を差す可能性がある。
明治安田総研の吉川氏は、自動車関税が年内に見直されなければ、来年の春闘の賃上げ率は4%を割れる可能性があると分析する。一方、夏場までに合意に至れば通年の業績に大打撃を与えないとみており、関税交渉を担う「政府の責任は重い」と話した。
🧠 編集部の感想:
政府の実質賃金年1%上昇目標は賃上げの重要性を示す期待感があるものの、実際の効果が出るかは不透明です。中小企業の賃上げ環境整備が進む一方、物価上昇にどう対応するかが課題です。持続可能な賃上げ実現に向けて、政労使が連携して取り組む姿勢が求められます。
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