ゲームデザイナー堀井雄二氏が5月3日、イタリアで開催中のイベント「COMICON Napoli 2025」に登壇。そのなかで同氏が「『クロノ・トリガー』のリメイク版について発言した」として、国内外の複数のメディアによって報道された。しかし、実際には堀井氏の口からはそういった言葉は発されていなかった。
『クロノ・トリガー』は1995年にスクウェアより発売されたスーパーファミコン向けRPGゲーム。主人公のクロノが時空を超え、過去や未来をタイムスリップしながら冒険する作品だ。『ドラゴンクエスト』の生みの親・堀井雄二氏、『ファイナルファンタジー』の生みの親・坂口博信氏、そして「ドラゴンボール」の生みの親・鳥山明氏によるドリームプロジェクトとして知られる。現在ではPC(Steam)やスマートフォンをはじめとするさまざまなプラットフォーム向けに移植されている。

堀井雄二氏は5月3日、イタリアで開催中のイベント「COMICON Napoli 2025」にて、「Yuji Horii: il Drago della Storia in pixel」と題したステージに登壇。その中で同氏が「『クロノ・トリガー』のリメイク版についてうっかり発言してしまった」として、国内外の複数のメディアが報じた。ところが、実際には堀井氏の口からそうした発言はなかったようだ。
堀井氏はこのトークショーでイタリア語の通訳者を介して、同氏が手がけた『ドラゴンクエスト』を中心に制作秘話を語った。その中では、司会者によって『クロノ・トリガー』について聞かれる一幕も(現地メディア・AnimeClickITによるアーカイブ映像。該当箇所は5時間15分35秒ごろから)。会場には自然と拍手が起こり、堀井氏は同作の長年の人気に感心の言葉を漏らした。また、スクウェアとの制作が決まった際、自身が好きだったタイムスリップを取り入れた作品にしたかったという堀井氏が、「いつの時代でもボスと戦える」というコンセプトで同作を制作したと日本語で説明した。
それを受けた通訳者は、一連の堀井氏の発言をかなりざっくりとイタリア語に翻訳。その中で訳者は『クロノ・トリガー』の根強い人気に触れ、今後も展開の余地があると語りだした。
さらに訳者は続けて、「記憶が正しければ『クロノ・トリガー』のリメイクが進行中かあるいはリリース済みである」と発言したのだ。会場は一斉にざわめき、司会者は驚き、もし本当であれば爆弾発言だとして確認を求めた。通訳者は堀井氏に確認を取り、「Nessuno ha sentito nulla!(何も聞かなかったことにしよう!)」と大仰な身振りで聴衆に伝えた。

こうした一連のやりとりが注目を集め、海外を中心とした各メディアにて「堀井氏が『クロノ・トリガー』リメイクについてうっかり発言」との内容で報道されるに至ったわけだ。現地メディアIGN Italyでも、「リメイク版が開発中だと聞いている」という通訳者の発言として伝えている。ところが、前述のアーカイブにて実際に堀井氏の日本語による発言を確認してみると、該当する発言はしていない様子なのだ。
堀井氏自身による日本語の発言は、あくまでも根強い人気にちらりと触れる一言と、コンセプトについて触れた内容のみだった。つまり、通訳者側の翻訳でかなり話が膨らんでいる様子も見られるわけだ。また、通訳者の態度も、本当は言ってはいけなかった情報の“うっかり発言”を冗談めかして誤魔化しているようにも受け取れたため、「本当っぽさ」に拍車をかけたのだろう。こうしたアクシデントの背景は不明ながら、。いずれにせよ堀井氏は現場で「リメイク版」については一言も口にしていないのだ。
『クロノ・トリガー』については、たびたびリメイク版を期待する声や噂なども流れている。夢のある話ながら、今回の一件は間違いが引き起こした騒動と考えた方がよいだろう。根強い人気を誇る作品、さらに言語の壁もあってか、多くのメディアが前のめりな姿勢で“堀井氏によるリメイク版のうっかり発表”を伝えてしまったのだろう。弊誌としても他人事ではなく、夢のある話こそ冷静に報じる姿勢を心がけていきたい。
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