太陽系最大の惑星である「木星」。
木星は地球の約11倍の直径、約318倍の質量、約1320倍の体積があるとされています。
しかし米カリフォルニア工科大学(Caltech)の最新研究によると、木星はこれでも昔に比べると随分小さくなっていたようです。
なんと木星はかつて、現在の2倍の大きさを誇り、磁場は50倍以上も強かったことがわかったのです。
研究の詳細は2025年5月20日付で科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されています。
目次
- かつての木星は「地球2000個分」だった?
- 「磁場50倍」の怪物が太陽系を作った
かつての木星は「地球2000個分」だった?
私たちが現在知る木星は、それでも太陽系最大の惑星です。
木星の質量は、他の太陽系惑星をすべて合わせたものの2倍以上の質量に達します。
ですが、その巨大な姿は「かつての木星」に比べれば、もはや縮んだ姿にしかすぎない可能性が浮上したのです。
今回の研究では、木星を取り巻く90以上の衛星の2つ、アマルテア(Amalthea)とテーベ(Thebe)に着目しました。
この2つの衛星は、ガリレオ衛星(木星の4大衛星イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)よりもさらに木星に近い軌道を持ち、ガリレオ衛星に比べてわずかに傾いた軌道を描いています。
そのわずかな傾きが、実は驚くべき物語を物語っていたのです。
研究チームは、これらの衛星の軌道のズレを詳細に分析し、木星の角運動量(回転に関わる力の保存則)などと照らし合わせることで、木星が誕生後約380万年の時点でどれほどの大きさだったのかを推定しました。
その結果、当時の木星(今から約45億年前)は現在の2〜2.5倍の半径を持ち、体積でいえば地球2000個分にも相当する“膨れ上がった怪物”だったことが示されたのです。
この時期、木星は周囲の原始惑星系円盤――つまり、太陽のまわりを取り巻いていたガスと塵の円盤、惑星を作る材料となる――から猛烈な勢いで物質を取り込みながら成長していました。
推定では、毎年1.2〜2.4個分の「木星質量」を吸収していたとされ、木星はまさに“惑星形成の嵐の中心”にあったのです。
このような状態は、従来の惑星形成理論にも合致しており、岩石と氷でできた核がガスを猛烈に集めて膨張するという過程を支持するものとなりました。
「磁場50倍」の怪物が太陽系を作った
巨大だったのはサイズだけではありません。
かつての木星は、磁場の面でも桁違いの力を持っていたようです。
研究によれば、当時の木星の磁場は21ミリテスラ(mT)に達していたとされ、これは現在の木星の磁場の「約50倍」に相当します。
この超強力な磁場は、木星自身の内部構造や熱の放出と深く関係していると考えられています。
木星は水素を主成分とする巨大なガス惑星ですが、その内部では金属水素と呼ばれる特異な状態の物質が高圧のもとで存在しており、これがダイナモ効果(=天体内部の流体運動によって磁場を生成・維持する作用)によって磁場を生み出しているのです。
初期の木星は内部がより流動的で、エネルギーの放出も現在より激しかったとされ、そのため磁場の強度も飛躍的に高まっていたと推定されます。

では、この強烈な磁場と巨大なサイズが太陽系にもたらした影響とは何だったのでしょうか?
チームは木星の強い重力と磁場が、他の太陽系惑星の材料をかき乱し、地球や火星などの軌道の配置や、原始太陽系円盤の分布そのものを大きく変えていったと示唆します。
つまり、木星は「ただの巨大惑星」ではなく、「太陽系の建築家」だったのです。
その圧倒的な存在感が、今日の私たちの世界を作り上げたと言っても過言ではありません。
そして驚くべきことに、こうした初期の情報は約45億年という途方もない歳月を経ても、衛星のわずかな軌道の歪みによって今なお私たちに語りかけてきているのです。
木星の誕生と進化を解き明かすことは、単に惑星ひとつの物語にとどまらず、太陽系、そして地球という生命の星のルーツをたどる道筋そのものとなるでしょう。
参考文献
Jupiter Was Formerly Twice Its Current Size and Had a Much Stronger Magnetic Field
https://www.caltech.edu/about/news/jupiter-was-formerly-twice-its-current-size-and-had-a-much-stronger-magnetic-field
Jupiter was once twice as large as it is today
https://www.popsci.com/science/jupiter-original-size/
元論文
Determination of Jupiter’s primordial physical state
https://doi.org/10.1038/s41550-025-02512-y
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
🧠 編集部の感想:
木星が過去に現在の2倍の大きさを持ち、磁場が50倍強かったというのは驚きです。これは太陽系の形成や進化を理解する上で重要な手がかりになるでしょう。また、木星の存在が他の惑星にも大きな影響を与えたことを考えると、宇宙のダイナミクスの奥深さを感じます。
Views: 2