宇宙開拓時代が幕開けしたばかりのころ、地球を周回する人工衛星はほんの数機しかありませんでした。
しかしそれから約70年が経った今、数多くの人工衛星が地球のまわりを飛び交い、さらに多くの衛星がほぼ毎日のように打ち上げられています。
では実際に、現時点で地球の軌道上には何機の人工衛星が存在するのでしょうか?
また今後、どれほどの数が追加される可能性があり、それらが軌道上に存在することで、どのような問題が生じるのでしょうか?
目次
- 稼働中の人工衛星の数は?
- 衛星数が増えすぎると、地球に何が起こる?
稼働中の人工衛星の数は?
何十年もの間、宇宙へ打ち上げられる衛星の数は比較的一定に保たれていました。
世界初の人工衛星である旧ソ連の「スプートニク」が1957年に軌道に乗って以来、年間の打ち上げ数はおおよそ50〜100機の範囲でした。
しかし2010年代に入り、スペースXなどの民間宇宙企業が登場したことで打ち上げ数は増加に転じ、その勢いは今も続いています。
2024年には平均して34時間ごとに1機のロケットが打ち上げられ、なんと合計で2800機以上の衛星が軌道に投入されました。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文学者であるジョナサン・マクドウェル氏によれば、2025年5月時点で地球を周回する「稼働中の人工衛星」はおよそ1万1700機。
その大半は地球から2000キロメートル以下の低軌道(LEO)に位置しているといいます。
ただし、すでに機能を停止した衛星や、地球に再突入するのを待っている衛星、あるいは軌道上の「墓場軌道(graveyard orbit)」に移された衛星などを含めた「全体の衛星数」は最大で約1万4900機に達する可能性があるという。
とはいえ、これはまだ序章にすぎません。
専門家の中には「将来的に稼働中の衛星の数が現在の10倍に達する可能性がある」と予測する意見もあります。
もしそれが現実になれば、天体観測、宇宙探査、さらには地球環境に対しても多大な問題を引き起こすおそれがあるのです。
「これは宇宙交通の管理問題を引き起こし、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の増加に拍車をかけ、天文学や星空観察を妨げ、ロケットの打ち上げや再突入による大気汚染も悪化させます」と、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の天文学者アーロン・ボリー氏は語ります。
では、人工衛星の増加により地球にはどんな悪影響が起こりうるのでしょうか?
衛星数が増えすぎると、地球に何が起こる?
これほど多くの人工衛星が地球を周回するようになると、私たちの暮らしや科学技術にさまざまな影響を及ぼすことが予想されます。
その最大の問題のひとつが「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」です。
近年のロケットは一部再利用可能になっていますが、それでも使い捨てブースターなどが低軌道に残され、何年にもわたって漂い続けています。
こうした破片がほかの衛星と衝突すると、さらに何千もの小さな破片が生まれ、連鎖的な衝突リスクが高まるのです。
つまり、スペースデブリはネズミ算式にどんどん増え続けるというわけ。
このような事態が放置されれば、衝突の連鎖反応によって低軌道が事実上使用不能になり、人類が太陽系へ進出する道が閉ざされてしまうかもしれません。
この問題は「ケスラーシンドローム(Kessler syndrome)」と呼ばれており、すでに多くの研究者が「手遅れになる前に対策を講じるべき」と警鐘を鳴らしています。

また、人工衛星は地球の地表に太陽光を反射するため、光学望遠鏡を使う天文学者にとって大きな悩みの種です。
さらに衛星から漏れる電波が電波天文学にも悪影響を与えており、軌道上の収容能力の限界に達した場合、一部の電波観測は完全に不可能になると懸念する専門家もいます。
加えて、ロケットの打ち上げは温室効果ガスを放出し、地球温暖化の一因にもなっています。
打ち上げ1回あたりの二酸化炭素排出量は、商業航空機の平均フライトの最大10倍にもなるという。
環境への影響はこれだけではありません。
昔から「上がったものは必ず落ちてくる」といわれるように、人工衛星もやがて再突入して大気中で燃え尽きます。
最近の研究では、衛星が再突入時に燃焼する際、大量の金属粒子が大気中に放出されることが示唆されています。
この分野の研究はまだ始まったばかりですが、いくつかの科学者は「大気中の金属濃度が増加すると、地球の磁場まで狂ってしまう可能性がある」と警告しているのです。
もちろん、こうした民間衛星は、農村部やインフラの整っていない地域に高速インターネットを提供するなど、社会的に有益な側面もあります。
しかし、多くの専門家は「その利益が潜在的なリスクを上回っているのか?」と疑問を呈しています。
少なくとも、現状がよく理解されるまでは、人工衛星の打ち上げペースを落とすべきなのかもしれません。
参考文献
How many satellites orbit Earth?
https://www.livescience.com/how-many-satellites-orbit-earth
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
🧠 編集部の感想:
人工衛星の数が急増する中で、宇宙ゴミや衝突リスクの問題が深刻化しています。将来的には衛星数がさらに増える可能性があり、その影響を考えると対策が必要だと感じます。便利さとリスクのバランスを慎重に見極めることが重要です。
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