太陽は時折とてつもないエネルギーを放つ「太陽嵐(ソーラーストーム)」を引き起こします。
これが地球の大気に衝突すると、電力網を破壊し、通信を遮断し、人工衛星を故障させる脅威となり得ます。
そしてこのほど、フィンランド・オウル大学(University of Oulu)らの研究で、紀元前1万2350年前に史上最強の太陽嵐が地球を襲っていたことが明らかになりました。
それはどれほど強烈なものだったのでしょうか?
研究の詳細は2025年4月28日付で科学雑誌『Earth and Planetary Science Letters』に掲載されています。
目次
- 「史上最強の太陽嵐」の証拠を発見
- BC12350の太陽嵐が最強だった理由
「史上最強の太陽嵐」の証拠を発見
太陽嵐(たいようあらし)とは、強烈な太陽フレアが発生した際に太陽風が爆発的に放出され、そこに含まれる何十億トンものプラズマ粒子が飛来し、地球の大気にぶつかる現象です。
これにより、地球近傍を飛んでいる人工衛星を故障させたり、地上の通信ネットワークなどを遮断したりする被害が起きます。
また太陽嵐により、地球の極地でオーロラが発生することも有名です。
その一方で、太陽嵐に関する人類の記録は断片的であり、その最大規模を推定するのは困難でした。
しかしこれまでの研究で、太陽嵐が地球大気にぶつかると、放射性炭素(炭素14)の生成量を一時的に増加させることが知られています。
これは太陽から放出される高エネルギーの粒子が大気中の分子と衝突して生成されるためです。
この炭素14は地上の樹木や動物などに取り込まれ、やがて一定の速度で減衰していきます。
そして研究チームは、この炭素14濃度の急激な増加の痕跡を調べることで、今回の「史上最強の太陽嵐」の存在を特定することに成功しました。
チームは特別に開発された気候・化学モデル「SOCOL:14C-Ex」を用い、古代の樹木や氷床コアを分析したところ、紀元前1万2350年ころ(今から約1万4000年前)に、人類の記録上最強の太陽嵐が発生していたことが判明したのです。
これまでにも同様の強烈な太陽嵐イベントは西暦994年、紀元前660年、紀元前5259年、紀元前7176年に起きていたことが特定されており、その中でも西暦774年の事例が最大とされていました。
しかしチームの解析によると、紀元前1万2350年の太陽嵐は、西暦775年の太陽嵐よりも約18%強力だったと推定されています。
さらには人工衛星による正確な観測が始まって以来の最強の太陽嵐は2005年に発生していますが、紀元前1万2350年の太陽嵐はそれより500倍以上の強度があったと試算されたのです。
では、なぜ当時の太陽嵐はこれほど強烈だったのでしょうか?
BC12350の太陽嵐が最強だった理由
まず、当時の地球の磁気シールド(地磁気)が現在よりも弱かったことが大きな要因とされています。
地磁気は太陽から飛来する高エネルギー粒子を遮蔽するバリアの役割を果たしますが、その防御が弱まっていたため、より多くの粒子が地球の大気圏に到達したと推定されます。
実際、チームの推定によると、当時の地磁気は現代の約3分の2の強さしかなかったとされており、それにより太陽嵐の粒子が地球全体により広範囲に降り注いだとみられています。

ただ、このような強力な太陽嵐が地球に与えた直接的な影響については、当時の文明活動が未発達だったため記録は残されていません。
BC12350年はすでに人類も繁栄を始めていたため、何らかの被害を被った可能性があります。
しかし現代社会に同等の嵐が発生した場合を想定すると、そのリスクは深刻です。
人工衛星の故障、通信インフラの遮断、大規模停電、航空機の運行障害、さらには放射線被ばくの危険などが現実の問題として浮上します。
現在は1万4000年前よりも磁気シールドがパワーアップしていますが、太陽嵐による被害は十分に起こりうるため、何らかの対策を準備しておく必要があるでしょう。
参考文献
The most extreme solar storm hit Earth in 12,350 BC, scientists identify
https://www.oulu.fi/en/news/most-extreme-solar-storm-hit-earth-12350-bc-scientists-identify
The Most Violent Solar Storm Ever Detected Hit Earth in 12350 BCE
https://www.sciencealert.com/the-most-violent-solar-storm-ever-detected-hit-earth-in-12350-bce
元論文
New SOCOL:14C-Ex model reveals that the Late-Glacial radiocarbon spike in 12350 BC was caused by the record-strong extreme solar storm
https://doi.org/10.1016/j.epsl.2025.119383
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
🧠 編集部の感想:
この研究は、太陽嵐の影響の重要性を再認識させるもので、私たちの技術社会に潜む脅威を示唆しています。紀元前1万2350年の太陽嵐が、現代よりも強力だったとは驚きです。そのリスクを理解し、対策を講じる必要性が一層強まったと感じました。
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