1.魚が出てきた日 (1967年)
監督は マイケル・カコヤニス
奇妙な雰囲気漂う ギリシャ,イギリス,アメリカ合作のSFコメディ映画です
舞台は1972年ギリシャのエーゲ海上を飛んでいた爆撃機が カロス島付近の海上に墜落します墜落の直前 爆撃機に乗っていた2名のパイロットは 2個の原爆と 放射性物質が入った金属製の箱を パラシュートを付けて投下しましたこれにより 爆弾は海中に 箱はカロス島にそれぞれ落下
パラシュートで海に飛びこんで生き延びた2人は やっとの思いで島に泳ぎつく…というストーリーです
製作費は 87万5000ドルキプロス出身の マイケル・カコヤニスが監督をつとめた作品です本作品は”パロマレス米軍機墜落事故”と呼ばれる プルトニウムを含む放射性物質が漏洩し 土壌が汚染されてしまった 実際の事故に触発されて企画されましたこの事故から6か月以内に撮影が開始されるという すごいスピードで製作されています
冒頭から見どころ十分で ユニークな表現やカラフルな衣装デザインも印象的な映画です
作中では なくしてしまった核爆弾と 放射性物質の入った箱をめぐる 奇妙な物語が展開されていきます①パンツ一丁で連絡手段もなく 町へ入りこむ術を模索する2人のパイロットと ②突如来訪する観光客に扮した怪しい人物たち ③何も知らずに歓迎する島民たちこの3種類の人々による奇妙な行動が醸し出す シリアスなテーマなのにシュールな空気感が素晴らしい内容です
核を管理する体制側の人間と 無知な市民それぞれの愚かさが 皮肉を込めて描かれるのです
監督のマイケル・カコヤニスは この映画の設定を活かすため 俳優たちに脚本の全容を教えず 自分たちの演じる役だけについて指示し 撮影に挑んだとされます
これが功を奏したのか 俳優陣のどこかわざとらしい演技は映画に合っており 独特な空気感を生みだしています
そんな 放射性物質による土壌汚染というテーマを扱いながら ブラックユーモアたっぷりで どこか脱力感がある風刺の効いた本作品
興行的には成功しなかったそうですが シュールなラストまで魅力的な 傑作SFコメディ映画となっています
2.メテオ (1979年)
監督は ロナルド・ニーム
地球に接近する隕石をテーマにした アメリカのSFパニック映画です
舞台は1979年火星と木星の軌道の間に存在する小惑星帯である アポロ小惑星群のオルフェウスに彗星が衝突し 砕けた破片のいくつかが隕石となって地球に接近最も大きな隕石は最大直径が約8キロメートルもあり 1か月後には地球に衝突することが予測されていました
そして もし衝突が起きた際には吹き上げられた土砂が空を覆い 氷河期が訪れることが推定される中 人類の抵抗がはじまる…というストーリーです
製作費は 1600万ドル本作品では「ポセイドン・アドベンチャー」などでも知られるロナルド・ニームが監督をつとめました「未来惑星ザルドス」のショーン・コネリーが主演し「ブレインストーム」のナタリー・ウッドも出演しています
製作には かつてロジャー・コーマンが所属していたことでも知られるアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ(AIP)のほかに 香港の映画会社 ショウ・ブラザーズも関わっています
作中では 隕石衝突による地球の危機と それに対する米ソの連携が描かれますアメリカとソ連に同じような核ミサイルが存在するという設定は 1970年の傑作SF映画「地球爆破作戦」を彷彿させるところです
両国が仕方なく協力していくのがおもしろいですが もし今の世界では この映画のような協力が行なわれるとは思えないのが正直なところです
そんな今作は 特殊効果の面で嘲笑の的にされているのを頻繁に見かけますしかし個人的にはそうも思えず 特に宇宙関連のシーンの描写はなかなか味わい深いです特撮のクオリティーが高いとは言えないですが 単にチープという言葉で済ませるにはもったいないような おもしろい仕上がりになっています
やけにクオリティーにバラつきがあるのは 後述する製作時のゴタゴタによる影響かもしれません
音楽については 当初「スター・ウォーズ」などでお馴染みのジョン・ウィリアムズが担当する予定でしたが スティーヴン・スピルバーグの「1941」の仕事が迫っていたことや 今作の製作スケジュールが遅れていたことを理由に降板
後任は「ドクター・モローの島」や「タイタンの戦い」のローレンス・ローゼンタールがつとめることになり 壮大な音楽が生みだされました
映画の構想にあたっては 1967年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生によって作られた「イカロス計画」が基になっていますこれは地球に小惑星が衝突することが予測された場合 小惑星をロケットで破壊するか 逸らすかについてのレポートでしたこのレポートを基に「地球が静止する日」の原作者であるエドムンド・H・ノースが最初に脚本を書きますしかしこれをロナルド・ニーム監督とショーン・コネリーが気に入らず「炎の少女チャーリー」などのスタンレー・マンが最初から書き直し 脚本は完成に導かれました
俳優陣のキャスティングについて ナタリー・ウッドはロシア移民の両親を持ち ロシア語を話せることが今作のテーマと合致したこともあって起用されたそうです
ところで 映画内ではさまざまな種類の破壊演出 例えば雪崩や爆破シーンなどが迫力ある映像で描かれていますが 実は多くの製作費が初期に行われた特殊効果に費やされていますしかし 長期にわたる製作が進むうちに 用意した特殊効果のほとんどが使い物にならないと判断され 視覚効果チームのスタッフは数回に渡って解雇に…
そのため劇場公開まで残り2か月の時点にも関わらず 特殊効果に費やせる製作費がほとんど残っていない上に 特殊効果シーンのほとんどがやり直しとなってしまいます
そんな最悪の状況を理由に 雪崩のシーンの一部ではロジャー・コーマン製作のパニック映画「アバランチ/白銀の恐怖」の映像を再利用した上に 核ミサイルのシーンにはわずか50センチほどのミニチュアが使用されたそうです
また 終盤における 川の水が地下鉄に流れ込むドロドロなシーンが特に印象的ですが この危険を伴う撮影ではショーン・コネリーが呼吸器疾患を患い ナタリー・ウッドはポンプに吸い込まれそうになったといいます
そんな アカデミー賞音響賞にノミネートされていながらも興行的には失敗となり アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズの財政破綻に繋がった映画だとされる 本作品
意外に見どころのある SFディザスター映画の一つとなっています
3.ウォー・ゲーム (1983年)
監督は ジョン・バダム
とある高校生が原因で核戦争の危機が起こる SFスリラー映画です
コンピュータオタクの高校生であるデビッドは 学校のPCに侵入して成績を書き換えたり 電話のタダ掛けをして遊んでいましたある日 さまざまなゲームが遊べる”ジョシュア”というホストコンピュータに接続し “世界全面核戦争”というシミュレーションゲームをプレイし始めたことで アメリカとソ連は 滅亡の危機に瀕してしまう…というストーリーです製作費は 1200万ドル
「ショート・サーキット」などで知られる ジョン・バダムが監督をつとめ「飛べ、バージル/プロジェクトX」のマシュー・ブロデリックが主演しました
本作品は ゲーム好きのオタク少年を主人公にしながらも 核による地球滅亡の危機という重いテーマを扱っている 珍しい組み合わせの映画です
作中では そんな少年が軽い気持ちでハッキングをおこなってしまい それが引き起こす米ソ核戦争の危機が描かれます
当時としては高い先見性のある内容が多く含まれており 例えばコンピューターのセキュリティー用語として今では当たり前になった『ファイアウォール』という言葉がすでに映画内で使用されています公開当時のアメリカにおいてハッキングは違法ではなかったそうですが この映画の公開もきっかけとなり テレビ番組でも『実際この映画のようなことが起きる危険性はないのか』ということが議論されたそうです
映画内にも登場するNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)の広報は 実際ハッキングが絶対不可能ということを回答したといいますが 公開の前後で米軍のコンピューターに不具合が生じたりしたことで話題が広まり 興行的な成功にも影響しています
映画公開の翌年である1984年には ハッキングを違法とする法律が施行レーガン大統領が本作品を観て気に入ったことも法律の制定に関わったとされます
また 法律制定のきっかけとなった議員による議会での発言時には 問題提起のために「ウォー・ゲーム」の映像が4分ほど流され これも議論の加速に貢献したといいます
アメリカではそんな本作品について ハッキングやサイバーセキュリティーの見識を人々へ広めた 社会的功績のある映画ともされているようですが 実際は功績ばかりでもなく 当時はハッキングを試みる者の数も増えてしまったそうです
映画の構想にあたって ハッキングをおこなう主人公デビッドは 実在のハッカーであるデビッド・スコット・ルイスにインスピレーションを受けて設定がされましたまた 核戦争シミュレータの開発者であるスティーブン・フォルケン教授の人物像は 有名な理論物理学者 スティーブン・ホーキングをイメージしたものだったといいます
ホーキング本人にこの役のオファーがあったようですが 断られてしまい ジョン・レノンが演じる可能性もあったそうですが 脚本開発中に凶弾に倒れてしまったため 残念ながら実現しませんでした
撮影前には「ギャラガ」,「ギャラクシアン」のアーケードマシンが主演のマシュー・ブロデリックに贈呈され 彼は2か月ほどゲームの腕前を磨いたそうです撮影のために作られたセットとして NORAD司令センターの費用は100万ドルだったそうで 当時最も高価なセットだったとも言われています
このセットのデザインは 現実世界の指令センター内には入れないことを理由に 完全に想像だけでデザインされたそうです
同じくコンピュータによる戦争システムの管理を描いた1964年の「未知への飛行」や 1970年の「地球爆破作戦」に通じる内容で コンピュータの言いなりになることの危険性や滑稽さを描く 本作品
ユニークな内容で技術への警鐘を鳴らす 今の時代にこそ観るべき素晴らしいSF映画となっています
4.終わらない週末 (2023年)
監督は サム・エスメイルNetflixで公開された 不条理なスリラー映画です
SF映画として紹介しているのは見たことがありませんが 今回のテーマに合うと思うので 紹介させていただきます
ある時 クレイとアマンダの夫婦は豪華な別荘を借り 息子のアーチーと娘のローズと一緒に のんびりと週末を過ごそうとしていました無事に別荘に到着したアマンダたちでしたが なぜかスマートフォンやパソコンが使えない状態に陥ります
困惑しているところへ 別荘の持ち主を名乗る”G.H.”と 彼の娘であるルースが現れ『お金を出すので泊めてほしい』と話しはじめる…というストーリーです
本作品は ルマーン・アラムの小説を原作として映画化されました監督,脚本をつとめたのは アメリカの人気ドラマ「MR. ROBOT ミスター・ロボット」で知られるサム・エスメイルですアメリカのバラク・オバマ元大統領とミシェル・オバマ夫人が設立した ハイヤー・グラウンド・プロダクションズが制作に携わりました
また 日本でも有名なジュリア・ロバーツ,イーサン・ホークなども出演しています
作中では 別荘を借りて休暇を楽しもうとする一家に対する とにかく不条理な物語が描かれます
これは一体なんの映画なのか…と思わせるほどに不条理な演出がしばらく続きますが それらすべてが『とある理由』によるものだと判明する…そんな映画であり ネタバレ厳禁ともいえる できるだけ何も知らないまま観てほしいような映画です
映画内では 明らかにイーロン・マスクを皮肉ったと思われるような演出がいくつかあり 2023年のNetflix映画でしかできないのではないかと思うような 攻めた内容になっています例えば彼がCEOをつとめるテスラ社の車に関する描写もありますが その内容に関してイーロン・マスクは SNS上で文句も呟いたそうです俳優陣はそれぞれおもしろい演技を見せていますが その中で「グリーンブック」で知られるマハーシャラ・アリの不穏な演技が 何よりとても素晴らしいと感じます彼が演じる役は当初 デンゼルワシントンが演じる予定だったそうですが 結果的にはハマり役でしょう
また 脇役ではありますが ケヴィン・ベーコンも大きな存在感を放っており 注目ポイントとなっています
今作が映画化に至る前 バラク・オバマが2021年におすすめする本として この映画の原作小説が挙げられていました
映画版の構想にあたっては 監督のサム・エスメイルが構想した脚本に対し バラク・オバマは”原作ファン”として それぞれの登場人物への思いや構想のヒントとなるメモを残したのだといいます
そんな 141分という長尺であり 今まで観たことのないタイプのパニックを描いた 本作品
現代に起き得る危機を描く 不条理スリラー映画となっています
あとがき
今回は「地球の危機を描いた名作・傑作・カルトSF映画」というテーマでのSF映画紹介でしたまだ観ていない映画はありましたでしょうか2032年頃に予測されている 小惑星の地球衝突の可能性…さまざまな危機のパターンをあらかじめ知っておくことで 実際の危機が訪れた時に生き延びる可能性も高まるかもしれません色々な地球の危機を描く映画については また紹介させていただきたいと思っています
最後までご覧いただき ありがとうございました
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