中国の宇宙ステーション内で、これまで地球上では確認されたことのない”未知の新種細菌”が検出されたようです。
報告をしたのは、北京宇宙機システム工学研究所(ISSE)らの研究チーム。
「ナイアリア・ティアンゴンゲンシス(Niallia tiangongensis)」と命名されたこの新種細菌は、過酷な宇宙環境でも生き延びるための適応進化を遂げていたとのことです。
果たして、人間に害を及ぼす存在なのでしょうか?
研究の詳細は2025年3月3日付で科学雑誌『International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology』に掲載されています。
目次
- 宇宙で生存できる進化を遂げていた
- 人体に害を及ぼす存在なのか?
宇宙で生存できる進化を遂げていた
中国宇宙ステーション「天宮」での微生物調査は、居住区の衛生状態や宇宙飛行士の健康維持を目的として定期的に行われています。
そんな中、2023年5月に天宮に滞在していた「神舟15号」の乗組員が、キャビン内から綿棒でサンプルを採取。
それらを地球に持ち帰って分析したところ、そこには人類が地球上では見たことのない細菌が含まれていたのです。
この新種は天宮(Tiangong)にちなんで、「ナイアリア・ティアンゴンゲンシス(Niallia tiangongensis)」と命名されました。
今回の新種は、もともと「バチルス属(Bacillus)」という病原性種と考えられていたものの、数年前に新たな属に再分類された「ナイアリア・サーキュランス(Niallia circulans)」という土壌性の桿菌(棒状の細菌)の近縁種であることが特定されています。
Niallia tiangongensis sp. nov., isolated from the China Space Station. #TIC2025 https://t.co/Ii4chy2gPH pic.twitter.com/YDHooCx6xk
— Science News (@SciencNews) May 17, 2025
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注目すべきは、その生存戦略です。
この細菌は栄養に乏しく、放射線や乾燥などのストレスが極めて大きい宇宙環境においても、「芽胞(がほう)」という強靭な休眠構造を形成し、その中で生存に不可欠な化学成分を保護することで生き延びられることがわかりました。
さらにゼラチンを炭素や窒素の栄養源として分解できる酵素を備えており、分解したものを利用して、周囲にバイオフィルム(保護膜)を構築し、外部環境から身を守る能力も持っていたのです。
このような能力は、宇宙という極限環境に適応するうえで、極めて有利に働くと考えられます。
人体に害を及ぼす存在なのか?
驚くべきことに、今回の発見は例外ではありません。
NASAの最近の調査によれば、火星探査機・フェニックスのミッションのために使用された「クリーンルーム」ですら、少なくとも26種類の未知の微生物が生息していたことが確認されています。
こうした細菌は、DNA修復能力や有害物質への耐性といった特殊な遺伝子を持ち、私たちが「無菌」と信じていた空間でも生き残ることができるのです。
また宇宙における微生物の存在は、単なる「汚染」の問題では済まされないかもしれません。
一部のナイアリア属細菌は、免疫力が低下した患者に対して敗血症を引き起こすことが知られています。
今回発見されたナイアリア・ティアンゴンゲンシスが、宇宙飛行士の健康にどのような影響を与えるかは未知数ですが、潜在的なリスクとして無視はできません。
とはいえ、こうした微生物の研究は、逆に大きな可能性も秘めています。
宇宙環境に適応する細菌の性質を解明することで、例えば放射線耐性をもつバイオ素材や医療用途への応用など、地球上では実現できなかった新しい技術の扉を開くことにもつながると期待されています。
つまり、宇宙微生物は「脅威」であると同時に、有効活用すべき「資源」でもあるのです。
参考文献
Unknown Species of Bacteria Discovered in China’s Space Station
https://www.sciencealert.com/unknown-species-of-bacteria-discovered-in-chinas-space-station
元論文
Niallia tiangongensis sp. nov., isolated from the China Space Station
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.006693
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
🧠 編集部の感想:
宇宙ステーションで新種の細菌が発見されたことは驚きです。未知の生物が過酷な環境で適応進化を遂げていることから、宇宙生命の可能性が広がります。人体への影響が未知なことから、研究は慎重に進めるべきですが、その応用可能性にも期待が寄せられます。
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