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青銅器時代にあたる紀元前1750年頃、古代メソポタミアの都市・ウルに住んでいたナンニという男性が、エアナーシルという銅の商人に対して「苦情を記した粘土板」を送りつけました。この粘土板は「世界最古の書面に記された顧客からの苦情」としてギネス世界記録にも認定されています。
Oldest written customer complaint | Guinness World Records
https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/537889-oldest-written-customer-complaint
This Bronze-Age Tablet Is The Oldest Customer Complaint on Record : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/this-bronze-age-tablet-is-the-oldest-customer-complaint-on-record
文字と交易はお互いに深く結びついており、現存している最も古い楔形文字のいくつかは、古代メソポタミアで商品の売買に関する記録を残すために用いられたものです。
青銅器時代の古代メソポタミアでは、時代を指す名前の通り青銅器が主要な道具として使われており、その材料となる銅は重要な商品となっていました。そのため、銅に関する取引記録も多数残されていますが、時には銅の取引を巡ってトラブルが発生することもありました。
紀元前1750年頃にエアナーシルという商人から銅を購入したナンニも、使者が品質の低い銅を渡されたことに憤慨した顧客の一人でした。当時、カスタマー用のヘルプラインなどはなかったため、ナンニはわざわざ粘土板にクレームの内容を記し、メッセンジャーに渡してエアナーシルの下に粘土板を届けさせたとのこと。
以下の写真が、実際にナンニがエアナーシルに送った「苦情を記した粘土板」です。粘土板のサイズは11.6cm×5cmほどで、表と裏の両面にびっしりとエアナーシルへの苦情が記されています。この粘土板は1922~1934年に行われたウル(現在のイラク南部)の発掘調査で、おそらくエアナーシルの住居と思われる場所から発見されました。
この粘土板はアメリカ人の考古学者であるアドルフ・レオ・オッペンハイムによって解読され、1967年の著書「Letters From Mesopotamia(メソポタミアからの手紙)」でその内容が報告されています。
ナンニは粘土板に、「あなたは私の使者の前に質の悪い(銅の)インゴットを置いて言いました。『取っていきたいなら取っていけ、取りたくないなら去れ』」と記しています。おそらくナンニの使者は、すでに合意した銅の代金をエアナーシルに支払っていたものの、エアナーシルからは質の悪い銅しか与えられなかったと思われます。
さらに粘土板には、「私のような者を侮辱的に扱うなど、あなたは私のことをどう思っているのか?(あなたたちに預けた)お金の入った袋を回収するため、私たちのような紳士を使者として遣わせたのに、あなた方は何度も手ぶらで、おまけに敵の土地を通して私に送り返して私を軽蔑しました。『ティルムン(Telmun)』と交易する商人の中に、私をこのように扱う人間がどこにいる?あなただけが私の使者を軽蔑しているのです!」と、激しい怒りが記されていました。
ここに記されているティルムンとは、古代メソポタミアの交易相手であり銅の産出地または交易地として知られるディルムンと同じものだとみられます。当時の古代メソポタミアでは長らくティルムンの銅が支配的でしたが、ちょうどナンニが苦情を記した頃には衰退し始めており、競合するマガンという銅の供給地に追い抜かれていたとのこと。エアナーシルの住居からは他にも苦情が記された粘土板が出土しており、これは取引していたティルムン銅の衰退による影響を受けている可能性があるそうです。
ナンニは粘土板の末尾でエアナーシルに対し、「今、(私のお金を)全額私に返すかどうかはあなた次第です。(これからは)私はあなたからここで、良質でない銅を受け入れないということを認識してください。(これからは)自分の敷地内で、インゴットを個別に選んで取っていきます。そしてあなたが私を侮蔑的に扱ったので、あなたに対して拒絶の権利を行使します」と通告しました。
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