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概要
双日は、伝統的な商社ビジネスモデルから脱却し、「産業プラットフォーマー」としての役割を確立するために、事業再定義と共創価値の創出を目指しています。インターネットや物流の革新により、メーカーと顧客の直接取引が進む中で、双日は新しい価値を生み出す企業として自らを進化させています。
要約の箇条書き
- 双日は日本の大手総合商社で、幅広い産業を展開。
- 伝統的な商社ビジネスは仲介機能に依存していたが、現代ではそれが薄れてきている。
- インターネットと物流の進化により、メーカーと顧客が直接つながる時代に。
- 双日は「産業構造を再構築するプラットフォーマー」としての自立を選択。
- 重点分野は航空、医療、再生可能エネルギー、アグリビジネスなど。
- ビジョンは「誠実な心で世界をつなぎ、価値と豊かさを創造する」こと。
- 双日は商社という枠を超え、産業全体のプラットフォームを構築。
- 経済構造の変化や資源価格の変動に対応するための課題を認識。
- 仲介業者としての価値の薄れ、資源依存の脆弱性、競争優位性の欠如、そして社内文化の課題に直面。
- 解決策として、事業の再定義と共創型エコシステムの構築を進行中。
双日は、日本を代表する総合商社の一角として、多岐にわたる産業領域で事業を展開してきました。
従来の商社ビジネスは「仕入れて売る」「川上と川下をつなぐ」仲介機能に強みを持ち、グローバルな供給網を背景とした取引の潤滑油としての役割を担ってきました。
しかし、インターネットと物流の高度化により、メーカーと顧客が直接つながる時代が到来。
商社の存在価値が問われる中、双日は“仲介”という役割から脱却し、自らが「産業構造を再構築するプラットフォーマー」としての立ち位置を確立する道を選びました。
その鍵となったのが、「事業再定義」と「共創価値の創出」を軸に据えたマーケティング思考です。たとえば、航空、医療、再生可能エネルギー、都市開発、アグリビジネスなどでは、双日自身が中核企業となり、川上・川下・周辺プレイヤーを束ねる“エコシステム型事業”を展開。
一企業の枠を超えて、業界全体のプラットフォームを構築する戦略を実現しています。
このように双日は、「商流をつくる企業」から「産業を共に育てる企業」へと自らを再定義することで、変化の激しい時代においても揺るがぬ存在感と価値創出を可能にするブランド戦略を体現しています。
双日とは?
双日の事業内容
双日株式会社は、エネルギー、金属資源、化学、食料、リテール、インフラ、航空、医療など、幅広い分野でビジネスを展開する日本の大手総合商社です。
単なる輸出入や仲介にとどまらず、国内外における投資・事業開発を積極的に推進しており、自ら資本参加しながら事業の起点から運営まで関与するバリューチェーン型モデルを構築しています。
特に注力分野としては、航空機のリースや販売、再生可能エネルギー開発、都市型インフラプロジェクト、食品流通改革、アグリビジネスなどがあり、
「取引をつなぐ」のではなく「産業構造を設計・変革する」ビジネスモデルを強みとしています。
また、環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視した事業ポートフォリオを推進し、サステナブルな成長に貢献する“共創型商社”としての独自路線を強化しています。
双日が掲げるビジョン
双日は、自社の存在意義を「Creating value and prosperity by connecting the world with a spirit of integrity(誠実な心で、世界をつなぎ、価値と豊かさを創造する)」と定義しています。
このビジョンの本質は、単にモノを流通させるのではなく、人・技術・資本・情報をつなぎ直すことで、新しい価値と構造を生み出すことにあります。
近年では「事業を“持つ”」ことよりも「社会にとって必要な仕組みを“創る”」ことに重心を移し、都市・交通・農業・医療・再エネといった分野で、企業連携と共創型開発を通じたプラットフォーム形成に注力しています。
このように、双日は商社という枠組みを超えて、「課題解決を通じて産業と社会を動かす企業」としての自己定義を強化しており、未来の社会課題に対応する“産業インフラ創出の担い手”として、長期的なブランド価値の向上を図っています。
双日の歴史
双日のルーツは、2004年に日商岩井とニチメンという2つの老舗商社が合併して誕生したことにあります。
戦後日本の復興とともに拡大した両社は、それぞれ独自の強みを持ちながら、重工業、繊維、食品、化学など多くの産業を支えてきました。
しかし、2000年代初頭の商社再編の波の中で、資源偏重型モデルからの脱却と財務体質の健全化が求められ、統合による経営資源の再配置と新成長戦略の必要性が高まりました。
合併後の双日は、厳しい経営改革と投資戦略の見直しを進め、次第に「産業を起点にした事業創造型商社」へと舵を切るようになります。
現在では、MaaS(Mobility as a Service)や再エネ、水ビジネス、航空インフラ、医療流通などを強化し、“つなぐ商社”から“創る商社”への変貌を象徴する存在として注目されています。
双日が直面した課題
双日は、日商岩井とニチメンという長い歴史を持つ商社の統合によって誕生した企業ですが、その背景には商社ビジネスモデルの限界や、グローバル経済の構造変化、資源価格の乱高下など、経済・業界両面での大きな試練がありました。
さらに、競合する大手5大商社と比較して、規模や資源保有力で劣る双日は、差別化と独自価値の確立という課題に常に直面してきました。
以下では、双日が直面した主な4つの課題を具体的に掘り下げます。
1. 「仲介業者」としての存在意義の希薄化
商社の伝統的な役割であった「モノを仕入れて売る」「川上と川下をつなぐ」といった仲介モデルは、ITの普及と物流インフラの整備によって徐々に機能しなくなってきました。
メーカーや顧客が直接取引を行うD2C(Direct to Consumer)モデルが一般化し、情報や契約の透明性も高まる中で、“中間マージンを取るだけの企業”というネガティブなイメージが商社全体に広がりつつありました。
特に双日は、資源分野での自社権益が他商社に比べて少なく、いわゆる「トレーディングの強さ」や「巨大プロジェクトによる利益創出力」での差別化が困難でした。
このような状況下で、双日は“取引機能だけでは選ばれない商社”となるリスクと直面し、仲介から脱却し、自ら価値を生み出すプレイヤーになるための抜本的な事業構造改革が求められるようになったのです。
2. ポートフォリオの脆弱性と資源依存からの脱却課題
総合商社は世界中のエネルギー・鉱物資源に投資し、その利益で他事業を支える構造を採ってきました。
しかし、双日は5大商社に比べて資源関連権益が少なく、資源価格の変動リスクへの耐性が弱いというポートフォリオの不安定さを抱えていました。
また、世界的な脱炭素の潮流が急加速する中で、資源ビジネス自体の中長期的な先行きが不透明になってきたことも、従来型モデルに依存していた商社の方向性を根底から揺さぶることになりました。
双日はこの局面において、「限られた資源保有力の中でどうリスクを最小化し、収益構造を強化するか」という根源的な問いに直面し、“選択と集中”による非資源事業の強化や、サステナビリティを軸とした事業ポートフォリオ再構築が急務となったのです。
3. 同業大手との競争優位性の欠如とプレゼンスの低下
三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅などといった大手総合商社と比べ、双日は売上高、投資資金力、ブランド力、いずれにおいても一歩劣る“中堅ポジション”に甘んじる状態が長く続いていました。
メディア露出も少なく、社会的な注目度も相対的に低いことから、優秀な人材獲得や官民連携でのプロジェクト参画などにおいて機会損失が発生しやすい状況にありました。
この“相対的な存在感の希薄さ”は、単に規模の問題だけでなく、「この分野は双日に任せれば大丈夫」といった象徴的強みの不在にも起因しています。
双日はこの課題に対し、ニッチでも確実に価値を生み出せるフィールドで独自ポジションを築く必要があり、“総合”ではなく“選択型総合力”を発揮できるビジネスモデルへの転換が求められていたのです。
4. 社内カルチャーと意識変革の壁
事業ポートフォリオの転換や新産業創出には、社員一人ひとりの創造性や当事者意識が不可欠ですが、かつての双日は、安定したトレーディングビジネスに慣れた文化が根強く、「新しいことに挑戦する風土」が不足しているという課題がありました。
特に、合併による出自の違いや、縦割り的な組織体制、慎重な投資判断などが障壁となり、スピード感ある意思決定や越境型プロジェクトの推進に遅れが生じていました。
新規事業創出や異業種とのアライアンスを積極的に進めるためには、「失敗を許容する文化」「現場からのボトムアップ」が不可欠であり、双日には組織のあり方そのものを変える覚悟が求められていました。
双日が直面したのは、業界構造変化、資源ビジネス依存、競合との差別化不足、組織文化の硬直化という、本質的かつ複合的な経営課題でした。
伝統的商社モデルではもはや対応できない現実の中で、「存在意義の再定義」と「価値の再設計」が急務となっていたのです。
この課題を乗り越えるため、双日は“つなぐ商社”から“創る商社”への進化を目指し、戦略的変革を本格化させていきます。
次章では、双日がいかにしてこの課題群を突破し、独自のポジショニングを確立していったのかを具体的に紹介します。
双日はどうやって課題を乗り越えた?
構造的な業界変化と差別化困難な環境の中で、双日が採った戦略は「脱・伝統的商社モデル」でした。
単に仲介者として価値を提供するのではなく、自らが産業をデザインし、価値創出の起点となること。
それは、規模では勝てない中堅商社が、いかにして存在感と持続的な競争優位を確立できるかという課題への根源的な回答でもありました。
この方針のもと、双日は「事業再定義」と「共創型エコシステム」の構築に向けた多角的なアクションを展開。
以下では、その具体的な戦略のうち、まず1つ目をご紹介します。
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