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卵は横向きで落ちるとむしろ割れにくくなると判明:MIT最新研究が常識を覆す


長年、「卵は縦にしたほうが丈夫で横からの圧力には弱い」と広く信じられおり、落とした時も縦に落ちたほうが横向きに落ちたよりも割れにくいと考えられていました。

しかしMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームがこの常識を実験で検証したところ、卵は縦よりも横向きに落とした方が割れにくいことが明らかになりました。

横向きの卵はまるでショックアブソーバー(緩衝器)のように殻全体がしなって衝撃を吸収するため、硬さを多少犠牲にしても優れた耐衝撃性を発揮するのだといいます。

この発見は、古くから理科の授業で語り継がれてきた「卵落とし実験」の定説を覆すものであり、「一度定着した科学的な『常識』であっても、改めて検証すれば意外な真実が見えてくる」ことを示す好例となりました。

研究内容の詳細は2025年5月8日に『Communications Physics』にて発表されました。

目次

  • “卵は横が強い”衝撃の一報
  • “卵は横が強い”衝撃の一報
  • しなやかさこそ真の強さ

“卵は横が強い”衝撃の一報

“卵は横が強い”衝撃の一報
“卵は横が強い”衝撃の一報 / Credit:Canva

卵の殻の強度は古くから興味深い話題で、学校の科学コンテストなどで定番の「卵落としチャレンジ」(一定の高さから生卵を落として割れない工夫を競う実験)にも取り上げられてきました。

多くの教育現場や科学啓蒙サイトでは「卵は縦向きにした方が強く、割れにくい」と指導されており、実際に市販の卵パックでも卵は上下を縦にして収められています。

卵の丸みを帯びた端の部分(尖った先端や丸い底)はアーチ状の構造であり、アーチやドームが重さを支えるように衝撃をうまく分散して受け止めると考えられてきたからです。

言い換えれば、卵を縦向きにすると殻がたわみにくく(剛直で)、力を加えても変形せずに耐えやすいため割れにくいと信じられていたのです。

MIT土木環境工学科でも、新入生向けの卵落とし実験を毎年行っており、指導に当たっていたタル・コーエン准教授も長らく「卵は縦向きが一番割れにくい」と学生に教えてきたそうです。

しかし、「3年ほど前から、本当に縦向きが最強なのか疑問に思い始めた」とコーエン准教授は振り返ります。

そこで研究室に残っていた卵を使い、手探りでいくつか実験してみたところ、「縦向きの方が硬いと確認できると思っていた」のに「データを見たらはっきりしなかった」といいます。

この思いがけない結果に研究チームの好奇心に火が付き、カジュアルな問いかけだったものが本格的な研究プロジェクトへと発展しました。

卵の落下方向による割れやすさの違いを定量的に調べ、直感と実際の力学特性の食い違いを明らかにすること──それが本研究の目的となりました。

“卵は横が強い”衝撃の一報

“卵は横が強い”衝撃の一報
“卵は横が強い”衝撃の一報 / Credit:clip studio . 川勝康弘

研究チームは、卵の強度を比較するために2種類の実験を行いました。

一つは「静的圧縮試験」で、卵を固定してゆっくり押しつぶし、ひびが入るまでに要する力(強度)や殻の変形のしやすさ(剛性・靭性)を測定するものです。

もう一つは「動的落下試験」で、実際に卵を一定の高さから落として割れる確率を比較しました。

まず静的圧縮試験では、卵を縦向き(尖端か底が上下)と横向きにそれぞれセットし、少しずつ力をかけて押していきました。

その結果、殻にひびが入り始めるまでに必要な力は縦向き・横向きでほとんど同じであることが分かりました。

実際、およそ45ニュートン(約4.6kg重)の力で、どちらの向きでも殻にヒビが入ったのです。

縦向きだから特別に強いというわけではなく、「卵の強度(割れる直前に耐えられる力)は向きに関係しない」ことが示されました。

しかし、重要なのはその割れ方の違いでした。

横向きの卵は、割れる直前に縦向きよりも大きく変形していたのです。

言い換えれば、同じ力を加えても横向きの方が殻がたわんで衝撃を受け止める余裕がある(=しなやか)ことを意味します。

研究チームは卵の「赤道」にあたる側面部分(中央の膨らんだ帯状の部分)の方が柔軟であるため、この部分から力を加えた方がエネルギーを多く吸収できるのだと考察しています。

つまり同じ45ニュートンという力で割れたものの、それまでに必要な仕事量は横置きのほうが多く必要だったのです。

次に動的落下試験では、専用の装置により複数の卵を常に一定の向きで同時に落下させ、割れるかどうかを比較しました。

高さはごく低い8、9、10ミリメートル(約1センチ弱)から硬い床面に落とす条件で、合計180個(各高さごとに60個)の鶏卵を使っています。

一見すると非常に低い高さですが、卵にとっては割れるかどうかの境界が現れる絶妙な高さです。

試験の結果、縦向きに落とした卵は横向きよりもずっと低い高さで割れ始めることが明らかになりました。

例えば高さ8mmからの落下では、縦向きの卵は半数以上がひび割れてしまいました(尖ったほうを下にしても、丸い底を下にしても結果に差はありませんでした)。

これに対し横向きの卵で8mmの高さから割れたものは1割未満しかありませんでした。

わずかな高さの違いですが、横向きでは割れないのに縦向きでは割れてしまうという統計的に有意な差が確認されたのです。

このように横向きの卵は落下衝撃に対する「実用上の強さ」(割れにくさ)で縦向きよりも優れているといえます。

また研究では卵が割れるまでに吸収したエネルギーを計算したところ、静的圧縮でも動的落下でも、横向きが縦向きよりも約30 %大きいことがわかりました。

ちなみに実験後の卵はスタッフ(の犬)が美味しく頂いたとのこと。

しなやかさこそ真の強さ

しなやかさこそ真の強さ
しなやかさこそ真の強さ / Credit:Antony Sutanto et al . Communications Physics (2025)

では、なぜ横向きの卵は縦向きより割れにくいのでしょうか?

ポイントは「力の受け止め方」の違いにあります。

縦向きの卵は、一方向から力が加わると殻全体ががっちり踏ん張って硬く抵抗しますが、その反面急な衝撃には脆い性質があります。

硬くて変形しない分、ひとたび限界を超える力がかかるとパキッと割れてしまうのです。

一方、横向きの卵は縦向きよりもしなやかで、力を受けると殻が少したわみます。

その「たわみ」こそが衝撃を吸収するクッションの役割を果たし、殻全体に力を分散させてくれます。

これはちょうど高い所から飛び降りるとき、膝を伸ばしたまま着地するより膝を曲げて着地した方が衝撃を和らげられるのと似ています。

研究チームのジョセフ・ボナヴィアさん(機械工学専攻の大学院生)は次のように説明しています。

「ある意味では、膝を曲げた脚は『より弱い』ように見えますが、衝撃を吸収するという点では実際にはより強いのです。」

「卵も同じことで、強さとは単に大きな力に耐えることだけでなく、その力をどう分散・吸収するかにかかっているのです。」

つまり縦向きの卵は初期的な剛性(stiffness)は高いものの靭性(toughness)が低いのに対し、横向きの卵は剛性は低い代わりに靭性(衝撃に耐える粘り強さ)が高いといえます。

今回の結果は、これまで混同されがちだった「硬さ」と「強さ」と「靭(しな)やかさ」の違いをはっきり示すものでもありました。

身近な経験からすると、「卵は横から割れる方が簡単」と思うかもしれません。

実際、料理で卵を割るとき私たちは横向きに軽くぶつけて殻にひびを入れ、中身を取り出します。

しかしこれは殻の一点に意図的に力を集中させて割る行為であり、卵全体で衝撃を受け止める今回の落下実験とは意味が異なります。

調理用に卵を割る場合には横からの方が効率的ですが、落下衝撃に対しては横向きの方が全体で力を吸収でき有利なのです。

研究者らも「料理の際に卵を横から割るのは衝撃に耐えるのとは違う」と指摘しており、日常感覚と科学実験の結果の違いを丁寧に説明しています。

また、この知見は日常生活でもちょっとした応用が考えられます。

例えばゆで卵を作る際、沸騰したお湯に卵を入れるときには卵を横向きにしてそっと沈めると、殻にヒビが入って中の白身が飛び出してしまうリスクを減らせるかもしれません。

卵を縦向きに落とすより横向きの方が衝撃に強いと分かったことで、こうした台所での「ゆで卵あるある」にも科学的な説明がつく可能性があるのです。

今回のMITによる研究は、誰もが疑わずに信じていた定説をデータで検証し、覆してみせた点で大きな意義があります。

「卵は縦向きが強い」という広く受け入れられてきた“直感的な常識”は、厳密に試してみる価値があったと言えるでしょう。

この成果は卵の殻という身近な対象を通して、私たちに科学的探究心の大切さを教えてくれます。

研究チームは次のように述べています。

「この論文は、直感ではなく経験とデータに頼ることの価値を思い出させてくれるものです。」

「身近で当然と思われていることでも疑問をもち、実験してみれば新たな発見があるかもしれない。」

「私たちの研究が学生や若い人たちに好奇心を持ち続け、馴染みのある前提さえも問い直してみるよう促すきっかけになれば嬉しいです。」

私たちの周りの物理世界には、まだまだ常識に隠れた不思議が眠っているのかもしれません。

卵の割れ方一つとっても、そこには「なぜだろう?」と問い、その答えを探求する面白さが詰まっているのです。

全ての画像を見る

元論文

Challenging common notions on how eggs break and the role of strength versus toughness
https://doi.org/10.1038/s42005-025-02087-0

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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