火曜日, 5月 20, 2025
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医師の「気のせいでしょ」で患者はどうなる?【人生が狂うと判明】


医師に「気のせいでしょ」「大げさですよ」なんて、そっけなく扱われたり、訴えを無視されたりしたことがあるでしょうか。

もし、そんな経験があるなら、それは単なる“嫌な思い出”では済まされないかもしれません。

アメリカのラトガース大学(Rutgers University)の研究者チームのメタ研究によれば、医師による患者の症状の軽視、いわゆる「医療ガスライティング」が、患者の心と健康に長期的な悪影響を及ぼすことが明らかになりました。

この研究は、症状を否定された患者が受ける心理的・行動的・診療上の被害について、世界中の151の質的研究をもとに体系的に分析したものであり、2025年4月付の学術誌『Psychological Bulletin』に掲載されました。

目次

  • 医師に苦しみを無視される!?「医療ガスライティング」とは何か?
  • 医療ガスライティングが患者に及ぼす「4つの悪影」とは?
  • 医療ガスライティングをなくすには?

医師に苦しみを無視される!?「医療ガスライティング」とは何か?

医療ガスライティングとは、患者が感じている症状や苦しみを、医師が「気のせい」「問題ない」と否定することで、患者に「自分の感覚は間違っているのかもしれない」と感じさせてしまう心理的作用を指します。

この用語はもともと、相手の現実感や記憶を否定し、精神的に操作する心理的虐待行為「ガスライティング」から派生したもので、医療の現場における同様の現象を示す言葉として注目されています。

近年では、医師たちから「symptom invalidation」とも呼ばれるようになっていますが、患者からすると「医療ガスライティング(medical gaslighting)」と呼ぶ方が多いかもしれません。

患者の訴えを軽視・無視する「医療ガスライティング」とは? / Credit:Canva

そして特に女性やマイノリティ、慢性的な痛みや疲労を抱える人々がこの体験をしやすく、そこには社会的構造や無意識のバイアスが関係しているとされています。

医師が医療ガスライティングをしてしまう背景には、時間に追われる診察環境や、医学教育において患者の主観的な訴えを軽視しがちな文化、原因特定の難しさなどがあります。

また、医師自身が無意識に持っている性別や人種、年齢に対する固定観念が、診断や対応に影響を与えることも少なくありません。

問題が顕在化した大きな契機は「長期COVID」の拡大です。

新型コロナウイルス感染症から回復した後も、倦怠感や集中力の低下などの症状が長期間続く「長期COVID」患者が急増しました。

しかしその多くが医師に「もう治っているはず」「原因不明だから様子見」と言われ、診断も治療も進まない状況に直面したのです。

そこでラトガース大学の研究チームは、このような症状の否定が患者にどのような悪影響を及ぼすのかを、質的研究を通じて体系的に明らかにすることを目的に、本調査を開始しました。

研究者たちは、線維筋痛症、子宮内膜症、長期COVID、過敏性腸症候群、全身性エリテマトーデスなど、検査結果に異常が現れにくい13種の慢性疾患に関する151本の研究論文(合計11,307人の患者)を対象に、「症状が信じてもらえなかった」体験を分析しました。

この分析は、患者の言葉やエピソードから意味や感情を抽出するメタ・シンセシス(質的研究の統合分析)という手法で行われ、研究チームはそこから共通するパターンを見出し、階層的な分析を通じて4つの主要な影響領域を導き出しました。

医療ガスライティングが患者に及ぼす「4つの悪影」とは?

研究で明らかになった医療ガスライティングの影響は、大きく4つに分けることができます。

まず1つ目は、感情と信念へのダメージです。

症状を否定された患者は、自分の感じていることが間違っていると思うようになります。

その結果、羞恥心や自己否定、怒り、孤独感、無力感、さらには自殺願望を抱くことに繋がる場合があります。

実際に研究の中では、「私は7人の医師に『異常なし』と言われ、自分がおかしいのかと思うようになった」と語る患者もいました。

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医療ガスライティングは、患者にトラウマを与え、医療から遠ざける。「人生が狂う」と言えるほど、長期的かつ重大な悪影響 / Credit:Canva

2つ目は、医療への不信とトラウマです。

「どうせまた否定される」と感じた患者は、医療そのものを恐れるようになります。

このような「医療的トラウマ」では、診療室でのフラッシュバックや動悸、拒否反応などの症状が見られることがあります。

3つ目は、医療の回避です。

患者はつらい思いを繰り返したくないあまり、病院に行くこと自体を避けるようになります。

その結果、本来であれば治せたはずの病気が進行し、重症化する危険性が高まります。

4つ目は、診断の遅れです。

症状が信じてもらえずに検査や専門医の紹介がなされないことで、重大な遅れが生じることがあります。

例えば、子宮内膜症は症状が出現してから、診断が下るまでに平均で6.7年かかる場合があります。(長いと10年くらいかかることも)

子宮内膜症は他の疾患と症状が似ており、誤診される場合が少なくありません。

こうした診断が難しいケースでは、医療ガスライティングが生じているゆえに、診断がいっそう遅れることもあります。

このように、今回の研究によって、医療ガスライティングが患者に永続する害を及ぼしていることが明らかになりました。

では、私たちはどうすればこの悪循環を断ち切ることができるのでしょうか。

医療ガスライティングをなくすには?

まず医師側の対応としては、患者の主観的な訴えも重要な医学情報として扱うことが求められます。

検査結果が正常であっても、「それでもつらい」という声を否定しない姿勢が必要です。

診断名がすぐに出せなくても、「一緒に考えましょう」という態度で臨むことが信頼関係を築く鍵になります。

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「気のせいでしょ」と言われても、セカンドオピニオンを恐れるべきではない! / Credit:Canva

一方で、患者側にもできることがあります。

日記やスマートフォンのアプリを活用して、痛みの強さや疲労感、眠れなかった日などの症状を記録し、それを診療時に提示することで、医師との対話がスムーズになります。

また、セカンドオピニオンを恐れず、必要であれば他の医師の意見を聞く姿勢も重要です。

さらに、同じ経験をした人たちとつながるために、患者会やサポート団体に参加することも、心理的支えとなります。

医療ガスライティングという言葉は、重く感じられるかもしれません。

しかし、この言葉が生まれ、学術的に研究されるようになったことは、まさに今苦しんでいる患者たちの「つらさ」が無視されるべきでないと認められた証です。

「何も異常はない」と言われても、「それでも苦しいんです」と言っていいのです。

全ての画像を見る

参考文献

When doctors dismiss symptoms, patients suffer long-term harm
https://newatlas.com/health-wellbeing/medical-gaslighting-symptom-invalidation-harm/

When Doctors Dismiss Symptoms, Patients Suffer Lasting Harm
https://www.rutgers.edu/news/when-doctors-dismiss-symptoms-patients-suffer-lasting-harm

元論文

Ignored, Dismissed, and Minimized: Understanding the Harmful Consequences of Invalidation in Health Care—A Systematic Meta-Synthesis of Qualitative Research
https://doi.org/10.1037/bul0000473

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部



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🧠 編集部の感想:
医療ガスライティングの影響が明らかになり、患者が医師に症状を軽視されることで心理的なダメージを受ける可能性が示されています。特に、女性やマイノリティが影響を受けやすいとの指摘は、医療現場の改善の必要性を強く訴えています。患者の声を大切にし、信頼関係を築くことが必要です。

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