テレビやディスプレイの中には「HDR」への対応をアピールするものが多くあります。また、カメラアプリや画像編集アプリなどにも「HDR」という機能が搭載されていることがあります。これらの「HDR」というフレーズは異なるものを指しており、混乱を招くこともあります。
What is HDR, anyway?
https://www.lux.camera/what-is-hdr/
「HDR」というフレーズは「写真合成技術の『HDR』」と「映像記録および表示技術の『HDR』」という2種類の意味で広く使われています。それぞれの概要は以下のとおり。
◆写真合成技術の「HDR」
人間の目は「太陽に照らされた明るい場所と何かの影になった暗い場所」のような明暗差の激しい場所でも全体を視認することができます。しかし、カメラは明暗差の激しい場所の記録が苦手で、「明るい部分が白飛びする」とか「暗い部分が黒つぶれする」といった問題が発生します。
例えば、「机に置いたiPhone」をカメラで撮影してみます。iPhoneのディスプレイを消灯している際は明暗差が激しくないため、問題なく全体を鮮明に記録出来ています。
しかし、ディスプレイを点灯して明るさを最大にすると、机の天板よりもディスプレイの方が圧倒的に明るいため、ディスプレイ部分が白飛びしてしまいました。
ディスプレイ部分を鮮明に記録できるように調整すると、今度は机が暗くなってしまいました。
カメラで撮影できる明るさの範囲は「ダイナミックレンジ」と呼ばれており、ダイナミックレンジが高いほど明暗差の激しい場面でも白飛びや黒つぶれを避けられるようになります。しかし、ダイナミックレンジが比較的向上した現代のカメラでも上記のような極端な明暗差には対応できません。
そこで開発されたのが「明るい場所を鮮明に記録できるように調整した写真」と「暗い場所を鮮明に記録できるように調整した写真」をほぼ同時に撮影して、それらを合成することで明るい場所も暗い場所も鮮明に再現する合成技術です。この合成技術は「ダイナミックレンジが高い」ということを意味する「ハイダイナミックレンジ(HDR)」という名前で呼ばれています。
合成技術のHDRは2000年代後半から広く採用されるようになり、風景画などをHDRで表現した作品が数多く公開されることとなりました。
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HDR合成が流行し始めた当初は専用のアプリが必要でしたが、2010年に登場した「iPhone 4」にHDR合成写真撮影機能が搭載されたことで一般ユーザーでも手軽にHDR合成写真を撮影できるようになりました。記事作成時点ではiPhoneだけでなく多くのAndroidスマートフォンも同様の機能を搭載しています。
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以下は、iPhone 8で撮影したHDR合成写真です。明るい雲を白飛びせず記録できているのと同時に、木の陰の暗い部分も鮮明に記録できています。
◆映像記録および表示技術の「HDR」
「HDR対応テレビ」や「HDR対応ディスプレイ」は一般的なテレビやディスプレイよりも表示可能な輝度を引き上げたものを指します。表示可能な輝度を引き上げることで「まぶしいくらいの明るさ」を表現したり、「高輝度における微妙な明るさの差」を表現したりできます。このHDRも「ハイダイナミックレンジ」の略称です。
「HDR対応テレビ」や「HDR対応ディスプレイ」では通常の動画よりも記録可能な輝度の範囲を広げたHDR動画の再生が可能です。HDR動画の記録には高価な機材が必要でしたが、2019年に登場した「Galaxy S10」や2020年に登場した「iPhone 12」でHDR動画の記録が可能となり、それ以降に登場した多くのスマートフォンにもHDR動画撮影機能が搭載されるようになっています。
また、ゲームの世界では2016年に登場した「PlayStation 4 Pro」でHDRでの映像出力に対応。PlayStation 5以降のモデルでもHDR出力に対応しています。
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HDRに対応したコンテンツは増えつつありますが、HDR対応コンテンツをHDR非対応のテレビやディスプレイで表示すると、色がくすんだように見えることがあります。例えば、2025年4月には「SlackのユーザーアイコンをHDR対応の明るい画像にして目立たせる」というハックがインターネット上で話題になりましたが、このハックを使ってもHDR非対応ディスプレイではそこまで明るく表示されません。このため、多くの人が見る可能性のあるコンテンツはHDRではなく通常のダイナミックレンジ(SDR)で作成した方がいい場合もあります。
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🧠 編集部の感想:
「HDR」という用語が写真合成と映像技術で異なる意味を持つことがよく理解できました。特に、明暗差を効果的に表現する技術としての重要性が際立っています。この distinction を知ることで、より良いコンテンツ制作や視聴体験に繋がると思います。
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