かつて「ダサい」の象徴だった矯正器具(メタルブラケット)が、近年、Z世代のファッションアイテムとして再注目されている。

火付け役は英モデルのアビー・クランシーをはじめとするセレブリティたち。彼女たちがメタルブラケットを堂々とつける姿は、SNSを通じて世界中の若者に影響を与えている。このトレンド、単なる一時的な流行ではなく、Z世代の価値観の変化を示すものかもしれない。

チャーミングなファッションアイテム!?
過去のイメージを覆す、Z世代の価値観

2000年代、メタルブラケットや眼鏡は、どちらかと言えば「ダサい」ものの象徴だった。映画やドラマにおいても、変身前の主人公が身につけているアイテムとして描かれることが多かったのではないだろうか。

しかし、時代は代わり、ジュリア・フォックス、ビリー・アイリッシュ、ベラ・ハディッドなど、多くのファッショニスタたちが個性的な眼鏡を着用し、そのイメージは一変。そして今、メタルブラケットも同様の道をたどりつつある。

なぜ、メタルブラケット?

英国矯正歯科学会によると、2023年には矯正治療を希望する大人が76%増加したという。その背景には、メタルブラケットの機能性Z世代の自己肯定感の高まりがある、とファッション誌「Grazia」の記事は分析する。

メタルブラケットは、透明なマウスピース型の矯正器具(インビザライン)よりも治療期間が短く、医師による管理下で確実な効果が得られる。いっぽう、インビザラインは一般的に1日20~22時間装着することが推奨されているものの、装着時間を守れない患者も多いという。

ロンドン在住の矯正専門医であるStuart Yeaton氏は、「人々は従来の矯正器具に対して以前よりずっとオープンになっている」とGraziaの取材に応えている。20~30代の患者は、目立たないマウスピース型よりも、カラフルなバンド付きのメタルブラケットを選ぶケースが増えているそうだ。

セレブリティ効果
トレンドを加速させるインフルエンサーたち

メタルブラケット人気の背景には、ソーシャルメディアで活躍するインフルエンサーたちの影響も大きい。セレブリティが矯正器具姿をSNSに投稿することで、フォロワーたちはそれを「クール」で「おしゃれ」とみなし始めているようだ。

ニューヨーク在住、32歳の映画監督Pauletteは、「ピンクと紫のメタルブラケットは、まるで自分のトレードマークのようだった」と振り返り、25歳の大学院生Tracyは、大学時代に装着していたメタルブラケットのおかげで「性的対象として見られることへの意識から解放された」という経験を語っている。

DIY矯正の危険性
安易な選択が招くリスク

メタルブラケットトレンドが世界的に広がるいっぽう、懸念されるのが発展途上国におけるDIY矯正の流行。

正規の矯正治療は高額なため、安価な非正規品を闇市場で購入する若者が増加しているらしい。これらの製品は低品質な金属や接着剤を使用しており、感染症や窒息の危険性もあるという。先述のYeaton氏は、この現象を「Etsyで人工股関節を買うようなもの」と表現し、強い懸念を示している。

実際、2018年にはタイでDIY矯正器具が原因で10代の若者2名が死亡する事故が発生。その後、タイ政府は偽の矯正器具の販売を禁止したという例もある。

多様な美しさの時代へ
自分らしさと社会との調和

メタルブラケットをはじめとする矯正器具をファッションの一部と捉えるZ世代の感性は、画一的な美しさにとらわれない、多様な美の受容を示していると言える。

SNSの普及により、さまざまな美しさに触れる機会が増え、一人ひとりが自分らしいスタイルを追求できるようになった。けれど、その自由な表現の裏には、健康リスクや社会問題も潜んでいることを忘れてはならない。

 

メタルブラケットのリバイバル。それは、過去の価値観にとらわれず、自分らしい美しさを追求する「美の多様性」宣言とも捉えることができる。顔立ちや体型、ジェンダーにとらわれず、個性を尊重する社会。メタルブラケットは、そのためのメッセージを可視化する強力なツールとなりつつある。いつかのコンプレックスが、180度変わろうとしている。

Top image: © iStock.com / Voyagerix

フラッグシティパートナーズ海外不動産投資セミナー 【DMM FX】入金

Source link