日曜日, 6月 8, 2025
- Advertisment -
ホームレビュー映画人の生涯を、一気に駆け抜けることでのみ味わえるカタルシス。【映画「国宝」】かーたん。 田中

人の生涯を、一気に駆け抜けることでのみ味わえるカタルシス。【映画「国宝」】かーたん。 田中

🧠 あらすじと概要:

映画「国宝」のあらすじと記事の要約

あらすじ:
「国宝」は、吉田修一の小説を基にした劇映画で、監督は李相日。物語は1964年、長崎から始まり、主人公・喜久雄の50年間にわたる人生を描いています。喜久雄は、抗争で亡くなった父を持ち、歌舞伎役者としての道を歩むことになります。血筋を重んじる歌舞伎界で、彼は美貌と才能を持ちながらも、出自に苦しむ少年として成長していき、「日本一の役者になる」という夢を追い求めます。

要約:
映画「国宝」は、壮大な時代を背景に、主人公の運命に翻弄される姿を描き出しています。約2時間54分の上映時間ながら、血筋に抗う芸の力をテーマに、巧みな脚本と美術が融合。特にカメラワークや役者の演技が高く評価され、観客は感情の高まりを体験します。渡辺謙や高畑充希の演技が光り、李相日監督の手腕が遺憾なく発揮されています。日本映画としての完成度が高く、観る価値のある作品としておすすめされており、2023年6月に公開されました。

人の生涯を、一気に駆け抜けることでのみ味わえるカタルシス。【映画「国宝」】かーたん。 田中

吉田修一の小説を李相日監督で映画化した「国宝」を観る。「大作」という名前が、久しぶりにぴったりとくる日本映画を観た気分だ。

主人公・喜久雄の50年間の人生を描く作品の始まりは、1964年の長崎。勢力ある組の長の息子だったが、父親は抗争で死亡。翌年、15歳で上方歌舞伎の花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、半二郎の息子・俊介ともに、歌舞伎役者としての道を歩み始めるが…。

なによりも血筋を重んじる歌舞伎という世界の中で、美貌と芸の才能はあるが「血」は持たない少年が、様々な運命に翻弄されながらも、「他に何もいらないから、日本一の役者になる」という思いを果たすという物語。

タイトルからして、2014年で終わるこの物語のラストがどうなるかは察しがつく。原作は文庫で上下巻の長編小説(未読)であり、この一代記のような話を長尺の2時間54分とはいえ、1本の映画にするのは…という声も当然あるだろう。しかし「血に抗い芸を成す」に焦点を絞った巧みな脚本と、非常にハイレベルな様々な要素とで、人の生涯を一気に駆け抜けることでのみ味わえるカタルシスが味わえ、ラストでは涙が止まらなかった。

観ていてすぐに気がつくのは、そのカメラワークのセンスの良さ。撮影のソフィアン・エル・ファニはカンヌのパルムドール作品「アデル、ブルーは熱い色」(2013)の撮影も担当、李相日監督の是非にとの希望で今回参加したそう。手持ちカメラを駆使、役者や手持ちのアップなどに浅い被写界深度でのボケを最大限活かした絵作りは、作品にアーティスティックな印象を付加。また生み出されるドキュメンタリー感が、映画の作り物感を払拭している。

歌舞伎を舞台にした作品だけに、「二人道明寺」や「曽根崎心中」等のシーンが多数。これらを実際に演じる喜久雄役の吉沢亮と、俊介役の横浜流星に、歌舞伎に疎いからかもしれないが、違和感は全くなく、ドラマ部分の演技でも血のある男とない男のライバル関係を見事に表現していた。あと良かったといえば、渡辺謙の表現力はもちろん群を抜いてるし、高畑充希はなんであれだけ美しいけど影のある女を、きちんと演じられるのか不思議なくらい。

さらに、女形で人間国宝の小野川万菊役の田中泯の「ちょっと怖い」芝居が、作品を引き締める。あと、最終盤の瀧内公美のカメラマン役は、非常においしい役。短いが登場だが彼女のセリフ力で、一気に涙腺が破裂する。とにかく俳優の演技だけでも、注目に値する部分が多すぎる。

もちろん舞台を再現する美術も素晴らしいし、ささいなため息なども逃さない音声もいい。そして何よりも、カットの長尺、時間の前後を巧みに組み合わせて、3時間近くの男の一生を全く飽きずに観客に突きつける李相日監督の手腕が凄い。まだ51歳の李監督だが、脂が乗り切った感がある。

日本映画として、これだけ高レベルのファクターが揃った作品はめったにないだろう。たまにしか劇場で映画を観ない人でも、これは観ておいた方がいいと自信を持ってオススメできる一本だ。6月6日公開。



続きをみる


Views: 0

RELATED ARTICLES

返事を書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

- Advertisment -