日曜日, 6月 1, 2025
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ロバート・エガース『ノスフェラトゥ』自己犠牲ではなく解放の死alice

🧠 あらすじと概要:
この記事はロバート・エガースの映画『ノスフェラトゥ』に関する感想文です。以下にあらすじと要約を示します。

### あらすじ
『ノスフェラトゥ』は、オリジナルのムルナウ版を現代に再構築したホラー映画です。物語は、吸血鬼オルロックと彼に惹かれるヒロインエレン(リリー=ローズ・デップ)の関係を中心に展開します。エレンは自己犠牲的な美しさから、自己決定権を行使する力強い女性へと変貌を遂げ、オルロックとの抑圧と解放の関係が描かれます。

### 記事の要約
著者はエガースの作品を絶賛し、特にリリー=ローズ・デップ演じるエレンの自己実現に注目しています。映画では、社会から抑圧される女性像と、エロスとタナトスの複雑な関係が描かれています。エレンはただの犠牲者ではなく、自らの欲望を取り戻す存在として描かれ、ラストシーンにおいては彼女の自己受容が強調されます。また、オルロックのキャラクターへの評価も高く、様々な解釈が可能であることに触れています。全体として、闇や美、自由と抑圧のテーマが深く掘り下げられた作品であると結論しています。

ロバート・エガース『ノスフェラトゥ』自己犠牲ではなく解放の死alice

オリジナル版、ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』が大好きな身としてはほんとうにほんとうに大好きな一作になった!ロバート・エガースは期待を裏切らない!しかもムルナウ版に魅了されてきたという監督が古典的名匠の古典を、闇と美の二面性を強調して美しく再構築していた。そして、エレンという自己犠牲としての美しき乙女からアップデートされたリリー=ローズ・デップのヒロイン像に心底ほれこんでしまう!

デビュー作『ウィッチ』のアニャ・テイラー=ジョイ、『ライトハウス』のウィレム・デフォーとロバート・パティンソン、俳優の身体をスクリーンで輝かせる手腕が『ノスフェラトゥ』のリリー・ローズ・デップにも発揮されていた。脆くも自分を見失わない強さを持つ女性。そして慎ましくもどこかエロティックな雰囲気を醸し出す乙女(「THE IDOL/ジ・アイドル」の幻影?あの三白眼に宿る反抗的な意志)。そ男たちのための犠牲者ではなく、BITCH=“すべての自己決定権を行使する彼女(Beingin Total Control of Herself)/ラトリース・ロイヤル“であることが自己実現の鍵だったとおもう。

エレンとオルロック。かたやヒステリー患者、男性たちによって確立された見せ物、しばられコルセットで締め付けられる女。16世紀のトランシルヴァニア貴族の装束を衣装としたらしいオルロックは、17世紀のトランシルヴァニアでは多くの男性が殺されているし、魔女狩りの犠牲者なんじゃないの?と思ったりする。ソロモン魔術の7芒星が描かれた棺もあったし。破壊者でもあり、またそれは解放者ともなりえる。どちらも抑圧された側の物語だったようにも思えて、そんなふたりが惹かれあったこともつかのま、社会通念のなかで否定され、抑圧に耐え切れずにオルロックを否定したエレンが、ふたたび自分自身の欲望を取り戻すまでの物語だったんじゃないのと思っている。

社会は彼女たちを勝手に魔女に仕立て上げるし、巫女にも仕立て上げる。なんでも科学で解決できるという華やかな19世紀の時代、表面的にはすべて論理的に証明できるとされていても、その地表の深くには魔術的なものがまだまだうごめいていた。というよりもむしろオカルトがばっこした時代でもあった。エレンが堂々とノスフェラトゥと対峙するのに対し、”可哀想な”美女を救おうとする男たちのなんて愚かなこと!夜は自由を感じ、限界がなく、恐怖を押し広げることも、魅せられることも可能なのだ。そして夜を支配するのは魔女であり、神の冒涜者なのだ。あたしはエレンを犠牲者とは考えない。ラストの死が悲劇的なものとも思わない。おぞましさのなかにあるのは、闇を受け入れた彼女の最後の表情だったから。

マックス・シュレックが演じたオルロック伯爵は、ほんとうに愚かさと薄気味悪さが絶妙にマッチしあっていて大好きなキャラクターで、それを進化させたヘルツォーク版のクラウス・キンスキーのオルロックは、どこか憐れでもあって、でも彼はまじで天王星からやってきたみたいな変革者だった(ブルジョワを崩壊せよ!)。ビル・スカルスガルトのオルロックは、かつてないほどおぞましく、それがまたなんだかエロティックであってすばらしかった。ああ、あの声、あの心の奥底からこみあげてくるうなってるような、囁いているような声が忘れ難い。『ライトハウス』でのライティングがほんとうに秀逸だったエガースの本領発揮といわんばかりに影にまぎれて全貌をなかなか見させてくれないオルロックがほんとうにすばらしかった。さまざまなオルロック(2023年版は観てません)の夢中になるところが融合していたエロスとタナトスが融合した化身、怪物。内側にひろがる影が光に照らされた人工的な燈を破壊する時に上ってくる自然の祝福のような太陽に照らされ、ライラックに包まれたふたりの感動的なショットを、もうこれから一生“はじめて”観ることができないんだなぁとなんだか打ちひしがれてしまうような尊さが蔓延していた。



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