
公権力への批判をかわすために、法執行機関やメディアが意図的に報道をゆがめ、警察に好意的なイメージを広めたり、事実を隠匿したりする「コパガンダ」について、公選弁護士であるアレック・カラカツァニス氏が、自著の「コパガンダ:警察とメディアがいかにしてニュースを操作するか(Copaganda: How Police and the Media Manipulate)」を基に論じました。
How to Sniff Out ‘Copaganda’: When the Police and the Media Manipulate Our News | Teen Vogue
https://www.teenvogue.com/story/copaganda-when-the-police-and-the-media-manipulate-our-news
◆モラル・パニック
カラカツァニス氏によると、ニュースメディアは特定の時期に報道する記事の量を操作することで、特定の人々や行動に対する社会的な熱狂を生み出しており、これは学者たちの間で「モラル・パニック」と呼ばれているとのこと。
報道の過熱が引き起こしたモラル・パニックの例としては、麻薬中毒の母親から生まれた「クラックベイビー」に関する1980年代の騒動や、ためらいなく殺人を犯す都市部の若者「スーパープレデター」に関する1990年代のパニック、多発する万引きに関する2021年から2023年の「小売窃盗」パニックなどがあります。
これらのケースでは、いずれもほぼ即座に政策的な対応が行われ、警察の予算は増加し、刑を厳罰化する法律が制定され、社会のリソースが他の優先事項から転用されています。例えば、前述の小売窃盗パニックでは、窃盗犯をより厳しく取り締まるために警察や検察官への予算を3億ドル(約438億円)増やすようにカリフォルニア州の議員が提案しました。そして、それから数カ月後には、カリフォルニア州知事が「組織的な小売窃盗に対抗するための史上最大の単一投資」との触れ込みで、55の警察機関に追加で2億6700万ドル(約390億円)の資金を投じることを発表しました。
◆真実で嘘をつく方法
モラル・パニックを起こすためのコパガンダでは、「逸話の選択的キュレーション」と呼ばれる偏向報道が重要なメカニズムとして機能します。例えば、ある都市で2022年に発生した窃盗事件は1万5000件で、2023年には1万件に減少したとします。
しかし、メディアが2022年に報道した窃盗事件がわずか15件で、逆に2023年には毎日のように窃盗事件について報じた場合、人々は「去年の15件に比べて今年は窃盗事件が25倍に増えた」と錯覚してしまいます。これが、カラカツァニス氏の言う「真実で嘘をつく方法」です。
◆コパガンダの事例
カラカツァニス氏は、コパガンダの殿堂入り記者として、アメリカの公共ラジオ局・NPRのジャーナリストであるマーティン・カステ氏を名指しして批判しています。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた2022年、カステ氏はパンデミック中に銃撃や殺人事件が増加したとする報道を行い、その中でシアトルに住む1人の一般人の意見をさも貧困地域に住む人々の代表であるかのように取り上げて、「アメリカでは人を銃で撃つリスクが低下した」と主張しました。
しかし、カラカツァニス氏によると、2020年と2021年には全国的な殺人事件が増加していたものの、2022年は減少していたとのこと。また、2020年に発生したジョージ・フロイドの死に対する大規模な抗議の後も、全国的な警察の予算は削減されませんでした。つまり、「警察予算の削減が、2019年より2021年の方が人を撃つリスクが少なくなった原因」とするカステ氏のロジックは成り立たないと、カラカツァニス氏は指摘しています。
by Bart Everson
こうした背景を知りながら、カステ氏はシアトルで例外的に警察予算が10%削減されたことを理由に、「2020年のジョージ・フロイド殺害に続く抗議の後、シアトルは数百人の警官を失った」と強調しました。しかし、実際のところ警察予算の削減の影響は駐車禁止違反の切符を切るなどの非暴力犯罪に関する警察活動にとどまり、予算上の制約で警察官が失職したり、減給されたりしたことはないとされています。
このような警察報道の問題について、カラカツァニス氏は「情報源が記者に提供した証言を疑っているわけではありませんが、どの人の意見を取り上げて、どの人の意見を無視するかを取捨選択することで、報道は私たちの認識をねじ曲げることができます」と述べました。
この記事のタイトルとURLをコピーする
🧠 編集部の感想:
メディアによる「コパガンダ」の手法は、警察への過剰な好意的表現が公共の認識を操作する危険性を示しています。特定の逸話やデータを選択的に報道することで、真実が歪められ、無関係な政策が強化されるのは非常に懸念される事態です。私たちは、情報の裏に潜む意図を見抜き、批判的に考える力を持つことが重要です。
Views: 0