“ミスを減らす”はAIが得意！人的ミスがゼロに近づく業務フローとは？荒川 明夫 (AKI) ┃ DX推進アドバイザー │ 毎日更新

日々の業務において、「あ！入力ミスだ」「コピー＆ペーストを間違えた」「この計算、合ってるかな…？」といった人的ミスは、誰もが一度は経験することでしょう。どんなに注意していても起こりうる人的ミスは、その後の修正に時間がかかったり、大きなトラブルに発展したりと、コストとストレスの原因となります。

特に、繰り返し行う定型的な作業や、大量のデータを扱う作業では、どれだけ経験を積んだ人でもミスを完全にゼロにするのは困難です。
しかし、最新のAI技術を活用することで、この「人的ミス」を限りなくゼロに近づける業務フローを設計することが可能になってきました。

今回は、AIがいかにミスの削減に貢献し、どのように業務プロセスを変えるのかについて掘り下げていきます。

人的ミスが引き起こす隠れたコスト

人的ミスは、単なる「うっかり」や「不注意」では片付けられない、組織にとって無視できないコストです。

• 時間とコストの浪費
  ミスの発見、原因究明、修正作業に膨大な時間と人件費がかかります。本来なら生産的な活動に使えるはずの時間が失われます。

• 信頼性の低下
  社内の他部署や、顧客からの信頼を失う原因となります。一度失われた信頼を取り戻すのは容易ではありません。

• 機会損失
  ミスによってビジネスチャンスを逃したり、提供するサービスや製品の質が低下し、顧客満足度を損ねたりします。

• 従業員のストレス
  ミスを恐れるあまり過度な緊張を強いられたり、実際にミスをしてしまった後に責められたりすることが、従業員のメンタルヘルスに悪影響を与え、離職の原因となることもあります。

これらの直接的・間接的なコストを削減することは、組織の効率性、競争力、そして従業員のウェルビーイングの向上に不可欠です。

なぜAIはミスを減らすのが得意なのか？

AIが人的ミス削減において強力なツールとなる理由は、その特性にあります。

• 一貫性
  AIは設定されたルールに基づいて、常に同じ手順、同じ精度で作業を実行します。人間のように疲れたり、集中力が途切れたり、気分に左右されたりすることがありません。

• スピードと処理能力
  大量のデータ処理や繰り返し作業を、人間には不可能な速さで行います。時間的な制約による焦りや、データ量の多さによる見落としを防ぎます。

• パターン認識と異常検知
  大量のデータの中から、人間の目では気づきにくいデータの不整合、入力規則からの逸脱、例外パターンなどを高速で見つけ出します。

• 正確なルール実行
  プログラムされた複雑なルールや条件分岐を正確に実行し、手順の飛ばしや誤った判断、確認漏れを防ぎます。

• 疲労知らず
  24時間365日稼働しても、AIは疲労によるパフォーマンス低下がありません。

人的ミスがゼロに近づく！AIを活用した業務フローの設計

AIを最大限に活用して人的ミスを削減する業務フローは、単に一部の作業を自動化するだけでなく、プロセス全体を見直し、ミスの発生しやすいポイントにピンポイントでAIを配置することが重要です。

AIがミスの発生を抑制する主なステップは以下の通りです。

1. データ入力・抽出の自動化と精度向上:

   • AI-OCR
     紙やPDFの請求書、申込書などから必要な情報をAIが読み取り、システムやExcelに自動で入力します。手入力による誤字脱字、桁間違い、転記ミスといった最初の入力段階でのミスを根絶に近づけます。

   • データ収集ボット
     Webサイトやメール、特定のシステムから定型的な情報をAIが自動で抽出し、整形します。コピペミスや手作業による取得漏れを防ぎます。

2. データ加工・検証プロセスの自動化とチェック機能強化:

   • AIによるデータクリーニング・変換
     複数のデータソースからの情報を統合する際に、表記ゆれの修正（例：「株式会社」と「(株)」）、データの欠損補完、形式の統一などをAIが自動で行います。データの不整合や加工ミスを防ぎます。

   • 異常値・不整合検知
     入力されたデータや処理結果に、過去の傾向と大きく異なる値や、論理的な不整合（例：売上データなのにマイナスになっている、同じ顧客なのに住所が複数ある）がないかAIが自動でチェックし、人間による最終確認が必要なものだけを抽出します。

   • ルールベースの自動判定
     あらかじめ定義された複雑なルールに基づき、申請内容の基本要件チェック、契約書の特定の条項確認、顧客情報の重複チェックなどをAIが実行します。人間による見落としや判断基準のブレを防ぎます。

3. アウトプット生成・通知プロセスの自動化と標準化:

   • 定型レポートの自動生成
     集計済みのデータから、あらかじめ定義されたテンプレートに従ってレポートやグラフをAIが自動生成します。手作業によるフォーマット崩れや、データ参照ミスを防ぎ、常に最新かつ正確なレポートを提供します。

   • 自動通知・アラート
     システム上の特定のイベント（例：在庫が閾値を下回った、顧客からのクレームが登録された）をAIが検知し、関係者に自動で通知します。報告漏れや連絡遅れによるミスを防ぎます。

このようなフローでは、AIが「正確性」「一貫性」「スピード」が求められる定型・反復作業や膨大なデータ処理を担当し、人間はAIがフラグを立てた例外対応、複雑な判断、戦略立案、創造的な活動、そして人間的なコミュニケーションに集中します。

AI導入によるその他のメリット

人的ミス削減は、AI導入によって得られるメリットの一部に過ぎません。

• 業務効率の向上
  自動化により、作業速度が飛躍的に向上し、納期短縮や処理量増加が可能になります。

• 生産性の向上
  ミス対応や単純作業にかかっていた時間を、より創造的で価値の高い業務に充てられ、従業員一人あたりの生産性が向上します。

• 従業員のエンゲージメント向上
  ストレスの原因となっていた単純作業やミスへのプレッシャーから解放され、よりやりがいのある、自分の能力を活かせる仕事に集中できます。

• リアルタイムなデータ活用
  データの入力・加工・集計が迅速化されることで、常に最新のデータに基づいた意思決定が可能になります。

ミスゼロに近づく業務フロー実現へのステップ

AIを活用して人的ミスを削減する業務フローを導入するためには、以下のステップが考えられます。

1. ミスの多い業務の洗い出しと特定
   まずは、どの業務プロセスで人的ミスが多く発生しているか、どのようなミスが起きているかを具体的に洗い出します。

2. 現在の業務プロセスの分析
   ミスが発生する原因を深掘りし、手作業で発生している「手間」や「チェック不足」のポイントを特定します。

3. AIによる自動化・効率化の検討と設計
   特定したミスの多い作業に対して、AI（AI-OCR、データ分析AI、ワークフローAIなど）をどのように組み込むか、業務プロセスをどのように再設計するかを検討します。

4. ツール選定と PoC (概念実証)
   課題に合ったAIツールやRPAツールを選定し、実際の業務で小規模なテスト（PoC）を行い、効果と課題を検証します。

5. 本格導入と効果測定
   PoCの結果を元に本格導入を進め、ミスの削減率や効率化の効果を測定し、継続的にプロセスを改善します。

結論：AIは「正確さ」と「信頼性」をもたらすパートナー

「ミスを減らす」という、地道でありながら業務の信頼性にとって極めて重要なタスクは、まさにAIが得意とする領域です。AIを業務フローの要所に組み込むことで、これまで避けられなかった人的ミスを限りなくゼロに近づけ、業務の精度と信頼性を飛躍的に高めることができます。

人的ミスによるストレスや手戻りから解放された従業員は、より重要な判断や、人間ならではの創造的な業務に集中できます。
AIは単なる効率化ツールではなく、「正確さ」と「信頼性」という点で私たちビジネスパーソンの強力なパートナーとなり、より高品質でミスのない働き方を実現する鍵となるのです。