火曜日, 4月 29, 2025
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ベートーヴェンの「運命」の初演は“寒〜い”事態に!? 左手だけでピアノを弾く楽曲が生まれた理由とは? クラシックのちょっとしたエピソードを知ると楽しいぞ



ベートーヴェンの「運命」の初演は“寒〜い”事態に!? 左手だけでピアノを弾く楽曲が生まれた理由とは? クラシックのちょっとしたエピソードを知ると楽しいぞ

 クラシック音楽には「名曲」と呼ばれるものがあります。何しろ歴史が長〜いジャンルですから、いろいろな曲に、それぞれのエピソードがあります。

 もちろん、そんなエピソードを知らなくても音楽は楽しめる。しかし、曲が生まれた理由、あるいはちょっとしたトリビアを知ることで、理解が深まったり、「あ〜、こういう感じが当時は理解されていなかったのか……」などということがわかったりする。そうすると、より多面的な楽しみ方ができるようになりますよね。

 たとえば、ある曲に「当時はまったく聴衆に理解されず、ブーイングが飛んだ」というエピソードがあると知ったならば、「この部分がウケなかったのかな?」「今では普通に聴けちゃうけどなあ」などと思いを巡らせながら音楽を聴くこともできるわけで。

 東京国際フォーラムを中心に、毎年ゴールデンウィークに開催されるクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO(LFJ TOKYO)」(以下、LFJ)。多くのクラシックコンサートや演奏会が催され、誰でも気軽に本格的なクラシックの演奏に触れられます。

ホールA

ラ・フォル・ジュルネ TOKYOは2025年のゴールデンウィークも開催!

 本記事では、今年のLFJで演奏される曲の中から、ちょっと変わったエピソードを持つ曲を2つ紹介します。

「運命」「田園」と同じ日に初演されたのに……
ベートーヴェン「合唱幻想曲」

 ベートーヴェンの「運命」、もちろんご存知でしょう。「クラシック音楽でいちばん有名な曲は?」というランキングがあったら、わりと本気で1位になる気がします。ベートーヴェンの代表作の一つで、世界中で愛されています。

ベートーヴェン。「クラシック音楽でいちばん有名な作曲家は?」というランキングでも1位になりそう

 ちなみに「運命」とは愛称のようなもので、正式名称としては「交響曲第5番」と呼ばれています。要するにベートーヴェン自体はタイトルを付けていなくて、彼が書いた5番目の交響曲ということです。

 一方、今年のLFJで演奏されるベートーヴェンの「合唱幻想曲」はご存知でしょうか? 知っている、という人はなかなかのクラシック好きでしょう。聴いたことがある、となるともっと少ないはず。

 「合唱幻想曲」はその名の通り、合唱曲なのですが、独奏ピアノと管弦楽を含むかなり大がかりなものです。ベートーヴェンで“合唱”と聞けば、「歓喜の歌」としても知られるベートーヴェンの交響曲第9番を思い出す人も多いでしょう。実際、その曲の“習作”のように宣伝されることもあります。

合唱だけならまだしも、「合唱幻想曲」はオーケストラもピアノも必要なので演奏のハードルは高い

 この「合唱幻想曲」、実はあの「交響曲第5番」と同じ日に初演されたのです。しかも、「田園」というタイトル(こちらはベートーヴェン自身がタイトルを記しています)で知られる交響曲第6番も同じ日に初演されています。1808年12月22日のことでした。

 「そんな名曲揃いのコンサート……すごい!」と思った人も多いでしょう。この日のプログラムは、「交響曲第5番」「交響曲第6番」、さらにピアノ独奏、「ピアノ協奏曲第4番」、「ミサ曲 ハ長調」からグローリアとサンクトゥス、そして「合唱幻想曲」でした。うわっ、長い!

 とはいえ、当時は交響曲でスタートしたり、アリアが挟まったりすることは珍しくありませんでした。4時間超えのコンサートということもザラ。実のところ、チケット代はかなり高額だったそうですが、それでもお客さんの入りは上々だったと伝えられています。

 ただ、12月が劇場の繁忙期だったため、オーケストラの団員を借りることが難しかったのです。当時のコンサート評を読むと、どうも演奏の質は高くなかったよう。とくにそれが明るみに出てしまったのが、「合唱幻想曲」でした。練習不足から、途中で演奏が止まってやり直しになってしまったそうです。うーん、初演でなんという不幸。

 上でさらっと書いていますが、「12月」だったということも、このコンサートではいささか問題になりました。そう、寒かったんですね。

 暖房設備も(今の基準からすれば)十分ではない中、およそ4時間。しかも当時の水準からすれば複雑で、演奏時間も長大なベートーヴェンの楽曲。もちろん、魅力に気付いた人もいたでしょうが、純粋にその場にいるのはしんどかっただろうと思います。

 「運命」も「田園」も、音楽の授業でやるくらいに定番の名曲。それの初演は、季節的な理由で“寒〜い”事態になってしまったわけですね。そんな歴史的なコンサートで演奏されていた「合唱幻想曲」の知名度のなさも、すこし悲しい気がしますが……。

 そんな歴史を持つ「合唱幻想曲」。オーケストラ、合唱だけでなく、独唱者は6人、ピアノも必要とあって、なかなか演奏の機会には恵まれません。こういうレアな曲を鑑賞する機会があるのも、LFJならではといえるのではないでしょうか?

おすすめ!

〈ウィーンを席巻した作曲家が聴かせる豪壮なる破天荒〉

•公演番号:214
•時間:18:00~19:00 (60分)
•場所:ホールC (1,492席)
•テーマ/都市:ウィーン
•演奏曲目:
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73 「皇帝」
・ベートーヴェン:合唱幻想曲 op.80

リクエストに応えて作曲したのに……
ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」

 フランスの「印象派」の作曲家として有名なラヴェルの書いた曲に、「左手のためのピアノ協奏曲」というものがあります。この曲も、今年のLFJでコンサートがあります。

 協奏曲は独奏楽器とオーケストラが共同で演奏する楽曲で、ピアノ協奏曲はもちろんピアノが独奏楽器。しかしラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」は、ピアノ演奏者が左手だけで演奏するという、ちょっと珍しい曲です。

フランスの作曲家、モーリス・ラヴェル。編曲でもそのスキルを発揮し、「管弦楽の魔術師」とまで称された

 では、なぜそのような曲が生まれたのでしょうか。

 これは、第一次世界大戦で右手を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの依頼を受けて作曲したものです。有名なピアニストであったヴィトゲンシュタインは、右手を失うという現実にめげることなく、さまざまな曲を左手用に編曲。さらに、多くの作曲家に自分のための曲を書いてくれるように依頼しました。その中の1人がラヴェルだったということです。

 しかも、ラヴェルはそのとき構想中だった「ピアノ協奏曲 ト長調」と並行して作曲したわけですから、同時期に「両手用と片手用のピアノ協奏曲を書いていた」わけで、ものすごい頭の回転ですね。

一度に同じジャンルの曲を同時進行で作曲するのは、効率が良いのか悪いのか。天才の考えることはむずかしい

 ただ、この曲も初演の際にトラブルがありました。1931年11月27日、ウィーンでの初演の際、ヴィトゲンシュタインは楽譜通りに演奏できず、独自のアレンジを加えて演奏してしまいました。その上でピアノパートが「技巧的すぎる」と批判までしたことから、ラヴェルとヴィトゲンシュタインの関係は悪化してしまったそうです。

 ちなみに、ロシアの作曲家、プロコフィエフもヴィトゲンシュタインのために「ピアノ協奏曲第4番」を作曲しましたが、こちらは演奏自体が断られてしまったとか。

 ヴィトゲンシュタインがずいぶんワガママな人に思えますが(そうだった可能性もあるものの)、彼は作曲してもらった作品にある程度の改訂を望んだことが珍しくなかったそう。現場でピアノを弾く「演奏者」としての視線で、楽譜を見たときに何かしら気付くものもあったのかもしれません。

 なお、ヴィトゲンシュタインは後に別のピアニストが「左手のためのピアノ協奏曲」を演奏したのを聴いて、曲の魅力に気付き、自分の非を認めたそうな……。

 現在では、「左手のみでピアノを弾く、しかも音楽的にも完成度の高いピアノ協奏曲」ということで、片手を故障してしまった、あるいは片手で演奏するピアニストにとっての重要なレパートリーとなっています。もちろん、両手が使える奏者が演奏することも珍しくありません。

おすすめ!

〈パリに生まれた精妙な幻想世界〉

•公演番号: 312
•時間: 12:30~13:40 (70分)
•場所: ホールC(1,492席)
•テーマ/都市: パリ
•演奏曲目:
・ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
・ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調


 

 さて、これらのエピソードは、あくまでも“エピソード”でしかありません。よくあるじゃないですか、「この曲を作ったとき、演奏家は不幸のどん底にあって……」みたいなやつ。でも、そのエピソードがあるから、イコール良い曲になるわけではない。その曲自体がパワーを持っているから、良い曲になるわけで……。

 一方で、曲についてのエピソードを知ることは、その曲に対しての理解を深めることにつながります。曲の生まれた時代や、作曲していたときの演奏家の状況などを知ることができる。そして、それを人と話すことでコミュニケーションも生まれる(こともあります。たぶん)。それがクラシック音楽に対する親しみを持つきっかけにもなるでしょう。

 今年のLFJは、2025年5月3日(土・祝)から5月5日(月・祝)の3日間の開催。東京国際フォーラムを中心に、大手町・丸の内・有楽町、そして東京駅、京橋、銀座、八重洲、日比谷、みなとみらいで開催されます。

 LFJに行かれる際は、自分が行く予定のコンサートの曲についてぜひ調べてみてください。あるいは、コンサート選びに迷ったときは、候補のコンサートで演奏される曲についてのエピソードを調べてみるのもいいかも。そうすると、より深い理解が得られるかもしれませんよ。


ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2025
開催日:2025年5月3日(土・祝)・4日(日・祝)・5日(月・祝)
会場:東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町、東京駅、京橋、銀座、八重洲、日比谷、みなとみらい


文 / モーダル小嶋(ASCII編集部)

1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。クラシック音楽も好き。お気に入りの作曲家はブラームスとラヴェル。


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