急速に拡大する市場規模
日本国内のプラントベースフード市場は、2020年の265億円から2025年には730億円規模へと約2.7倍に拡大すると予測されています。また、世界市場も2023年の503億ドルから2028年には959億ドルへと成長する見込みです。特に植物由来の代替肉市場は、2025年から2032年まで年平均12.3%という驚異的な成長率が予想されていることからも、注目度の高さが伺えます。
このような市場拡大の背景には、健康志向の高まりや環境問題への関心、そして肉消費の代替品を求める消費者意識の変化があります。日本においても、大手食品メーカーがプラントベースブランドを展開し、コンビニやカフェチェーンでも販売されるようになるなど、徐々に市民権を得てきていると言えるでしょう。
科学的に証明された健康効果
シドニー大学の研究によると、豆腐や納豆などの大豆食品、豆類、ナッツ類、全粒穀物などから植物性タンパク質を多く摂取している人々は、平均寿命が長いことが示されています。特に日本の沖縄、ギリシャのイカリア島、カリフォルニア州のロマリンダなど、長寿者が多い地域では、植物性タンパク質の多い食事が寿命の延伸に貢献していることが示唆されています。
植物由来の食品は動物性食品と比較して低カロリー、低脂質でコレステロールも少なく、食物繊維やビタミンが豊富。また、野菜や大豆製品を多く摂取する食生活は、生活習慣病の予防にも効果があるとされています。
環境問題への具体的な貢献
プラントベースフードが注目される大きな理由の一つに、「環境負荷の低減」が挙げられます。牛肉1kgを生産するためにはトウモロコシ11kgが必要であり、さらに膨大な量の水資源も使用されると言われています。実際に、1kgの牛肉を作るためには約2万倍もの水が必要に。
いっぽう、植物由来の大豆ミートなどは、牛肉の生産時に比べて二酸化炭素排出量が大幅に少なく、水や土地の使用効率も良いとされています。このような環境への配慮は、SDGsが目指す「持続可能な社会」の形成にも貢献していると言えるでしょう。
食糧危機への備え
国連の調査によると、現在約77億人の世界人口は、2050年には97億人にまで増加するとの予測が。この人口増加に伴い、特にタンパク質をはじめとした食料不足が懸念されています。
肉や魚は有限な資源で供給量に限界があるいっぽう、植物性タンパク質への移行は、世界的なタンパク質不足を回避する一つの解決策として期待されています。特に日本においては、植物肉、細胞培養肉、発酵由来タンパク質の市場規模は2025年に3,000億円規模に到達すると見込まれています。
多様性を受け入れる食文化の形成
プラントベースフードは、宗教上・健康上の理由で食事が制限されている人々にとっても重要な選択肢。ヒンドゥー教では牛肉を、イスラム教では豚肉を食べないなど、食の制約がある人々に対して、プラントベースフードは安心して食事を楽しめる環境を提供します。
また、完全に動物性食品を避けるヴィーガンやベジタリアンだけでなく、柔軟な菜食主義「フレキシタリアン」という選択肢も増えています。これにより、無理なく自分のペースでプラントベースフードを取り入れられるようになってきました。
2025年、プラントベースフードを始める理由は、個人の健康から地球環境、そして社会課題の解決まで多岐にわたります。日本の伝統的な食文化である豆腐や味噌などのノウハウを活かしながら、新しい食の選択肢として取り入れてみてはいかがでしょうか。
プラントベースフードの基本と他の食スタイルとの違い
“プラントベースの食事とは、ビタミンやミネラル、食物繊維、抗酸化物質、ヘルシーな脂質などを豊富に含む植物性食品を中心に食べることです” — 栄養士, Women’s Health Magazine Japan 掲載の栄養士
プラントベースとヴィーガン・ベジタリアンの違い
プラントベースフードとは、植物由来の原材料を用いた食品を指します。「プラント(植物)」と「ベース(由来)」を組み合わせた言葉で、植物性食品を積極的に取り入れるライフスタイルを表すこともあります。
これに対し、「ベジタリアン」は動物由来の食物の摂取に一部制限をかけた食生活を送る人々。肉類・魚類を食べない人が一般的ですが、乳製品や卵については食べる「ラクト・オボ・ベジタリアン」、乳製品のみを食べる「ラクト・ベジタリアン」など、様々なスタイルがあります。
また、「ヴィーガン」は動物由来の食物を一切摂取しない完全菜食主義者です。食品だけでなく、革製品などの動物由来商品も使用しない人もいます。
もっとも大きな違いは、ベジタリアンやヴィーガンが動物性食品の摂生を「制限」する食の選択であるのに対し、プラントベースは植物由来の食品を日々の食の選択肢として積極的に取り入れる「自由度」にあるとされています。
フレキシタリアンという選択肢
近年注目されている「フレキシタリアン」は、「フレキシブル+ベジタリアン」の造語で、柔軟な菜食主義者を意味します。基本的に植物性食品中心の食生活を送りながら、時々肉や魚、乳製品を摂取するという柔軟性を持っているのが特徴です。
フレキシタリアンの実践方法はさまざま:
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平日のみ植物性食品を中心とし、週末は動物性食品も食べる
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自宅では完全植物性の食事、外食時は柔軟に対応
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週に1日だけ肉を食べない「ミートフリーマンデー」を実践する
2021年の調査によると、日本国内でも約34%の人がフレキシタリアン的な食生活を選択しているとされています。これは2019年と比較して約2倍に増加した数字です。
自由度の高い食生活としての魅力
プラントベースフードの最大の魅力は、無理なく自分のペースで始められる点にあります。あるアメリカの調査では、代替肉購入者の98%が通常の畜産物も購入しているというデータもあり、特定の食品を完全に排除するのではなく、選択肢を増やす食生活として受け入れられています。
健康志向や環境保護への意識が高まるなか、いきなりヴィーガンになるのはハードルが高いもの。しかし、プラントベースフードなら自分の食生活や嗜好を大きく変えることなく、できる範囲から取り入れられます。この「気軽さ」が多くの人に支持される理由の一つなのかもしれません。
無理のない範囲で植物由来食品を増やすことで、ストレスなく継続できる食生活を目指せるでしょう。プラントベースフードは、健康的な食生活を目指す人、環境問題やSDGsに興味がある人にとって、柔軟に導入できる選択肢として魅力があります。
初心者が選びやすいプラントベース食品の種類
プラントベースフードを始めたいけれど、何から試せばいいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。ここでは初心者でも取り入れやすい植物性食品をご紹。最近では様々な代替食品が開発され、スーパーやコンビニでも手に入りやすくなっていますよ。
代替肉(大豆ミート・ピープロテイン)
代替肉とは、お肉の代わりとなる植物由来の食品のこと。もっとも認知度が高いのは大豆ミートで、大豆を高圧加熱・高温乾燥させて肉の食感や味わいに近づけた食品です。ハンバーグや唐揚げなど様々な商品が市販されています。
また、ピープロテインはえんどう豆を原料としたタンパク質で、繊維構造を動物性タンパク質に近づける技術で肉の風味や食感を再現しています。大豆ミートに次ぐ認知度があり、粉末やシリアルバーなどの形で販売されています。
植物性ミルク(アーモンド・オーツなど)
植物性ミルクは、牛乳の代わりに植物から作られた飲みもの。日本で特に人気が高いのは以下の3種類です。
豆乳(ソイミルク):大豆から作られる植物性ミルクの代表格で、タンパク質含有量が牛乳とほぼ同等です。カルシウムや鉄分も豊富に含まれています。
アーモンドミルク:アーモンドを原料にした植物性ミルクで、低カロリー・低脂質が特徴です。ビタミンEが豊富で抗酸化作用があるとされています。
オーツミルク:オーツ麦から作られる植物性ミルクで、食物繊維が豊富です。クセのない甘みととろりとしたテクスチャーが特徴で、牛乳に近いカルシウム量を含んでいます。
代替チーズ・バター・卵
動物性食品を使わない代替品も充実してきています。代替チーズはココナッツオイルにソラマメの成分を加えるなど、様々な方法で本物のチーズの食感を再現。カゴメや六甲バター、雪印メグミルクなど大手食品メーカーも参入し、味わいを競っています。
代替バターは、豆を発酵させて作るなど、天然素材を使用した製品が登場しています。飽和脂肪酸の含有量を抑えつつ、従来のバターの味や伸びを再現しています。
代替卵もキユーピーが「ほぼたま」という商品を開発しました。大豆を原料に、マヨネーズ作りの技術を生かして半熟卵のような見た目と食感を実現しています。
スイーツやスナック類
プラントベースのスイーツやスナックも増えています。ヴィーガンアイスはココナッツや米粉を使ったものが人気。また、焼き菓子では小麦粉の代わりに米粉やアーモンドを使用したグルテンフリー商品や、プラントベースクッキーなども登場しています。
牛乳や卵を使わなくても、アーモンドミルクやココナッツオイルなどを活用することで、濃厚な味わいのスイーツを楽しむことができます。最近では見た目も味も普通のスイーツと変わらない商品が増えてきており、罪悪感なく食べられることも魅力の一つとされています。
プラントベースのメリットとデメリットを知る
プラントベースフードを食生活に取り入れる前に、そのメリットとデメリットを理解しておくことが大切。これから始める方にとって、メリットを活かしつつデメリットにどう対処するかを知ることで、より満足のいく食生活を送ることができるでしょう。
健康面でのメリット
プラントベースフードの健康効果は、科学的にも確認されています。最近の研究では、健康的なプラントベース食を多く摂取する人は、そうでない人と比べて全死因死亡リスクが16%低下するとされています。また、心筋梗塞のリスクが14%、虚血性脳卒中のリスクが16%低減するという結果も。
これは植物性食品に含まれる食物繊維やポリフェノール、良質な脂質がコレステロールを下げ、血圧を正常化するためと考えられています。さらに、プラントベース食は血糖値管理にも効果があり、2型糖尿病の予防にも役立つとされています。
環境への貢献
プラントベースフードは環境保護にも大きく貢献します。畜産業は温室効果ガスの主要な排出源であり、全体の約14.5%を占めるといわれています。特に牛のゲップや排泄物から出るメタンガスは、二酸化炭素の25倍もの温室効果があるとされています。
また、水資源の節約という点でも効果的。牛肉1kgの生産には約2万600リットルの水が必要ですが、大豆1kgなら2,500リットルで済みます。さらに、森林破壊の防止にも貢献。世界の農地の約33%が家畜の飼料栽培に使用されているためです。
動物福祉への配慮
動物福祉の観点からもプラントベースフードは注目されています。世界中の畜産業では、動物たちが狭い空間で過ごし、自然な行動が制限される環境で飼育されることがあります。プラントベースフードを選ぶことで、間接的にこうした問題の改善に貢献できるという点にも着目する必要がありそうです。
栄養不足のリスクと対策
いっぽうで、プラントベース食には栄養バランスの偏りというデメリットも。特に注意すべきは以下の栄養素です:
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ビタミンB12:植物性食品にはほとんど含まれていないため、強化食品やサプリメントでの補給が推奨されます。
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鉄分:植物由来の鉄(非ヘム鉄)は吸収率が低いですが、ビタミンCと一緒に摂ることで改善できます。
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オメガ3脂肪酸:亜麻仁油やチアシード、ヘンプシードなどから摂取可能。
味や価格の課題
消費者調査によると、プラントベースフード普及における課題として、「味の改良」「価格が高い」という点が挙げられています。米国では植物性代替肉は動物の肉と比べて平均77%も高価で、鶏肉などの低価格な肉と比較すると150%以上も高いという現状が。
また、消費者の多くがプラントベースフードに「物足りなさ」を感じており、食べ応えのある製品開発が求められています。ただし、製品の品質は年々向上しており、「第4世代」といわれる最新の代替肉製品では、より肉に近い食感と味わいが実現されつつあります。
日常に取り入れるための実践アイデア
プラントベースフードは特別なものではなく、毎日の食事に無理なく取り入れられるもの。ここでは具体的に日常生活で実践できるアイデアをご紹介。
コンビニやスーパーで買える商品
2025年現在、コンビニやスーパーでもプラントベース商品が豊富に揃うようになりました。ナチュラルローソンでは「焼肉風弁当」や「島豆腐とねばねばサラダ」などのプラントベース商品が販売されています。セブンイレブンの「みらいデリ」シリーズでは、植物性たんぱくを使用した「チキン&チリ」や「ナゲット」が人気です。
スーパーではカゴメの「プラントベースシリーズ」が温めるだけで手軽に楽しめるほか、大豆ミートを使った「NEXT牛丼」なども登場。甘いものが好きな方には、ハーゲンダッツの豆乳ベースアイス「グリーンクラフト」もおすすめです。
外食での選び方
外食でも工夫次第でプラントベース食を楽しめます。居酒屋なら枝豆、冷奴、胡麻豆腐、野菜サラダなどがあります。イタリアン料理店はトマト系のパスタやピザにお肉が使われていないメニューが多く、お願いすれば該当食材を抜いて作ってくれることも。インド料理店ではベジタブルカレーやダールカレー(豆のカレー)、中東料理店ではフムスやファラフェルなどの豆料理がおすすめ。
外食時にはお店選びの主導権を握り、自分がプラントベースを選択していることを事前に伝えておくとスムーズです。
家庭での簡単レシピ
家庭でも身近な食材でプラントベース料理が作れます。
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朝食:オートミールに果物やナッツをトッピング、アボカドトースト
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昼食:トマトパスタ、季節野菜のサラダボウル、野菜たっぷりカレー
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夕食:ロースト野菜、野菜たっぷりトルティーヤ、大豆ミートの唐揚げ
代替食材の活用も簡単。お肉→大豆ミート、牛乳→豆乳やアーモンドミルク、バター→ココナッツオイルなど、好みに合わせて試してみてください。
子どもや家族と一緒に楽しむ工夫
子どもにプラントベースを親しんでもらうには、野菜たっぷりのカラフルなスムージー、果物を使ったデザート、好きな料理に野菜を忍ばせる工夫が効果的。また、一緒に料理を作ったり、野菜を選びに行くなど体験型の食育も大切です。
「〇〇くんが作った△△です」などと発表形式にすると子どもの食事への関心が高まります。親自身が健康的な食事を楽しむ姿を見せることも重要。心配されがちなタンパク質も、お豆類やナッツ類から十分摂取できるので安心です。
プラントベースフードの未来と社会的インパクト
プラントベースフードは単なる食のトレンドを超え、社会変革の担い手としても注目されています。環境保全や動物福祉に加え、企業戦略や消費者行動の変化にも大きく影響し始めていることから、その将来性に期待が高まっています。
市場規模の拡大と企業の参入
世界のプラントベースフード市場は急速に拡大しており、2022年には前年比6.5%増の3兆1,372億円に達しました。カテゴリー別では、プラントベースミルクが市場全体の約半分(1兆5,884億円)を占め、次いでプラントベースミートが6,681億円となっています。
日本市場も着実に成長しており、2020年度の市場規模は246億円と前年度から38%増加し、2010年と比較すると約5倍にまで拡大。さらに2021年度には約340億円となり、2025年度には730億円規模に達すると予測されています。
注目すべきは、大手食品メーカーや小売店の参入が相次いでいること。以前は数社のベンチャー企業が中心でしたが、現在ではキユーピーやカゴメなどの大手企業もプラントベースブランドを展開しています。このように、かつては特定層向けの商品だったプラントベースフードが、今では一般消費者向けの市場として定着しつつあるのです。
エシカル消費との関係
プラントベースフードの需要拡大には、「エシカル消費」への関心の高まりが深く関係しています。調査によると、プラントベースフードを始める理由は健康上の理由が多いものの、継続する理由として「世界の飢餓や貧困の解決」に目を向けている人たちがいることも見過ごせません。
とりわけ、Z世代やミレニアル世代は社会課題を「自分ごと」として捉え、エシカル消費に関心を持つ傾向が強いとされています。実際に、若年層をターゲットとした企業の戦略的な動きも見られ、環境への意識の高まりを背景に商品開発が進んでいます。
自分らしいスタイルで始めるプラントベース生活
プラントベースフードへの関心が高まるなか、実際に始めるとなると「どのように取り入れればいいのか」と悩む方も多いでしょう。しかし、プラントベースは動物性のものを完全に排除するわけではなく、自分で決めた頻度やルールの中で植物由来の食品を取り入れることができる柔軟な食スタイル。
プラントベースフードを取り入れる最大のポイントは、無理をしないこと。いきなりすべての食事を変えようとすると、ストレスから続かなくなる可能性があります。まずは自分がどのペースで進めたいかを考えてみましょう。
具体的な取り入れ方としては、以下のような方法があります:
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1日1食だけプラントベース:朝食やおやつをプラントベースフードに切り替えるところから始めるのも良い方法です。
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週1回のプラントベースデー:「ミートレス・マンデー」のように、週に1日だけ肉を食べない日を設けるのもおすすめです。
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5日間のリセット期間:胃腸が疲れたと感じたときに、短期間のプラントベース食でリセットする方法も効果的。
プラントベースを取り入れる際は、自分の好みや生活スタイルも大切にしましょう。「これならできる!」と思える方法を見つけることが長続きの秘訣です。また、あまり真面目に固執しすぎると、友人との食事の時間を楽しめなくなるというデメリットも。
栄養バランスについては、特にビタミンB12は植物性食品から摂取することが難しいため、サプリメントで補うことを検討してもよいでしょう。ただし、完全にプラントベースにこだわらず、卵や乳製品も少量取り入れる選択肢もあります。
最終的には、「諦める」のではなく「新たに取り入れる」という前向きな姿勢が大切です。自分のライフスタイルに合った形で、プラントベースの食生活を楽しみながら続けていきましょう。
🧠 編集部の感想:
プラントベースフードの関心が高まる中、健康や環境への影響が大きいと感じます。簡単に取り入れられる方法が広がることで、より多くの人が実践しやすくなるのは良い変化ですね。各個人が自分のペースで選べる食文化が形成されることを期待しています。
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