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概要
この記事では、PtoC(Person to Consumer)モデルについて、その特性と可能性、成功の阻害要因、ブランド拡張戦略、実務的な教訓を考察しています。特に、初期の成功に依存するとブランドの持続可能性が脅かされる可能性があり、一般市場へ移行する際の戦略が重要であることが強調されています。
要約(箇条書き)
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PtoCモデルの特性:
- 個人の影響力を活用し、SNSを通じて消費者との信頼関係を築く。
- 初期の売上は得られやすいが、一般市場には壁がある。
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初速の売上とそのリスク:
- 初期の成功はブランドの持続可能性を保証しない。
- 過信や過剰投資により、在庫問題やブランド陳腐化が発生する可能性。
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ブランド拡張戦略:
- ブランドの選ばれる理由を明確にする必要。
- ブランドパーパス設計: ブランドの価値を明確にし、社会的意義を持たせる。
- アトリビュートの再設計: 消費者が共感できる価値にシフトする必要。
- FMOTの獲得: 初めての接触点を重視し、オフラインでの拡張を計画。
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実務からの教訓:
- ECから一般市場への拡張時に、作成者の影響力だけでは価値を伝えられない。
- 初速データに基づいた需給バランスの最適化が重要。
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実務的なアクション:
- パーパス再定義のワークショップ。
- ターゲットの再設定及びSTPの再構築。
- チャネル別FMOT設計と在庫計画の最適化。
- インフルエンサーとの関係性の再構築。
- 将来の展望:
- 短期的な販売手法と長期的なブランド設計を融合させることが成功の鍵。
PtoC(Person to Consumer)モデルは、個人の影響力を活用して商品やブランドを立ち上げる新しいビジネスの形として注目されている。初速の売上は見込めるが、ファン以外の市場に広がる際、思わぬ壁に直面することも少なくない。ブランドとしての“選ばれる理由”が曖昧なままでは、成長も持続性も担保されない。今回は、実務の現場でPtoCブランドを伴走した経験から、一般市場で選ばれるためのブランド移行戦略を考察する。
■ PtoCモデルの特性と可能性
PtoCは、個人が主語となってブランドを構築するモデルであり、その最大の強みは“人”と“ファン”の間に築かれた信頼関係にある。SNSを軸にして共感を集めながら、ECを中心に商品を販売する構造は、近年の消費トレンドに合致している。
このモデルの魅力は何よりもスピードだ。既存の流通網やブランド資産を必要とせず、コンテンツと個人の発信力だけで売上が生まれる。その意味では、D2Cよりも“密度の高い関係性”を前提にしているとも言える。
特に、SNSを中心とした生活者との「ダイレクトな距離感」は、消費の意思決定において大きな影響を持つ。アルゴリズムに乗った一つの投稿が、数万人規模の消費者の購買行動を瞬時に変えることができる──この即効性は、旧来の広告・販促手法では生み出せないものだ。
しかし、この“爆発力”こそが、実は長期的な成長の足かせになることもある。そこに目を向けずに規模拡大を進めると、ブランドとしての整合性が崩れ、再現性のないモデルになってしまう。
事例①:P2C Studio事例より https://hikakinpremium.jp/
■ 成功と錯覚──初速の売上に潜む落とし穴
PtoCは、立ち上げ初期においては熱量と話題性によって爆発的な売上を記録しやすい。インフルエンサー自身の信頼性や投稿がトリガーとなり、「限定」「本人使用」「本人監修」といった言語が購買を加速させる。
しかし、そこでの成功は必ずしも“ブランド”としての成功とは言えない。むしろ、初期の爆発力に引っ張られすぎると、事業全体の設計が歪む危険性がある。たとえば、SNS上での反響を過信し、過剰な在庫投資を行ってしまったことで、需要の鈍化後に在庫が積み上がり、BSを圧迫したケースもあった。ブランドとしての持続可能性や成長性を考えるなら、初速の売上=永続的な支持という幻想から脱却する必要がある。
さらに見落とされがちなのが、初速の成功体験が“再現可能”と錯覚してしまうことである。似たような投稿、似たような商品、似たような訴求を繰り返していく中で、ファンも生活者も飽和し、ブランドの魅力が急速に陳腐化していく。
事例②:錦戸亮と赤西仁それぞれがプロデュースしたフレグランス『SCENT OF (セントオブノート)』『SCENT OF ETERNAL(セントオブエターナル)』
■ ファン消費から一般消費者への拡張戦略
ブランドが次のステージに進むには、「誰が作ったか」ではなく「なぜ選ばれるのか」という構造を戦略的に設計しなければならない。その鍵となるのが以下の3つの視点である。
(1) ブランドパーパス設計の再定義
PtoCモデルでは、“人”がブランドの中心に据えられているからこそ、なぜこの商品を出すのかという問いに答えられる言語が重要になる。「この人が出すから買う」から「このブランドが届けたい価値だから選ぶ」へ──その橋渡しがブランドパーパスだ。個人の信念や哲学を、生活者の“解決すべき不”と結びつけ、社会的意味に昇華させる必要がある。
ここでは「ブランドが語れる言葉の量と質」が問われる。共感に頼るのではなく、機能・情緒・文脈の三位一体で意味を設計する。この設計こそが、PtoCを一過性ではなく長期資産に転化する鍵になる。
(2) アトリビュートの再設計
PtoCは、立ち上げ時においてはインフルエンサー自身のキャラクターや投稿文脈がブランドの主要アトリビュートになる。しかし、これらが一般消費者にとって購買理由になるとは限らない。よって、立ち上げ時に設定したアトリビュートが、そのまま拡張可能かどうかを見極め、必要に応じて修正しCEPを定義する必要性がある。
具体的には「かわいい」「本人が使っている」などの情緒的要素から、「信頼できる」「効果がある」「安心できる」といった一般層に通用する価値に転換していく。そのためには、コミュニケーション設計だけでなく、プロダクト仕様そのものの見直しも求められる。
(3) FMOTの獲得とチャネルの拡張の再設計の検討
FMOT(First Moment of Truth)──消費者が商品に初めて接触し、購入を決める瞬間──は、PtoCの拡張フェーズで特に重要となる。オンラインではSNSやレビューがその接点になるZMOT(Zero Moment of Truth)が有効で、一般市場への拡張にはオフラインチャネル、特にリアル店舗での接点設計が有効になる。体験を通じてFMOTを確保することは、ブランドへの信頼と選択の確率を高める。
チャネル設計においては、「どう売るか」だけでなく「どこで、誰が見て、どう感じるか」という一連のストーリーを描く必要がある。売場体験、店頭什器、スタッフコミュニケーション──そのすべてがブランド価値と一致していなければ、意図通りに想起されることはない。
■ 実務現場でのジレンマと教訓
私が支援したPtoCプロジェクトの中でも、ECでの好調な売上を基に、バラエティショップやドラッグストアへの展開を図った事例がある。当初は「SNSで話題」というセリングポイントが流通にも響き、導入はスムーズだった。
しかし、一般消費者にとって「誰が作ったか」はさほど強い動機にはならず、商品の本質的な価値が明確でなければ、購入には至らない。結果として、インフルエンサー文脈での認知と、生活者文脈での価値訴求には大きなギャップがあることが明らかになった。
また、在庫計画においても、初期の売上トレンドを過信して製造を拡大した結果、セールによる在庫圧縮を余儀なくされ、ブランド毀損を引き起こすリスクにも直面した。ここで得た教訓は、「売れた」ではなく「なぜ選ばれたか」を定量と定性の両軸で設計する必要性である。
“人起点のブランド”は、その人が語る物語によって力を持つ。しかし、それだけに依存した設計は、スケールや継続性のフェーズで限界を迎える。「想起されるべきは“人”ではなく“価値”である。」この視点を持つことが、PtoCからブランドへの移行の起点となる。
■ 明日からできる実務的アクション
PtoCをブランドへと昇華させるために、マーケティング実務者やブランド責任者が取り組むべきアクションを最後に整理しておきたい。
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パーパスを再定義するワークショップを組む:個人起点の哲学を社会課題や顧客インサイトと接続させる
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ターゲットの再設定とSTPの再構築:ファンから、ペルソナを広げて、仮説検証を行う
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チャネル別FMOT設計:オンラインだけでなく、オフラインのPOP・棚割り・体験訴求の設計
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初速データに基づく需給バランスの最適化:売上ではなく在庫回転率ベースでの次回生産設計
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ブランドアトリビュートの棚卸し:誰にとって、どの価値がどのタッチポイントで響くかを言語化する
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インフルエンサーとの関係性再構築:「誰が売るか」から「何を伝えるか」へのシフトを、本人とともに設計する
短期的には“人が売る力”を活かしつつも、長期的には“ブランドとして何者か”を語れる設計が、PtoCにおけるブランド成長の鍵である。
■ Valeur.incブランド戦略と価値づくりのパートナー
代表:安部 匡史(Masafumi Abe)
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