

米国のトランプ大統領が掲げる高率関税は発動まで猶予期間が与えられたものの、製造業界に及ぼす甚大なインパクトは先送りされたに過ぎない。トランプ関税は、米国市場への依存度が高く、米国に製造拠点を持たない企業を容赦なく襲う。ロボット・ファクトリーオートメーション(FA)の分野で世界有数の存在感を誇るファナックは、今まさに関税地獄の中にいる。関税政策は同社にサプライチェーン変革を迫るのか。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の#12では、関係者への取材でFA業界の近未来に迫る。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
生産コストが低いファナックの強みが弱点に
一方、長期的には追い風が吹くとの見方も
「状況次第で、効率を落としてでも米国での生産を検討する」。4月に開かれた2025年3月期の決算説明会で、米国のトランプ大統領が進める関税政策への受け止めを問われたファナックの山口賢治社長はこう答えた。
ファナックはファクトリーオートメーション(FA)と産業用ロボットの分野で圧倒的な存在感を誇るグローバル企業だが、生産のほとんどを国内で行ってきた。サプライチェーンの転換があり得るとも取れる発言に、同社の動向をウオッチしている関係者は驚きを禁じ得なかった。
ファナックは五里霧中をさまよっている。同社は、関税の影響がまだ見通せないことを理由に、26年3月期の業績予想は見送った。
25年3月期は何とか好調を保った。売上高が前年度から横ばいの7971億円、純利益は11%増の1476億円だった。通期為替レートは1ドル=152円で収益を押し上げた。
一方、足元は143円台と円高方向になっている。主力のFAとロボットを主に日本から輸出するファナックにとって、円高は逆風だ。為替動向は二転三転する米国の関税政策によっても変動するため、先行きは見通せない。
関税政策へのファナックの対応が注目されているのは、事業への関税のインパクトが大きいからだ。25年3月期の連結売上高に占める米国の割合は26.9%に上る。地域別では中国の23.4%を上回る最大の「ドル箱」なのだ。
さらに、生産をほぼ国内で行っていることが同社の弱点になりかねない。本社を構える山梨県のほか、栃木県、茨城県の工場で同社製品はほとんど製造しているのだ。
ファナックの工場では、自社の産業用ロボットが多数稼働している。人よりも安く、正確に作業するのがロボットの売りだ。ロボットのメーカーでありながら、ロボットの優れたユーザーでもあるため、人件費が安い海外に生産拠点を移管する必要がなかった。この効率的な製造プロセスが、同社の競争力の源泉だったのだ。
ところが、である。日本から米国への輸出を締め付けるトランプ関税の下では、この強みがそのまま弱点となってしまう。株価も関税政策が明らかになった4月上旬には急落した。
山口社長も「関税コストは吸収できるものではないので、基本的にサーチャージ的な価格転嫁をお客さまにお願いすることになる」と述べた。
ファナックのロボットは米国で、自動車や電子機器の製造ラインに使われている。コスト増は設備投資の見送りにつながると予想される。
逆に、長期的にはトランプ関税がファナックの追い風になるとの観測もある。次ページでは、関税が直撃するファナックの吉凶を詳報する。
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