若者マーケティングの領域で異彩を放つ、虹と満月と株式会社の代表である西村海都さん。元大手外資系企業というキャリアを捨て、若者マーケティングの会社を立ち上げました。
敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回は、若者マーケティングを主戦場にする西村さんに仕事術と若者に届く企画術を伺いました。
西村海斗さんの一問一答
居住地:東京都現在のコンピュータ:MacBook Pro 14インチ現在のモバイル:iPhone 13 Pro Max 256GB現在のノートとペン:無印良品の無地のノートとペン
仕事スタイルを一言でいうと:大胆に!且つ謙虚に愚直に。
若者に特化したマーケティング会社を起業
――「虹と満月と株式会社」では、どのような事業をされているのでしょうか?
主に若者マーケティングに特化した事業を行っています。若者向けの商品やサービスの企画からプロモーションまで一貫して担当することもあれば、リブランディングやSNSプロモーションだけを請け負うこともあります。
――SNS特化というよりは上流工程からも入っているんですね。
SNSでバズらせたとしても、トレンドにはなるけど文化にはなっていかない。日の目を浴びるのであれば、ずっと残っていくものを作りたいところもあって。あとは、設計の部分から入っていかないと、若者に響くようなクリエイティブにならないことも大きいです。
実際、大手の代理店の方からも、若者に響くコピーが書けないという課題も伺っています。
――具体的なプロジェクト事例はありますか?
千葉工業大学の一般入試志願者数を2万人増やして2025年度の入試志願者数日本1位にしたり、京都産業大学の志願者数をAO入試で6,000人増やしたり、狛江市のショートドラマを制作して移住促進を行ったり、2万人規模の社会課題イベント「エシカルエキスポ」を開催したりしました。
「エシカルエキスポ」では、起業のきっかけになった「社会課題をエンタメに」から派生して、社会課題のハードルを下げて若者が楽しみながら学べる場を提供しました。東京は渋谷ストリーム、大阪はグランフロント大阪で、合計2万人の若者を集めました。
起業後半年間の苦労から学んだこと
――仕事で一番楽しい瞬間はどんな時ですか?
若者が主体となって成長していく姿をプロデュースすることですかね。
たとえば、「エシカルエキスポ」では高校生が主体となって企画・運営をしてくれたのですが、最初はメールも打てなかった子が、最終的にはスポンサー営業をし、当日のディレクションまでできるようになる。そんな瞬間が一番おもしろいし、やりがいですね。
逆に、敬語が使えていなかったり、質問にうまく答えられなかったりする姿を見るとヒヤヒヤします(笑)。でも、そこをプロデュースしていくのが僕の仕事だと思っています。
――今の仕事をしてきて大変だったことはありますか?
創業当初は、本当に辛かったですね。前職の大きな看板を外した途端、誰も相手にしてくれなくなって、半年間売り上げがゼロでした。
――そんなに長い期間も!
プライドの塊だったので、プライドを捨てて、友達に助けを求めました。
それまでは、前職でもどちらかというと助けを求められる側だったので、初めて周りに助けを求めて。それで月15万円の案件をもらうことができて、なんとか生き延びました。電気とガスも止められていたので、本当にギリギリで。
余談ですが、彼女との1年記念日に電気とガスが止まって、銭湯に行ったのは今はいい思い出です(笑)。
「N=1」マーケティングの重要性
――Z世代に受ける企画の作り方について教えてください。
前提として、Z世代マーケティングはいろんな人がやっているんですけど、うまくいっているとは言えないんですよね。なぜかというと、Z世代の定義が広すぎるんです。
Z世代とは一般的に1995年から2010年頃に生まれた世代を指し、15歳から30歳くらいまでの層になります。ただ、18歳や20歳の感覚と30歳の感覚って絶対違うわけです。
そこで、僕たちがやっていることは、N =1が誰なのかをしっかりと見極めること。
――N=1マーケティングですね!
昔は、35歳あたりまでなら共通項があったんです。たとえばテレビや雑誌はこういうものを見ているとか。でも若い世代になると共通項がどんどんなくなっていくんですよ。
テレビもYouTubeもTikTokも、見ているものが全然違う。だから、N=1を誰にするのかをしっかり見極めることが大切なんです。
東京の18歳の女子高生をN=1に設定したとしても、そのバックグラウンドや価値観は多種多様です。
好きなアイドルやよく行く場所、会話で使う言葉まで深く掘り下げて、その子自身が発信者としてどれだけ影響力を持っているのかまで見極める必要があります。
ペルソナを作るのではなく、実際に存在しているペルソナを見つけにいく。つまり、本当のN=1マーケティングが重要なんです。
――仮想ではないと。
今までのN=1マーケティングは、ペルソナで実在しない人を思い浮かべてできたと思うんですけど、今の若者マーケティングは、本当に実在する人を探します。
リサーチ会社を使って、N=100を集めて平均値を出したとしても、それはもう時代に合っていないと思いますし、インフルエンサーにインタビューするのもバックグラウンドが違います。
本当に着飾っていない、渋谷の宮下パークで踊っている女子高生に喋りかけて、TikTokで何を踊っているのか、何をみているのか話を聞かないといけないわけです。
――街行く人に声をかけるのは、ハードルが高そうですね。
あとは界隈が大事です。たとえば、アイドルが好きだったとしても、どのアイドルが好きかで生きている世界が全く違います。
じゃあ、その子は界隈の中で、発信者として影響力があるのか、その子が言うなら買ってみたり、行ってみたりするのか。そうした部分まで深ぼって、N=1を突き止めていきます。
選んだ道を正解にする
――これまでもらったアドバイスで印象的なものは?
高校3年生でサッカー部のキャプテンをしていた頃、僕はサッカーが特別上手かったわけではなく、うまい後輩たちの活躍がありました。
当時は、彼らの顔色をうかがいながら意思決定していたんですけど、顧問の先生に「お前がキャプテンなんだから、全部お前が決めろ。お前がイエスと言ったらついて来させろ」と言われたんです。
この言葉が、一番印象に残っています。リーダーは自信を持って決め、正解を作りに行く。「noteをやろう」と決めたときも、社内では否定的な声が多かったけれど、自分を信じてやりきった結果、開始3カ月で今では20万ビューを超え、100年続く老舗企業や大企業からの問い合わせにつながりました。
あの時の教えが、今でも僕の大きな支えになっています。
――自分の人生に影響を与えた本を教えてください。
あまり本を読むほうではないんですが、しいて挙げるなら『1分で話せ』です。僕は関西人ということもあってつい喋りがちなのですが、リクルートのインターンに入ったときに「考え方は素晴らしいけど、理解しづらい」と言われたんです。
その時期に『1分で話せ』に出会い、要点をシンプルに伝えることを学びました。そこから提案がどんどん通るようになって、自信もつきました。TPOに応じて話し方を変える感覚はこの本から得たものです。
細部までとことんこだわる
――最後の質問ですが、自分なりの仕事の流儀・哲学を教えてください。
僕が仕事で一番大事にしているのは、「細かいところまで徹底してやる」ことです。たとえば提案資料ひとつとっても、ただ内容を詰め込むだけじゃなく、デザインも含めて美しく整える。資料のカラーコードひとつとっても妥協しません。
その提案が通るか通らないかに関係なく、サボってもわからない部分まで手を抜かず仕上げます。それは、リスペクトの気持ちから来ています。
売上ゼロの時代、たとえ1万円の仕事でも全力でやらないと次はなかった。だから、どんな小さな仕事でも、たとえその提案が通らなかったとしても、誠実に向き合うと決めています。
虹と満月と株式会社 代表取締役
1998年生まれ、大阪府出身。法政大学在学中に株式会社リクルートにて、マーケティング担当としてスタディサプリの集客や顧客満足度向上施策を実施。
そこから7年間若者マーケティングに従事しSHIBUYA QWS、MAKERS UNIVERSITYに採択された後、2023年4月20日に虹と満月と株式会社を創業。
Z世代2万人を動員した国内最大級のエシカルイベント「エシカルエキスポ」や、TikTokで100万再生を連発する企画力・マーケティング力で注目を集めています。「社会課題をエンタメにする方法」でTEDxにも登壇。
編集部の感想:
西村海斗さんの若者マーケティングに対する情熱と、”バズより文化を”という理念には共感を覚えます。彼のアプローチは、短期的な成果よりも長期的な影響を目指している点が素晴らしいです。特にN=1マーケティングへのこだわりは、今の時代に必要な深いコミュニケーションを大切にしていると感じました。
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