日曜日, 7月 20, 2025
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ホームニュースNetflixバイトが即日クビになったので会員制バーの面接を受けた話|三倉ゆん

バイトが即日クビになったので会員制バーの面接を受けた話|三倉ゆん


三倉ゆん

三倉は仕事を探していた。近所の地名と知る限り全ての飲食店小売店を検索フォームに打ち込み、8時間以上勤務できる店舗を中心にエントリーを続けた。

結果、応募店舗数20社超え内定1店舗

内定をくれた店舗は隣町の高級飲食店で、恰幅のいい店長が私を出迎えてくれた。「電話で話したときから思ってたんだよね、三倉さんはいい加減じゃない人だって」そんなこと言われたのは生まれて初めてだった。ついに、ちゃんと私を見てくれる人に出会えた。

浮かれた気持ちが表に出ないように気をつけながら笑顔で店を出ると、さっきまで降っていた雨はすっかり止んで空には虹がかかっていた。

そして迎えたアルバイト初日。これまであまたの仕事を経験してきた三倉だが、就業初日の心得は「できなくても落ち込まない、質問は必ず笑顔で」としている。

そしてやはり予想は的中。仕事が飲食ということもあり、覚えることが盛りだくさんだ。食器の置いてある場所、バイトが盛り付けるもの、盛り付けるタイミング。ホールの客の動きと次の料理を出すまでの間隔。バイトと店長の目配せと声かけを中心に店は回り、客は笑顔で店をあとにする。私はメモを片手にその流れに追いつこうとしてはつまずき、バイトの学生にフォローされ、なんとか1日目の勤務を終えた。たしかにできないことは多かったけれど、口答えは一切しなかったし、注意されたことはすぐに直すように心がけた。初日にしては上出来だったはずだ。

一緒にシフトに入っていたバイトの学生は「やることがあるので」ともう少し店に残るようだったので、私は1人帰路についた。

翌日もシフトが入っていたので再び店に向かった。入り口を入ると店長が神妙な面持ちで私を見つめていた。「昨日の様子見ててさ、やっぱり難しいと思ったんだ。ごめんね」

店長は昨日の分の給料が入った封筒を私に差し出した。私は「わかりました!」と元気よく返事をすると制服を片付け、笑顔で店をあとにした。

私は駅前のマクドナルドの前でスマホを握りしめ、30分以上立ち尽くしていた。

落ち着け、落ち着け、組織をクビになったのはこれで初めてではないはずだ。お前が仕事のできない人間であることは前からわかっていたはずだ。

私は深く深く深呼吸をすると、こういう話を笑って流してくれそうな知り合いを複数思い浮かべ、全員にバイトを即日でクビになった話を報告した。少しだけ気持ちが楽になるものの、まだ心臓の鼓動がおかしい。ひとまず寝たい、そう思った私は自宅へ向かい、速攻で布団にダイブした。

21時頃だっただろうか。目が覚めると外はすっかり暗くなり、化粧をしたまま寝た私の顔は脂でテカって到底人に見せられないものになっていた。

だが、私は知っていた。
この状態で1人でご飯を食べたらもれなく鬱コースになることに。

プレストパウダーで軽く化粧直しをすると私は近所のバーに向かった。仲の良い常連こそいないものの、誰かの笑い声が聞こえる世界で食べるご飯は、1人Netflixを観ながら食べる貧乏飯よりずっとずっと美味しかった。

今思うと、何かしらの仕事をクビになるのはこれで5回目だった。社会人になってからは会社都合で辞めることが3回ほどあったが(派遣含む)、よく考えたら人生初のバイトであるソフトクリーム作りは私の作ったソフトクリームが全廃棄になり翌日からはレジ打ちしかやらせてもらえなくなった。よく考えたらあれもクビっちゃクビなのか。今日になるまで気づかなかったや。

今回の件もよく考えると、

  • 厨房にメモを置きっぱなしにする。

  • 料理を渡されてもどこに運べばいいか一瞬でわからない。

  • 「ホール見てて」と言われてどこを注意して見ていればいいかわからない。

  • 相手の言ったことを聞き返す。

  • 動きがのろい。

  • 多分、「やることがあるから」と言った学生バイトは店長と私の仕事の出来を採点していたのだろう。

といった飲食系バイトには不向きな性質が数多く露呈してしまったように思える(最後の1個は例外)。まあ1日目なのだが…。

毒を以て毒を制す

なんだかんだ言ってバイトでできた傷はバイトでしか埋められない。なんとか適職を見つけるべく、ひとまずチャットgptに相談してみた。

一見至極真っ当なことを言っているように思える。だが、マニュアルが整備されているバイト先ほどシフトの時間が短く、「普通の」人を取りたがるので、私のようなおっちょこちょい人間はなかなか採用されない。あとあまり稼げない。

とはいえ求人自体が出ているのなら受けてみれば?という話なのだが、私はこのような状況になるとなんとしてもチャットgptを超える人間にならなければという思いが前面に出てしまう。チャットgptが提案してくる仕事以外を受けてみたいと思ってしまうのだ。

私は、30歳最後の日に会員制バーの面接を受けることを決意した。

水商売は甘くない、らしい?

なぜ私が会員制バーを受けようと思ったのか?

ライターを始めた当初、「ライターで食えなかったら水商売ですかねー」なんてことを居酒屋で漏らしたところ「あんたは水商売を舐めてる。あれは正社員なんかよりよっぽどキツイよ」と指摘されたことがあった。

まあ、どう考えても私の失言ではあったのだけれど、たしかに水商売とはどういうものかを私は全く実感として理解していなかった。

水商売のキツさとはどのようなものなのか

私は本当に水商売のことを何もわかっていないのか

自分の胸の内に渦巻いていた数々の疑問を自分の体験で解消したいという思いが「応募する」ボタンを押下するという行動に変わったのは、どう考えても飲食店バイトを即日クビになったという事実が後押ししてくれたことに他ならなかった。

私をクビにした店長が私を殺さなかったように、会員制バーを受けた程度で私の人生が終わるわけがないという確信があった。

会員制バーを受ける

求人票をみたところ、女の子はバーカウンターが定位置で、お客さんの横に座ることはないらしいし、「会員制」のバーなので客層も良さそうだ。なんなら私服勤務可能と書いてあるし、OLさんも勤めているというのだから、きっと働きやすい環境に違いないと考えていた。サイトにはガールズバー風のカジュアルな雰囲気の写真が掲載されており、なじみやすそうな印象を受けた。当たり前だが、勤務時間も夜中なのでライター業への支障もなさそうだ。求人票をみた時点では、少なくとも「あれ?水商売って意外と悪くないかも??」なんて思っていた。

面接当日、飲み屋街の雑踏を掻き分け、会員制バーのあるビルにたどり着いた。当たり前だが、キャバクラだけが集結したビルだった

店舗に足を踏み入れると、何かがおかしいことに気づいた。

「私服可」のはずの店舗にも関わらず出迎えてくれた女性は短めのパンツドレスを身にまとっていて、毛穴が全く見当たらないほどの厚化粧をしていた。

女性は、私をクビにした飲食店のベテラン学生バイトよろしくのキビキビした動きでグラスを磨き上げ、同時にコースターを一直線に並べていく。

白を基調とした清潔感のある内装に明るすぎるほどの数々の照明、カウンターはガラスケースでできていて、ケースの中には天然石が鎮座している。

あれ、これってキャバクラじゃね?

女性は私の前のイスに腰掛け、ウェーブのかかった長い髪をたくし上げる。面接が中盤に差し掛かると、彼女は私の瞳をまっすぐ見つめこう尋ねた。

「今、彼氏はいますか?」

清々しいまでの「今、彼氏はいますか?」を食らった。これまでにも職場で「彼氏いるの?」「付き合っている人は?」と初見で尋ねてくる人は何人もいたが、「え?なんでそんなことあいさつみたいな感じで聞けるの??普通に考えて失礼じゃない??」と思いながら「秘密です!」で押し通してきた。

「彼氏いますか?」の意味を真剣に考察してみる

だが、今回の「今、彼氏いますか?」は真剣に、誠実に答えなければいけない質問であることが瞬時にわかった。

以下は、水商売偏差値マイナス100の三倉が妄想に妄想を重ねた「今、彼氏いますか?」への答え方の違いによる面接官が受ける印象をまとめたものである。(何度も言うがただの妄想なので間違えていたら丁寧にコメントで指摘してもらえると泣くほど喜びます)

まず「いない」と答えた場合。
まあ実際三倉には相手がいなかったので素直にこっちで答えた。だが、店としては彼氏いない人だと客と色恋沙汰になったら面倒そうとか扱いづらいとか思われそう。でも、お客さんからは彼氏いないほうが人気出そうなので結局は店員の性格次第、なのか。

一方「いる」と答えた場合。
「いない」とは逆にお客さんといい感じの距離感で付き合って売上を上げてくれそう。あんまり取るデメリットはなさそうだ(実際のところはわからない)。

で、三倉が「いる」と嘘をついた場合どうなるか。まず前提として、三倉には彼氏がいたことがない。ので、お客さんに「彼氏いるの!?写真見せて〜」の対策としてエア彼氏を作る必要がある。これに関しては、昨今のAIの発展によりエア彼氏とのツーショットと彼氏の履歴書を作成し、スマホと頭にデータを叩き込むことが必要だ。AIは色恋沙汰ですら凌駕できる。嘘をついたパターンの三倉に敵はいない。

さらに質問は続く

「今、彼氏いますか?」のあとも水商売あるあるの用語が飛び交う質問が続く。「同伴出勤」「アフター」「棚にあるお酒全部わかりますか?」

100%ただのキャバクラだった。

女性とはLINEを交換し、合格の場合のみ連絡するとだけ伝えられた。

あの女性、「なんであんな奴が水商売受けに来たんだよ」って思ったんだろうな。

私もなんで受けに来たんだろうって思ってた。

私の行動の価値

正直、私はキャバクラ自体をやったことがないので適性があるかどうかは全くわからない。ただ、お酒は弱いし、とろくて機転も利かない方だし飲食店バイト1日でクビになるくらいだから多分あまりやらない方がいいんだろうな、とは思った。

だが、お客さんに合わせたトーク力、飲みニュケーション、テキパキとした配膳、同伴出勤をはじめとした営業活動。昼の仕事では分割した仕事として存在している数々が、キャバクラという仕事に集約してることがわかったことは私にとって大きな収穫だったように思う。だから正社員よりも難しい仕事なのだ。

「あんた、なんでも頭で考えがちよねー」
ふと、昔立ち寄った居酒屋で言われたことが頭に浮かぶ。

「ちゃんと行動して考えたよ」

今ならはっきりとそう言える気がする。

三倉ゆん

フリーライターです。業界紙での執筆経験あり。お問い合わせは[email protected] まで



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