今週は米国株が大幅な上昇を見せ、投資家のリセッション(景気後退)懸念も後退した。しかし、為替市場では依然としてドルに対する弱気な見方が根強い。
JPモルガン・チェースやドイツ銀行のストラテジストは、ドルは今後も下落基調が続くと指摘する。オプション市場の投資家心理は過去5年で最も弱気となっており、ドル指数は4月に付けた安値付近にとどまっている。米中貿易摩擦がひとまず緩和して他の市場が持ち直す中でも、投資家はドル回帰に慎重な姿勢を崩していない。
ドルは主要通貨に対して年初来で約6%下落するなど、値動きの荒さが目立っている。トランプ政権の政策運営が一貫性を欠き、先行きに不透明感があることが、ドルの魅力を弱めている。米当局者は否定するものの、米製造業の競争力強化を重視するトランプ政権が、ドル安を事実上容認しているとの見方も一部にある。
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ゴールドマンのトリベディ氏がドルの見通しについて語る
Source: Bloomberg
ゴールドマン・サックス・グループのグローバル外為・金利・新興市場戦略責任者、カマクシャ・トリベディ氏は「米国例外主義は徐々に後退しつつあり、この流れにはなお継続余地がある」とブルームバーグTVとのインタビューで述べた。
クレディ・アグリコルCIBのG10為替調査・戦略責任者、バレンティン・マリノフ氏は「米国資産売り」の勢いはやや弱まった可能性があるが、市場にはなお不安がくすぶっていると指摘。投資家はドルに対して「愛憎入り混じった」関係にあると分析する。
オプション市場では、今後1年間でのドル下落を見込んだポジションが2020年以来の高水準に達している。こうした長期のオプション取引は、短期筋よりもマネーマネジャーによる活用が多く、ドル資産の保有見直しが幅広い層に広がっていることをうかがわせる。

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一方、株式市場は今週、トランプ大統領の中東歴訪を通じたハイテク分野での取引拡大への期待や、インフレ指標の落ち着きを好感して堅調に推移。バンク・オブ・アメリカ(BofA)がEPFRグローバルのデータを引用してまとめたリポートによると、5月14日までの1週間で米株ファンドには198億ドル(約2兆9000億円)の資金が流入し、5週間ぶりの純流入となった。
米株に対するドルの出遅れについて、ユニオン・バンケール・プリベの為替戦略グローバル責任者ピーター・キンセラ氏は「トランプ氏が掲げる『米国例外主義』を世界の投資家が受け入れていないことの表れだ」と指摘する。
ウェルズ・ファーゴのマクロストラテジスト、エリック・ネルソン氏は、米経済の構造的な減速を示すより明確な兆候が現れれば、ドルは一段と下落基調を強めると分析。その上で「4月のドル相場は非常に変動が激しかったため、当面は柔軟なスタンスを維持している」と語った。

JPモルガンのストラテジストも、ドル売りの妥当性は依然として保たれているとみる。ミーラ・チャンダン氏ら同行のチームはリポートで、米国が関税政策で軟化姿勢を見せていることが他地域の経済成長を後押しし、各国通貨の上昇要因になり得ると分析している。
ジュピター・アセット・マネジメントのマーク・ナッシュ氏によれば、投資家は過剰なドル保有を抱える国・地域を見極め、そうした地域の通貨に対してドルを売る動きを強めている。韓国ウォンやインドネシア・ルピアがその代表例だという。
「アジアは現在、グローバルなレパトリエーションの流れの最前線にある」と同氏は指摘。「投資家は米国から資金を引き揚げている」と語った。
原題:Wall Street Is Down on the Dollar as Trade Unease Lingers(抜粋)
🧠 編集部の感想:
米株が上昇しているにもかかわらず、投資家がドル回帰に慎重な姿勢を崩さないのは興味深いです。米中貿易摩擦やトランプ政権の政策に対する懸念が影響しているようで、今後の動向が気になります。ドル安が長引くと、他通貨との関係性にも大きな影響を与えそうです。
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