トランプ米政権が、ハーバード大学への外国人学生の受け入れを突然禁止した。米国のビジネス上の地位には打撃となり、他の英語圏のエリート大学には優位性を与えることになりそうだ。
香港で約25億ドル(約3580億円)の投資を監督するキーワイズ・キャピタルマネジメントの鄭方氏は、「ショックを受けた」と話す。1996年にハーバード・ビジネス・スクールを卒業した同氏は、この決定は「ハーバード大学の学術的強みを損なうだけでなく、米国の競争力にも悪影響を及ぼす」と懸念を示した。
政権と大学間の対立が激化する中、ハーバード大に対する学生・交流訪問者プログラム(SEVP)の認定を取り消した。同大は今後、外国人留学生を受け入れることができなくなる。金融からビジネスまで、数多くの世界的なリーダーを輩出してきたハーバード大学は、政権との対立の一環で、すでに連邦政府からの資金援助も削減されている。
ハーバード大は23日、政権による措置が合衆国憲法修正第1条および適正手続きの権利などを侵害しているとして、マサチューセッツ州の連邦裁判所に訴状を提出した。
米マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大学キャンパス
Photographer: Mel Musto/Bloomberg
米国の損失
マレーシアのユー・ウェン・クー氏は、 2011年にハーバード・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)を取得し、JPモルガンでの勤務を経て、投資アドバイザーとなった。同氏は、ハーバードで留学生が得る経験は、卒業後の起業や企業内での昇進で助けになり、米国企業が海外展開にも役立つため、卒業生と米国双方に利益をもたらすと述べた。また、外国人学生の受け入れを排除する決定は、米国にとって「損失」だと強調した。
教育システムの柱であり、経済優位の基盤でもある制度を弱体化させる米政府の動きは、約400年の歴史を持つハーバード大に最も多くの留学生を送り出しているアジア地域で、特に深刻な影響を及ぼしている。
今回の決定以前から、一部の留学生は再考を始めていた。米国際貿易局によると、米国への学生ビザでの入国者数は4月時点で、前年同月比11%減の4万1800人だった。半数を占めるアジアからの入国者は、最も大きな減少幅を記録した。
バンコクの大学入学コンサルティング会社エデュスミスで、カウンセリング部門責任者兼アシスタントディレクターを務めるアリサ・カノクワタナワン氏は、米国留学を希望するタイ人学生に対し、選択肢を広げるよう助言していると明かす。同氏は「通常、学生は少なくとも10校の大学に応募するが、現在はイギリス、カナダ、アジア各地の英語プログラムへの関心が高まり、多様化が進んでいる」と述べた。
アムステルダムを拠点とする大学入学コンサルティング会社シンク・スマートの共同創設者ミハル・ガレク・アルドリッジ氏は「ハーバード大学が学生全体の27%を占める国際学生を失うことは、同校の世界的な影響力に深刻な打撃を与えるだろう」と述べた。
不安
匿名を希望する韓国出身のハーバード・ビジネス・スクールのある学生は、政策が急速に変化する中で、MBAに米国での生活ストレスに見合う価値があるのか、疑問に思っていると話す。現時点では、本当に入学を希望するのか決めきれずにいる。
同様に、今秋ハーバード大学に入学予定のシンガポール人学生(19)は、英国の別の大学からの入学許可はまだ有効だが、6月3日までに対応を決定しなければならず、トランプ政権の措置を阻止する裁判所命令が出ることを期待していると語った。
ロンドンを拠点とする大学コンサルティング会社Aリストのクライアントサービスディレクター、サム・コックス氏によると、数年前までは、米北東部の名門私立大8校「アイビーリーグ」やマサチューセッツ工科大学(MIT)からの入学許可は、英国のオックスフォード大学やケンブリッジ大学よりも優先されがちだった。コックス氏は「今では、同じ学生たちが英国を優先する傾向が見られる。理由として、より予測可能で歓迎的な環境を挙げている」と話す。
上海では、「ザ・ズームイン・アカデミー」が提供する、主に若い中国人学生が海外で高等教育を受けるためのプログラムに約100人が在籍する。同プログラムの費用は数万ドルに及ぶこともある。
創設者のグ・フイニ氏は、近年、多くの中国人の親が行動を変え、米国に加え、英国や香港を子供の進学先として検討するようになったと述べた。ただ同氏は、中国の最も裕福な家庭は他よりも米国に焦点を当て続けていると述べ、米国大学教育が依然として超富裕層への一定の影響力を持っていることを示唆した。
今のところ、ブルームバーグ・ニュースが取材した多くの外国人学生たちは、数カ月後に米国で授業が始まるまで、事態の推移を様子見する姿勢だ。
学生や新入生たちの多くは、米国の大学教育は引き続き彼らの夢だと述べた。2013年にハーバード・ケネディ・スクールを卒業し、バンコクのタマサート大学で国際関係を教えるフアディ・ピツワン氏は、その感情がどれほど続くかはわからないと話す。同氏は「トランプ政権は、米国の国際的影響力と、尊重の基盤となった教育システムの開放性という資産を損なっている」と述べた。
原題:Trump Attack on Harvard Students Reverberates Globally (Correct)(抜粋)
🧠 編集部の感想:
トランプ政権によるハーバード大学への外国人留学生禁止は、アメリカの教育機関の国際的競争力を大きく損なう恐れがあります。優秀な留学生を失うことで、アメリカのビジネス環境にも悪影響が及ぶでしょう。教育の多様性が重要な役割を果たす中で、このような政策は長期的に悪影響を及ぼすという懸念があります。
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